家を手に入れた俺。ただしベットルームオンリー
『お知らせ』
スマホで自宅マップの変更が簡単にできるようになりました!
アプリケーションの追加により、いくつかの機能が使えるようになりました。
【自宅レイアウト変更】
画面をタッチして、タイルを操作しよう。操作できるタイルはコインを消費することで増やすことができるゾ。
・自宅って?
・自宅タイルの選び方
・特別なタイル
☆新しい自宅を作る
【内装変更も可能に】
家具購入ボタンから、いろいろな家具を購入してね。タイミングによってはレアアイテムを手に入れられるかも?
・家具の買い方
・家具を置いてみる
・特別な家具
【コインとは?】
一日に一枚、ゲットできるお金のことだよ。他にも、シークレットイベント(秘密)やスペシャルイベント(ナイショ)をクリアすることによって、沢山のコインを手に入れることができるよ。探してみてね。
おそるおそるスマホを起動させて、出てきた画面に唖然とした。
なんなのだろうか、これは?
自宅。自宅を作れというのだろうか?
いや、そもそも。メールが届くということは、電波が通じてるということなのか?
でもスマホは圏外のまま。電波はカケラも受けとっていないようなんだけど……。
あやしい。
あやしすぎる。
これは無視するのが一番だ。
うん。
むし、ムシ、無視……。無視……するんだ。するべきだ。
俺は画面から目をそらそうとした。したんだ。嘘じゃない、と思う。
初期タイルはたったの九枚だった。
しかも縦横三枚。周囲にくるりと壁を作れば、それで終わってしまう。
真ん中にちょっぴりのスペースが残るのが救いだが、それにしても狭すぎるだろう。
早急に拡張せねばなるまい。
しかも、タイルには風呂やベットがついていなかった。なんとこれらは家具だというのだ!
うーむ。どう設置するべきか。
確かにベットは家具だけど! キッチンも家具屋で売られてるけど! くそぅ。風呂・トイレがないなんて。
しかも今の家には空きタイルは一枚しかないときた。
これでは設置できる家具は一つだけ。
風呂にするか、ベットにするか……。
いやまて。
拡張するという手もある。
今日のコインをいれて、手持ち四枚だ。縦三横四にすれば、空きタイルは二枚になるな。
だがそうすると、もしもの時の余裕がなくなってしまう。貯蓄は大事だ。
ぐるぐると悩んで、悩んで──のんきに昼寝をしている子供達のことが目に入った。
そういえば忘れていたけれど、寝るところがないんだった。
タマゴを割るまでの三日間、硬い地面に寝転がって野宿の辛さを味わっていたのを忘れていた。
ならば、最初に設置するのはベッド。ふかふかのベッドしかあるまい。
どうせなら、五人が横になれる大きなベッドがあるといいんだがな。
一時間の格闘の後、俺は満足のいく家具を見つけてホクホクしていた。理由は分からないけど、ベッドだけで百種類もあったんだよ。それぞれに特殊能力やコメントがついているから、ついつい読みふけってしまった。
どうせ時間つぶしのお遊びだけれど、楽しかったな。
早めに家を手に入れないとな──と思いながら、保存から終了をクリックする。
自己満足だけど、良い仕事をしたと思う。
リビングもダイニングもキッチンもないけど、安心して昼寝ができる家を手に入れることが必要だな。
食事はいるんだろうか。おなかすいたとは言われていないけど、はたして?
子供達を一番に考えて悪い事はないだろう。かわいいしな。うん、小さい子はかわいい。
特にヘレとメアだな。悪ガキ二人とは別枠だ。
ヘレは目がパッチリしてるところと、雨宮のミニチュアっぽいところがイイ。雨宮の妹か娘だったらこうなるんじゃないかという、願望そのものだ。いえ、まだお付き合いもしてないんですけどね。想像は自由だ。
そういうわけで、あの子に「パパ」ってよばれると無条件でよしよししたくなる。
メアもかわいいぞ。とはいえ、メアはひたすら寝てるんだよな。悪いことはしないが、いい事もしない。
俺の左腕に陣取って、ひたすら寝てる。でもその様子に、コアラが思い出されてぐっと来る。かわいい。コアラかわいい。ユーカリあげてみたい。
悪ガキ共はハムスターだな。
落ち着きなく動いていて──なんというか、小動物が縄張りの確認をしてるみたいな感じ。双子だからだろうか、ニコイチでシンクロしてるのも、微笑ましいものだ。
意味なく撫でた時の「何コイツ」ってビビッた感じが、飼っていたハムスター達を思い出させる。ふわっふわのもこっもこの真っ白いメタボハムスター達だったんだが、時々ケージにルンバがつっこんでいって大きな音をたてる。その時に、あいつらがビクッと体を震わせて、周囲をうかがっている感じ。あれに似てる。
なんだか、納得がいった。
どうして子供達をかわいいと思うのかと、不思議に思っていたのだ。まさか、男の癖に母性本能を目覚めさせられたのかとドキドキしたが、そういう事だったのだ。小動物に対する愛だったのだ。
すべからく動物は赤ちゃんの時が一番かわいいというからな。
しかも舞台は俺の夢の中である。
俺がメロメロになっても仕方がないのだ。以上、証明終わり。
「ぱぱ」
「お? 起きたか。どうした?」
「おうち」
ごろんと転がったヨクトが組んだ足の上にのしかかってくる。同じように転がり、反対の足に体重をかけるナユタの頭をなでて──二人の様子は、まさしく人なれしたハムスターそのものだ──ヘレに声をかけた。
ヘレは大きな目をいっぱいに見開いて、空を見上げていた。
「おうち……」
「オウチ? ああ、お家欲しいね」
三人が起きても、まだメアが眠り続けているのを確認する。っていうか、寝ぎたなすぎるんじゃないだろうか、さすがに。
メアの将来が大分不安になってしまった。
「いえ……」
ヨクトとナユタも、同じ色の目を見開いて上を見ていた。
どうしたんだろうか。何か面白いものでも見えるのか、と俺も後ろを振り返って。
少し前まで存在しなかったはずの【家】を見つけて──夢って怖い、と呟いた。