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異世界流スローライフにスパイスを  作者: 神埼あやか
魔族と幻獣の二重唱
7/40

合言葉と俺。「にゃん」は不思議な言葉にゃん

 昨日は謝ったり謝られたり。俺の保護者としてのスキルが試された日だったけれど、能天気な幼児たちには無問題。昨日の事は昨日の事なのです。一晩寝たら忘れました、という顔をして手をつないで起きてきた。

 ヨクトとヘレの間にあったはずの微妙な距離感──というか、遠慮がなくなって、この数日で一番の仲良しさんである。

 雨降って地固まるとはまさしくこのこと。


 俺は、そんな元気いっぱいの幼児達がホワイトボードにお絵かきをしているのを、少し離れたところで見守っていた。


 コインで買ったホワイトボードは、十二色のマーカーとクリーナーがついているスグレモノである。元々は会議用の大きなサイズだった。

 そのままでは、幼児の身長では届かないから、横についていた留め金を外してボードを床に敷いてみたDIY作品である。

 すぐに幼児達がボードに群がってくる。めずらしいことにメアもその中に混ざっていて、にぎりしめたマーカーを思い思いに走らせていた。

 ちなみに、ヨクトが青色、ナユタが黒色、ヘレが赤色、メアが緑色を選んでいる。シロに渡した茶色のマーカーは、猫じゃらし的に遊ばれて、近くの茂みにポイされてしまった。


 蹴り捨てられた茶マーカーを回収して、少し離れたところに座っていると、ゴロゴロを喉を鳴らしながらシロが近寄ってきた。


「なんだ、座るか?」


 いつもなら幼児達とじゃれているのに、さすがに今日はおいてきぼりのようだ。

 まあ、お絵かきに混ざって、白い毛にいたずらされるのは勘弁、ということだろうな。色とりどりになったシロを見るのは、俺も勘弁してほしい。

 水性マーカーでも、シミ抜きは微妙にめんどくさいのだ。


 よいしょ、とオヤジくさい掛け声とともにあぐらを組むと、脚の間にのっそりとシロが乗り込んで丸くなった。


 それにしても、このゴロゴロ言っている白い毛皮は、本当にライオンなのだろうか。超不安だ。

 実はライオンにそっくりな、ただの猫だったりしないだろうか。

 疑問に思いながらもふかふかの毛にそって指を這わすと、喉の音が強くなった。シロの弱点は、耳の後ろと頬から首回りにかけてである。

 ここを毛並みにそって撫でてやると、そりゃぁゴロゴロ言う。されるがままに首を上げたら次のステージである。

 顎の下から首に向かって、ちょっと強めに親指と人差し指でのマッサージ。シロはフニャーと鳴くと、体を倒して脚の間で伸びてしまった。

 マジで大丈夫か。野生はどこにいった?


 だがしかし、期待には答えねばなるまい。

 こっそりスマホで写真を撮る。こんな可愛いペットの写真を撮らないなんて、あるはずがない。待ちうけにしてもいいなぁ。


 べろーんと伸びているシロと、スマホ片手にシロを撫でる俺。

 シロのベストショットが十枚ほどたまった頃、幼児達が声をあげた。


「できたー」

「ぱぱー」

「できたよ、みて」


 ほうほう。

 どうやらお絵かきは終了したようである。喧嘩もなくなによりだ。

 カメラを終了させたスマホをしまうと、シロを抱えて立ちあがった。目を輝かせて俺を待っている四人のところに向かう。


 さて、お子様達はどんな絵をかいたのだろうか。

 どうせ幼児の落書き。丸く書きなぐった似顔絵だろうけれど、もしかしたら俺やシロもいるかもしれない。

 わくわくしながらボードを覗き込んだ俺は、思いもかけないものを見て驚きを隠せなかった。



 それは数字だった。

 しかも意味のわからないアルファベットがくみこまれている。

 なんだこれ? と首をかしげるほかない──しかし、規則性のある配列はどこかで見たことがあった。

 俺は、これに似た式をどこかで見たことがある?


