空とぶ魚と俺。個人的にはシャチの勝ち
色とりどりのカラフルな魚達が空を泳いでいた。
大きいのから小さいのまで。
ヒラヒラしたのからシュッとしたもの、キリリとしたものまで色々だ。様々な種類の魚達が、キラキラと空を彩っている。
それは、例えばサンマっぽい群れだったり、イルカっぽい一群だったりした。正直いうと、イルカやシャチが出てきた時には驚いたが、最後には馴れた。今後、クジラが出てきても驚くことはないだろう。
まあ、あれだ。
半透明のカラフルな魚が空を泳いでいるというのは、あんまり見ない光景だ。せっかくなのだから、楽しまなくては損というもの。
きゃいきゃいと騒ぐ声が聞こえる。
賑やかな声はヨクトとヘレのものだった。二人はどちらが一番かで争っているのだ。
子供達は釣った魚の大きさで勝負をしていた。
超長ーいリュウグウノツカイを釣ったヘレと。
ぷっくり太ったシャチを釣ったヨクト。
二人とも凄いなーと誉めたら、なんでか揃って拗ねてしまったのだ。はてさて、理由はなんなんだろうか。
ナユタはヨクトに抱っこされて昼寝中だけど、ときどき煩さそうに首を振っている。あ、物理的抗議が入った。
小さな手を頭の回りで左右に振っている。
うるさーい。じゃまー。というところだろうか。
その点メアはすやすやとお休み中だ。ちょっと重いと感じるのは、メアが育ったからなのか、俺が縮んだからか。
筋トレにちょうど良いメアを抱え直して、シロを探す。
少し離れた所で、シロは魚の切り身にむしゃぶりついていた。
シロ的に好感度が高いのは、切り身。ついで骨。最後に幽霊の順番のようだ。俺のイカには寄り付きもしなかったので、生物は幽霊よりも好感度が低いのだろう。
イカは可哀想だから海に返しておいた。もう一回腕を突っ込んだら、生きたまま返せたのだ。キャッチアンドリリースです。
ああ。のんびり。気持ちが良い昼じゃないか。
天気も良いし、シロはかわいいし、子供達も元気だ。
ちょっと空を幽霊が飛んでいたり、プールを骨が泳いでいたりするけど。小さなことだよね。
朝の出来事はしっかり消去して。
のんびり、のんびり──
「俺だってば!」
「ちがうもん。ヘレだもん!」
ヨクトとヘレがまだ言い争っているんだが。仲裁するべきか、ほっておくべきか。
「なんだと!」
「うー!」
ぎりぎりと二人が睨み合っている。手が出る前に止めた方がいいよな。
「あー。二人とも……」
「消えろ!」
「消えちゃえ」
腹をくくった俺の仲裁を、二人の高い声がかき消す。
ヨクトがリュウグウノツカイを睨んだ瞬間、リュウグウノツカイが弾ける。まるで空気を入れすぎた風船が弾けるような、そんな光景だった。
ヘレが「消えちゃえ」と言った時、シャチは消えた。それは、シャチという絵を消しゴムで消していくかのように、端から少しずつ消されていったのだった。
こうして二匹の巨大魚は影も形もなく消え去った。
俺──疲れてるのかな。
「もう一度、ショーブだ」
「うん。こんどは勝つもん」
残ったのは、やるき満々の二人だ。
「今度は、どういう"大きい"が勝ちなのか決めておくようにな」
「うん。パパ、見ててね」
「てってーてきに、文句なしに勝ってやる!」
二人は睨み合って、寒天スクリーンの前に立つ。
それにしても、ヨクトはいいかげんナユタを放すべきじゃないだろうか。どう見ても邪魔そうだ。
「おおい、ヨクト。ナユタを……」
うわぁい、睨まれちゃった。
まったくヨクトは、ナユタへの独占欲が強くて困る。
双子だからって、あんなにくっついていなくても良いのにな。
「ハイハイ。頑張れよ」
しかし。これは一大事かもしれない。
何がって、このままでは年長者の威厳がなくなりそうだ。
ドメスティックバイオレンスされたり、うざいからあっち行け──とか、言われるようになるんじゃないだろうか。
想像しただけでへこむわぁ。
いやいや。何かあるはずだ。俺じゃないとダメな何かが。
そうだな。
ええと。
な、何か……。
ね、年齢とか。パパと呼ばれるくらい、俺は年上のはずだ。
そうだな。なら教育とかどうだろうか。
ってダメだ。数学なら教えられるけど、そもそも俺は文系だし。難しい事は説明できない。
文系なら国英に強い──とはいえ、日本語を教えて良いのか? という疑問もある。子供向けの童話やお話をしてやるくらいしか思い付かない。
英語なんて、ここにはないだろうしな。いや。冒険マガジンのことを考えればあるのかもしれない。けれど、その英語が俺が知ってる英語と同じとは限らない。
地裏とか魔法がある世界で科学を教えるとか。何の罰ゲームかっての。
一般常識なんて、こちらが教えてもらいたいくらいだしな。
うーん。何かないだろうか。
うんうんうなっていると、ふっと思い出したものがある。
チートなスマホだ。
これだ。これでアドバンテージをとるしかない。
スマホ様のロックをきつくして、俺の威厳を保つのだ!
ふはははは。
スマホ様様じゃないか。
このロックだけは誰にも解かさないぞ。
見ていろよ、おチビ達。
すぐにでも父の威厳を見せつけてやろうではないか!
そう──そのゲームが終わったらね。




