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新しい住人と俺。無罪と無関係を主張します

 吐き気が収まるのに十分くらいかかってしまった。

 吐いてしまえば楽になるとは言われるけれど、一月近く食事をしていない俺の胃は空っぽだった。そんな状態ではどうしようもなくて、結局「忘れろ。忘れろ。忘れろ」と唸ることしかできなかった。


 それでも、時間をかければ回復できる。

 精神ダメージの回復率の低さ──いや、数十分で回復できるのはすごいのか──を感じさせられる十分となってしまった。

 一人ぽっちの精神ダメージくらっていたナユタは、ずいぶん寂しかっただろう。それが、あのスネスネ状態に繋がったかと思うと、もうちょっと早く助けられなかったかと残念に思う。

 もう大丈夫だとは思うが、ナユタの頭を撫でておこう。


 なんとか取り戻した平常心で、兵士達がいた部屋を覗いてみる。動く兵士達の姿はなく、ただ真っ赤な水がたゆたっていた。その赤い水の中を、武装した骸骨達が歩いているのも見える。

 恐怖のクラゲは……良かった。いないみたいだ。


 なんで水が赤いのかとか、その骸骨はどうして武装しているのか、とか。考えて良いことだろうか。

 いや──答えはすぐにでるけれど、知らない方がいい事も世の中にはあるのだ。



 ヨクトとナユタを後ろに下げて、一人で部屋に入ってみる。

 この部屋にいるのは骸骨だけ。特に罠もなにもないのを確認して、二人に部屋にはいるように促した。


「おぉー。スゴい、強そう」


 骸骨兵士達のごっつい武器防具を見て、ヨクトは嬉しそうだ。

 俺としては、肉がどこにいったかの方が気になるんだけど……。いやいや。気にしない、気にしないんだった。


「結局、あの兵士達はなんだったんだろうな?」


 他の骸骨兵士に比べ、ゴージャスな飾りのついた鎧の骸骨兵士に話しかけてみる。

 どんなに近づいても骸骨は敵対反応を見せず、のんびりと歩き回っているだけだ。むしろ道を譲ってくれるとか、紳士的な一面もある。

 どんなに紳士的であろうと、相手は骸骨。死人である。

 なんのリアクションも期待していなかったのだが、このゴージャスな骸骨兵士は予想外の反応を見せた。


「ワ……レラハ、二葉(フタバ)ノ兵士。海底ノ城ノ、攻略ヲ命ジラレシ者ナリ」

「しゃ、しゃべった?」

「すっげーすっげー。どうやったの。なぁパパ、どうやったんだ?」


 なんと骸骨兵士が流暢に喋りだしたのだ。言葉の合間合間に、カタカタと顎の鳴る音もしている。

 すごくビックリだ。

 他の骸骨達はなんの反応も返さなかったのに、このゴージャス骸骨兵士は特別製らしい。尊敬の意をもって、隊長と任命するとしよう。


「海底城の攻略って、なんのことだ。そもそも、どうやってここに来たんだ?」


 そうそう。これは不思議だったんだ。

 スマホをつかわないで、こんな海の底までどうやって来れたんだろうか。


「青キ玉ハ転移ノ玉、ユエニ」

「転移の玉?」


 青き玉──っていうとあれか、青いガラス玉。それが転移の玉?

 転移の玉ってなんなんだ?

 これは、詳しく聞く必要があるな。




 聞かなきゃ良かったと思わざるを得ない。

 じっくりしっかり確認したところによると、現在、人の国は開墾ラッシュなのだという。

 というのも、ちょっと大きな町には必ず奉られている”神の青き炎”。この炎が、遠方の炎と繋がっていることが発見されたからなのだそうだ。


 ところが残念なことに。当初、繋がるのは”青き炎”と”青き炎”だけだった。しかもランダムに飛ばされるという、意味不明っぷり。

 これでは困る。もっと実用的にならないかと考えられたのが、”青き炎”を閉じ込めた”青き玉”だった。一回転移できるくらいの小さな炎を閉じ込めたガラス玉だ。それを使うことで、元の炎まで飛ぶことができるというのだ。”青き玉”出発で”青き炎”へと移動できる。これは必ず元の炎まで飛ぶ。

 "青き炎"からは、別の"青き炎"か、分けられた"青き玉"か、ランダムでの移動になるという。

 不便というか、なんというか。そのあたりは今後の課題というところなのだろう。


 つまり。泥棒の忘れ物の”青いガラス玉”は、忘れ物ではなかったことになる。次回の窃盗の目印にと、置いていったものだったわけだ。


 しかも、二葉とかいう国では、ハーブは相当な貴重品だったらしい。

 泥棒がもって帰ったブルーベリーや猫草は、家族四人の十年分の生活費に化けたという。泥棒が幸せになるとか、イライラが増すんですけど。マジで腹立つ。禿げてしまえ。


 とにかくも、もって帰ったハーブが高く売れたことで、俺達の庭はお宝の山だと判断された。泥棒候補は先を争って我が家に来たがった。

 我が家に来るためには、元の青い炎からのランダム転移にチャレンジするしかない。下手な鉄砲も数打ちゃ当たる──そんな意気込みでお宝を目指した人々を襲ったのは、海だった。

 何も準備しないまま海底に放り出された人々は溺れ死に、骸骨(アンデット)となって海底城の住人となったのだった。


 考えたくないけど。脱出ゲームの攻略に関係なかった、大量のリュックサックとか。部屋にみっちり詰まっていた骸骨達とかは──そういうことなんだろう。


「人が来ないためにはどうしたらいい?」

「ギ……青キ玉ヲ壊スベシ。目的地ガワカラナケレバ、転移ノ仕様ガナイ」


 ああ、まぁ。そうか。

 忘れ物だと思っていたから、海底とはいえ保管していたんだが。悪意ある置物、窃盗用の目印だというのら、壊すことにためらいはない。

 そうときまれば、さっさとすませよう。


「ヨクト、ナユタ。この青い玉な、泥棒が置いていった、悪い物だった。だから、全部集めて壊さないとだめみたいだ」

「ふーん。ん? え、っと。ダメって、それ全部?」


 ヨクトが部屋を見回して言う。

 うん、俺も気がついたときにはショックだったよ。だって、この部屋──すっごいごちゃごちゃしてるんだもんな。

 壊れた骸骨の骨があちこちに散らばり、リュックサックの中身はいたるところに散乱している。

 この中からガラス玉を探す──しかも、ガラス玉は全部でいくつあるかも分からないのだ。

 なんとも時間のかかりそうな、しかも地道な作業である。


「ゴ……命令、ガアレバ。全テ、壊シマス。炎モ──玉モ──異物ノ全テヲ」


 隊長の言葉に、一も二もなく俺達は頷いた。


「じゃぁ、頼むな」

「ヨロシク」


 おしゃべりするだけじゃなかった。命令に従えるなんて、この隊長は相当良いスペックのようだ。これで青いガラス玉は全部処分してもらうことにしよう。


 ガラス玉を処分できれば、もう泥棒候補が来ることもないだろうし、兵士達が送られてくることもないだろう。

 こちらとしては泥棒も兵士も、まっぴらごめんなんだよ。


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