脱出ゲームと俺。骸骨達がむっちり詰まった悪夢
脱出ゲーム──それは、ひらめき。
脱出ゲーム──それは、作成者との駆け引き。
脱出ゲーム──それは。
「めんどくさいっつーの!」
目の前に並ぶ五色のボールを見て、俺は叫んだ。
ヨクトは緑色のボールを壁にぶつけて遊んでいる。およよーん、と変な音をさせて、ボールが転がっていた。
エントランスからこっち、ナユタの足跡を追いかけているものの、次から次へとクイズが出てきて困る。
っつーか。コレ絶対ナユタはクリアしてないだろ。背がたらなくて物理的に無理な問題がたくさんあったからな。
なんで俺達だけ足止めされなくてはいけないのだろうか。
ため息も文句も出てくるというもの。
今もまた、わけのわからないクイズの前にいるのだ。
目の前には「むしエ」と書かれた扉があり、扉の手前には石でできた台座がある。台座に開いた七つの穴のうち、左右の端に赤色と紫色のボールがそれぞれ固定されている。ほかのボールは床に転がっているから、正しい位置にはめろ──という事だとは認識した。
認識はした。が。
じゃぁどういう順番かといわれると、わからない。
なんだろうね、ムシエって。誰かの名前?
うーん。七色、といえば虹、レインボーだけど。
色もそれっぽいけど。ムシ……ムシ……。
わからないけど、虹だと思って進めてみようか。
脱出ゲームって、ほとんどノーヒントなんだよな。何したらいいかわからないしさ。だからキライなんだ。
ぶつぶつ言いながらボールを填めていくと、正解だったらしく扉が開く。「すげー」と喜ぶヨクトと一緒に、次のステージへと進んだ。
次の部屋は脱出ゲームらしくない部屋だった。
何が変──って、床にリュックサックが転がっているのだ。それも一つや二つじゃない。ぱっと見ただけでも十個近くの荷物がつまれている。
ついでに、部屋の中にはみっちりと骸骨達がつまっていた。
これは、アレか。脱出ゲームが始まってしまって、部屋を出入りできなくなって、つまっていたと。
やっぱりゲームは良くないって。先住民に迷惑がかかってるじゃないか。
「ばいばーい」
「またな」
俺達が開いた扉から骸骨達が去って行く。消えていく骸骨達ををヨクトと見送った。
さて。持ち主がいなくなったところで、リュックサックを漁りますか。
リュックから出てきたのは、日常品だった。服とか、食べ物とか、娯楽用品とか。あ、冒険マガジンゲット。五冊もあるけれど、海水に濡れてべちょべちょになっている。読めるかどうかも怪しいけれど、読めたらラッキーということで持っていってみよう。
他にめぼしい物は、濡れたナイフくらいだろうか。攻略アイテムじゃないし、持っていくのもめんどうだ。捨てていこう。
「パパ、コレが落ちてた」
「お、サンキュ……う?」
ヨクトが見つけてきたのは、どこかで見たことがある青いガラス玉だった。コレって、泥棒が持っていたアレだな。
それはいらないよなぁ。ゲーム攻略に必要とも思えないし、置いていこうか。
見たくない物見ちゃったな──って、増えてる!
ヨクトが持ってきたガラス玉は二つ。なんと憎らしいガラス玉は増殖していたのだ。
もちろんガラス玉は真ん丸のツルツル。少しの傷もついていない。
そんなのが二つとか、どうなってるんだろう。
なんで無機物が増殖してるのか。
いやだなぁ、と思いながらもヨクトにガラス玉を捨てるように言う。
こういうところだけ雰囲気を読めるイイコのヨクトは、ためらいもなくガラスを投げ捨てた。
二つの玉が床に落ちて転がる。揺れながら落ちていったのは、揺れる海水のせいだろう。
海底城は脱出ゲームの舞台になっていて、まるで地上のような感じがする。俺達も、アイテムも水に濡れることはないのだ。ロウソクには火もついていたし。
けれど、ゲームに関係ないアイテムにとっては、ここは海底のまま。
先ほど手にしたリュックサックも濡れていたし、ナイフの柄は湿っていた。さっきナイフをゲームと関係ないと判断したのはそのためだった。
揺れながら落ちていった、ということはガラス玉も関係ないアイテムのようだ。
ならば良し。放置決定。
それよりもナユタを追いかけないとな、と俺達は扉のクイズへと向かった。
簡単だったら良いなぁ。
「コインがいっぱいある!」
「いっぱいって、ええと……十三枚か」
ヨクトが見つけた十三枚のコイン。その前には天秤が置いてあって、そこには「あと二回」と書かれていた。
「あと二回……使える回数か?」
「つかってみる?」
ひょい、とヨクトが左右の皿に金貨を一枚ずつ乗せる。天秤は少し揺れた後、釣り合って止まった。
カウントは「あと一回」に減っている。
それで、どうしろというのか。
困って扉を見ると、木の扉に彫刻がされていた。
それは、釣り合わない天秤。上がっている天秤の皿にはコインが一枚彫られており、下がっている皿には凹みがあった。それは、丁度コインをセットできそうなサイズである。
今回のクイズは、十三枚の金貨から、重い一枚を探しだして扉にセットしろと。秤は二回まで使用可能だと、そういうことのようだ。
なるほど──かなり有名なクイズだ。簡単で良かった。
「よーし。今回もさっさと終わらせるぞ」
俺は天秤の使用回数をリセットするために、皿に乗ったコインの上にコインを重ねていった。
え、答え?
簡単なので略。
略。略、略、略。ついでに中略。
細かく説明してもつまらないもんね。
脱出ゲームの理不尽さを知りたいなら、自分でプレイするのが一番だよ。短気な俺には向かなかったけどな。
そんなこんなで最後のステージである。
「ナユタっ」
「どこの桃姫だ!」
開いた扉の先にはどでかい幽霊クラゲがいた。その頭の部分にナユタは引っ張り込まれていて、のん気な声で「ヘルプ」と言っている。
どこかの桃姫のほうが必死に助けをもとめている。もっとキャラクターになりきるべきである。
とはいえ、ここのクリア条件はわかった。どうにかクラゲをやっつけて、ナユタを助けてれば良いわけだ。
手元にあるアイテムは"塩剣ソルティブレード"と"ピンクの宝石"である。ついでに"濡れた雑誌"も。
どれをつかうか、というと簡単だ。
相手は幽霊クラゲ。
手に持つのは破邪の剣ソルティブレード。
俺は塩剣を設置したときに、子供達に言った。
アンデットに効果的な浄化の剣。ダンジョンボスにクリティカルな特別な武器だと。
あ、勿論海水に溶けないように気をつけて持ってきてるよ。
なんといっても塩剣だからね。何回か溶かしたけど、攻略アイテムはちゃんと復活してくれるので良かった。
今はビニール代わりの幽霊魚の脱け殻に保護されています。セーフ。
これを幽霊クラゲに使ったらおしまい。三人で家へ帰れる。きっとヘレもメアもシロも、首を長くして待ってるぞ。
いゃあ、長い脱出ゲームでしたね。
もう二度とごめんだ。




