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異世界流スローライフにスパイスを  作者: 神埼あやか
魔族と幻獣の二重唱
8/40

しゃべるトカゲと俺。トカゲはお客じゃありません?

 早口言葉初級編を開始する。


「なまむぎなまごめなまたまご!」

「にゃまにゃあめぬぁぎょ」

「なまむー、なまめー、ご」

「にゃ、にゃお、にゃご」


「となりのきゃくはよくきゃくくうかきだ」

「とにゃ……にゃ……」

「とーよーきゃー」

「にゃん!」


 シロの「にゃん」が目の前に火を付ける。

 ペチ、と俺はシロの頭に手を置いた。


「シロ。"にゃん"はだめだって──」


 ぺちぺち、と俺の足をヘレが叩いてきた。


「ぱぱ、メ!」


 言われて見た先には、俺の一言が生みだした火がゆらゆらと揺れていた。

 "にゃん"という言葉が"火"を作るを分かってから、"にゃん"は禁句になった。言ったら一ぺちの刑と決めていたのだが、まさか俺が油断するとはな思わなかった。


「おお、ごめんごめん」

「なあなあ。"きゃき"のなに? "かき"のなに?」


 ヨクトは四人の中で一番発声をがんばっている。

 ただちょっと惜しいんだよな。


「ヨクト。それは"かき()なに"だ。言ってごらん」

「かきのなに……のー、はー? きゃきの、はなに?」

「きゃ、なに?」

「かきは、だよ」


 悪戦苦闘している子供達を置いて、床に置かれたままのホワイトボードに向かう。

 すみっこの空白部分に、紫色のマーカーを走らせて、絵を描いた。

 地面に植えられたタネから出た芽と、育った木と、花と果実。果実は地面に落ちて腐り、新しい芽が出る。


「見てごらん。これがお花の一生だよ。こうやってお花は咲くんだよ」


 ここは草原だから、草花には事欠かない。

 その辺に生えているよくわからない、ナズナっぽい花と、綿毛になったタンポポを抜いて四人に見せた。


「かわいいお花だよね。このお花が作った赤ちゃんが"タネ"だ。タネを守ってくれるのが"実"なんだよ」

「んー?」

「タネは、タマゴの?」

「タマゴ……? そうだね、赤ちゃんのタマゴかな?」


 そういえば、この子たちはタマゴから生まれたんだっけ。忘れそうになるけど──っていうか、忘れてたけど。


「花によっては、食べられる"実"もあるんだよ。"柿"はその一つだね」

「うま?」

「おいしー?」

「うーん。どうだろうね。そもそも、ここにあるのかな?」


 夜にでも、買えるかどうか見てみよう。

 食べなくてもいいとはいえ、思い出したら食べたくなってきた。

 果物……よりも、カレーとか、ピザとか、ポテトチップスとか。俺は固焼きの塩味がベストだと思うんだよ。


「じゃ、きゃく、は?」

「きゃく」


 客、か。そういえば、客ってなんなのか、考えたことないな。まあ、家族以外、ということで。


「そうだね。家族以外で遊びに来た人のことかな?」

「ぱぱ、はきゃく?」

「しらないひと?」

「知らない人も、知ってる人もだよ」


 じゃぁね、とヨクトが家の壁を見た。つられて俺とシロもそちらに視線を向ける。


「あれ、きゃく?」

「え──?」


 "あれ"とヨクトが指すのは、一匹のトカゲ? だ。随分大きなトカゲで、動周りはシロと同じくらいある。

 いや、家にくっついているならヤモリなのか?


「トカゲかヤモリだね。客じゃないよ」

『だれがトカゲじゃ! 無礼者めー!』


 トカゲが炎を吐いて抗議してきた。




 いいかげん不思議な現象にも慣れてきたぞ。うん。

 たとえ目の前に尻尾をふりふりするトカゲがいても。そのトカゲがしゃべったとしても、だ。


『まったく。ようやく魔力が安定してきたと思って、あいさつにきたというのに、とんだ常識知らずがおったものだな』

「はあ、すみません」


 トカゲに説教され中、なう。

 トカゲじゃないというのなら、壁から離れてみてはいかがでしょうか。


『ワシはショートテイル=アルモンド三世という。そなたの名はなんという』

「俺は大神。オオガミ アキラです。えっと、よろしく」

『ウム』


 ショートテイル? 直訳すると短い尻尾、なのか?

