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授業をうける俺。人族の国についてお勉強

「人が始祖は世界をおつくりになった神と同一である、と人族は考えております」


 俺達を前にして、隊長の人族講義が始まった。


「始祖には三人の御子がおり、それぞれの末裔が葉国(ようこく)──すなわち、一葉(ひとつは)二葉(ふたば)三葉(みつば)の王族となりました。

 世界創造がなされて後、世を去るときに始祖は言われました。『我、一つ世界に帰還せん』と。

 始祖の望む"一つ世界"。これを実現することが、人族の使命となったのです。

 人々は”一つ世界”を求め、葉国で争うようになりました」

「はい。質問」


 俺は手を上げた。

 質問する時は手を上げる。うん、日本人には当然の事である。


「一つ世界って何なんだ? なんで人同士で争うことになるんだ?」

「一つ世界が何なのか。百年近く議論しておりますが結論はでておりません」

「じゃぁ、どんな世界かわからないのに、争ってるってことなのか?」


 俺の言葉に隊長は頷いた。


「えー。でもオカシクね? それって、オレとメアとヘレが喧嘩してるってことじゃん」

「おかしいの。パパなら止めるの」

「そうよ。私たちが喧嘩していると、パパは怒るわ」

「だよなー」


 ヨクト達が変だと囃し立てる。確かに、子供(ヨクト)達や、その子孫が争いあっているのを見るのは嫌だ。人族の始祖も、そんなの嫌にきまっている。


「そのように考えた者もいます。争いが嫌だと逃げ出した者達は別の国を作り上げました。始祖を神と奉い、争いを避けている宗教国家──茎国(けいこく)です」

「なんで、始祖を奉ってるの?」

「”始祖を奉る国”を攻めるということは、”始祖”に剣を向ける事になる。という理屈です」


 正直、屁理屈だと思うんだけどなぁ。

 それより気になるのは、隊長が「争いが嫌だと逃げ出した者達」と言った事だ。逃げ出す、というのは良い表現じゃない。

 隊長は茎国を下に見ていると思って良いだろう。

 そう思っているのは、隊長個人なのか、二葉の教育なのか。葉国の共通認識なのか。人族の常識なのか。


 もし、葉国の共通認識なら──ちょっと面白いかもな。


 ヨクトには友好的にと言ったけれど──勿論嘘じゃないけれど──友好的に接するのは”二葉”じゃなくても良い。わざわざ人の家にちょっかいだしてきた国じゃなくて、もっと他の友好的な相手を探すという道だってあるわけだ。


 二葉は国をあげて”薬草”を求めている。すっごい薬の原料になるというレアアイテムを欲しがっているわけだ。

 じゃぁ、それが。喉から手がでそうなほど欲しい薬草が、今まで下に見ていた国で出回り始めたら──プライドが高い国はどうするだろうか。


 しかもラッキーな事に、その国を攻めることはできないときている。

 ハンカチを噛み締めながら、悔しい思いをするのだろうか──いいじゃないか。


「パパ。変な顔してるよ?」

「ああ、ごめん」


 悪い事考えていたのは俺なんだが、変な顔というのはちょっとショック。

 もっと、こう。キリッとしなくては。


央国(おうこく)は、始祖がお住まいだった家が残されています。その保護のために(いくさ)をしかけることは禁止されているのです。この国では、商業的な争いがほとんどです」


 人の世界ってメンドクサイな。


 以前地図を見たように、人の世界は三つ葉のクローバーの形をしている。

 その上側、葉っぱの部分にあるのが三つの葉国で、ここは戦争をする国のようだ。

 中央部にあるのが、央国。重要文化財が残っているから、物を壊すような戦争はダメ。やるなら経済戦争と。

 下側、枝の部分にあるのが茎国。もともとは葉国の住人で、戦争から逃げた人が集まってできた始祖教国家。こういうことか。


「なぁ、王族ってえらいのか? 百人隊長ってすごいのか?」


 ヨクトの質問は、国というよりも隊長個人に向けられたものだった。


「王族は偉いです。なぜなら、王族は始祖の御子の直系なのですから。始祖にもっとも近き存在であるのですから」

「どういうことだ? 始祖にとれば、王族も平民も同じじゃないのか?」

「ええと。なんと申しましょうか……」


 そんなに変な質問だっただろうか。隊長が言葉を濁している。

 答えをくれたのはヘレだった。


「ねぇ、パパ。私たちとシロはパパの直系よ。魔族の始まりからパパの側にあるわ」

「ああそうだな」

「目の前の隊長はどうかしら? 後ろの兵士たちは? 今も空を泳ぐ幽霊たち。海底城を守る骨たちも。みんな”魔族”であることは変わらない。

 パパは、彼らを私たちと同じように家族だと思う?」

「いや」


 いや、違う。骸骨や幽霊達とヘレ達は違う。

 だって、ほら。骸骨達は、どこからともなく子供達が連れてきただけで、俺の家族じゃないし。

 人族もそういうことなのか?


「さて、百人隊長ですが。これは百人の部下がいるという称号になります」

「ひゃくにん! すっげー」

「ありがとうございます。ですが、実際はそこまで重要な地位ではありません。一定以上の貴族の子息に与えられる地位なのです」

「百人の部下は、護衛か?」

「そうです」


 百人の護衛がつくって、どこのお坊っちゃんだか──おっと、王族でしたっけ。

 となると、なんだ。実際の兵士はもっとたくさんいるということか。さすがは好戦国、やっかいだな。


「ゴエイ、って守ってくれる人のことだよな。じゃぁ、なんで海底城にいたんだ?」


 ヨクトの疑問はもっともだ。王族のお坊っちゃんが、どうしてあんな危険なところにいたのか。しかも超好戦的な感じで。

 好戦的だった骸骨兵士たちを見ると、こいつらわかりやすく視線を外していた。まったく、空気読める骸骨なのは相変わらずだ。


「海底城はまったく新しい世界です。上位の王族の中に、海底城が”一つ世界”に繋がっていると考えた者がおりました。そこで、宮廷騎士に城の攻略を命じられたのです」

「護衛、百人いなかったけど」


 ひいふうみい……骸骨兵士たちを数えても、九人しかいない。百人には全然足りないんだけど。


「青き玉は対象をランダムに飛ばします。あの時は三百人近くが一度に転移しましたから、十人が同じ場所に出れたのは幸運でした」

「ある意味、運は悪かったな」


 うーん。なんというか申し訳ない。でも全部、あの目玉クラゲ(クリーチャー)が悪くて、俺は悪くないといいな。


「あのとき、伝令を返さねばよかったと後悔しております」

「……返さなければ、もう一人いたのにって?」


 ちょっと、この隊長も黒い黒い。なにこれ、ゾンビは生きた人間を襲うのがデフォルトだけれど。骸骨もそうだっけ?


「仲間を一人失ったことは、非常に残念です」


 隊長に倣うように、骸骨兵士達もうなだれていた。

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