「す、すごいね。よく書けたね」


 動揺を隠しながらも一応褒めておく。俺は褒めて伸ばすタイプだ。


「えへー」

「ほめて」

「にゃーん」


 シロも四人を褒めるように鳴いている。

 すごいすごいと笑顔の幼児達を褒めていると、「ぱぱ、よんで」とご指定がかかった。


「よむ? これを?」

「そう。えっと……」

「えむ、えーひゅ、えくす」

「ぷにゃん、うにゃん……にゃー」

「えぴえくしゃす……」


 幼児の拙い声では、コレを読むのは難しそうだ。

 それでも一生懸命に声に出そうとしているのが分かって、微笑ましくなる。


「Mfx?」


 最初の単語を読むと、子供達はキラキラした目で俺を見上げてきた。

 なんか、まぶしい。

 ごめんな、ただの大人で。中学卒業していれば、これを読むくらいはアサメシマエなんだよ。

 腕に違和感があると思ったら、なんとシロまでが体をひねって俺を見上げていた。すっごい体が柔らかいのな。さすが猫だ。


「ぜんぶ!」

「ぱぱ、ぜんぶいって」


 これを全部読むわけですか。

 とはいえ、いくつかどう読んだらいいかわからない記号が混ざってるな。


「"()"は何て読むんだ?」

「ないない」

「ないの」


 ふむ、カッコとカッコとじは読まないと。


「","は?」

「こんまー」


 フム。

 そうするならば。


「えむえふえっくすいこーるえふあいえふよんこんまいちこんまいちこんまぜろこんまに、かな?」

「へたっぴー」

「うわぁ……」

「ぱぱ、ざんねん」

「もっかい」


 "Mfx"も言えないお子様にリテイクくらったよ、ちくせう。


「Mfx=fif4,1,1,0,2」

「おしい」

「だめー」

「パパ、へた」


 惜しいってなんだよ。シロまで前足で腕をポンポンしてくる。なぐさめられてるのか、ダメだしされてるのか……かわいいから許す。


「はいはい。えっと──Mf(x)=Fif(4,1,1,0,2)」


 パン、と目の前に火が生まれた。

 は?


「できた!」

「とうろくー」

「ぱぱ、いそいで」

「パパ──」


 四人が何か言っているが、よく理解できない。

 何これ。

 火──え、火なのか?


 そこに火があったのは、ほんの数秒ほどだった。

 茫然としている俺の前で、火は小さくなり、あとかたもなく消えていった。


「夢、だもんな。うん。夢の世界だもんな。何でもアリだよな」

「ぱぱー、もっかい」

「もっちゃい」

「にゃうん」

「……ああ、もう一度、な」


 もう一度──そう、もう一度試して、あれが本物かどうか確かめてみよう。

 もしかしたら、睡眠不足の頭がみせた幻かもしれない。


 全く眠くならないうえに、ココが夢の世界だっていうツッコミはなしでな。


「Mf(x)=Fif(4,1,1,0,2)」

「"="」

「にゃん」


 やっぱり火が生れた。

 消える前に急いで手をかざすと、ほのかに温かい。

 なんということだ、本気で本物の"火"じゃないか。


 がっくりする俺の前で、子供達は喜び回っていた。

 なんだ、どうしたんだ?


 すう、とヨクトが息を吸った。


「にゃん!」


 何をしているんだ? 

 シロのマネか?

 かわいこぶってるのか?


「にゃん」


 続いたヘレの言葉に、小さな火が生れて消えていった。キャーと喜びの声を上げたヘレは、俺の足に飛びついてきたけど。

 え? 何これ。どういうこと。


「にゃん」

「にゃん」


 メアとナユタも目の前に火を生み出す。二人は「やった」と声をあげて手を取り合って喜んでいる。

 失敗したヨクトは、恨めしげな顔でメアとヘレを交互に睨んでいた。


「にゃん」


 流れに乗ってシロも鳴く。って、これは試していたのだろうか? 当然のように何も起こらないわけで。


「にゃん?」


 俺の呟きが、最後に小さな火を生みだして、消えた。


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