 シロの尻尾の四倍はありそうな、立派な尻尾だと思うのだけれど、これでもまだ小さいのだろうか。

 つやっつやの光沢のある尻尾が優雅にうねっている。


『さて、オオガミとやら。そなたがここに呼ばれた理由は存じておろうな』

「知りませんけど……」

『ウムウム。人間どもの魔法への依存は増すばかりである。

 それを思うと、先ほどの"火の魔法(にゃん)"はなかなか良い判断じゃった。なんともない一言で魔法が発動すると知れば、魔法への恐怖が芽生えるかもしれん』

「はぁ……にゃん、ですか」


 うを。また目の前に火が。

 ごめんなさい、すぐ消します。


『やはり、そなたは魔族じゃな。魔力を上手くつかいよるわ』

「はあ。魔族ですか。そうですか。……だから、お腹すかないのか?」

『なにを言うかと思えば。そなたら魔族のエサは"魔力"であろうが。いうなれば、今まさに食事中である。

 人と話している時に食事をするなど、本来は無礼な行為なのだぞ』


 いやぁ、そう言われても困ります──って、魔族! 誰が? 俺が?


『まったく、人間どもときたら、魔力の使い方がなっとらんのだ。わかるか?

 無駄に大量の魔力をつかいおって。半分以上を不活性(ゴミ)魔力にしてしまう。空気中の魔力がチクチクと痛い痛い。

 他種族の事も考え、もっと効率的に魔力(エネルギー)を使ってもらわんと困るのだ。まったく、数だけは増えおってからに』


 ふう、とトカゲは尻尾と頭を振る。


「あの……魔力とか、人間、とか。よく知らないんですけど。教えてくれませんか?」

『うん? なんじゃ? 知らん? それはいかんな。さっさと言わんか』


 ちくしょう。マイペースなトカゲめ。さっさと言ったっての。

 このトカゲにシロをけしかけてやろうか、と邪悪な考えが頭をよぎる。


「にゃぉん」

『この大地が丸いのは存じておろうな』


 シロのやる気を感じたのだろうか、トカゲが早口になった。


「知ってる」

『この大地のずっと上の方に、太陽という光の球がある。この太陽からは、多くの(エネルギー)が降り注いでおり、ワシら生き物の生活をささえてくれている』

「うん」


 そこは知ってる。地球が太陽の周りをまわってるんだよな。


『何種類ものエネルギーが、大地へのエネルギーとして降り注いでおる。その内の一つが"魔力"なのじゃ』


 それは知らない。


「ストップ。魔力って何?」

『へんな事を聞くの。言うたように"魔力"は"太陽が発するエネルギー"の一つじゃ』

「光エネルギーみたいなもん?」

『まあ宇宙放射線の一種じゃな』


 知らない単語だな。宇宙放射線? 宇宙にある放射線みたいなものか? 体に悪そうだな。


『エネルギーは地表で使用された後、北極点から地裏(ちり)へ送られるのだ』

「"チリ"ってなに。国の名前?」

『裏の世界の事じゃよ。ワシら幻獣の住む世界の事じゃ』


 はあ。とトカゲは大きなため息をついた。


『まったく、おまえさんは何も知らんのだな。これでは、先行きが不安すぎるぞ』

「……って言われてもな。誰も教えてくれなかったしなぁ」


 気が付いたら草原に一人ぽっち。いや、一人とタマゴ一個っぽっちだったもんなぁ。


『不安すぎる……仕方ない。この世界の事が書かれた本をもってきてやろう。子供向けしかないが、おまえさんらには十分じゃろ』

「おお、サンキュー」

『ではの。しばしの別れじゃ』


 くるり、とトカゲが背を向けて走りだす。

 どこにいくのかと追っかけてみると、家の近くにぽっかりとあいた穴に飛び込んでいった。

 ……やっぱトカゲじゃん。 


「なんだったんだろうな、アレ?」

「にゃおうん」


 シロを撫でながら、ふと気が付く。

 幼児達が静かだったのはどうしたのか──と姿を探すと、幼児達は寝てました。

 ころんと横になってぐっすり。そうだね、寝てたら話もできませんね。


 ショートテイルさんには失礼かもしれないけれど、トカゲに齧られてなくて良かった。うん、マジで良かった。

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