表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/40

魚を釣る俺。ガーデニングとアクアリウム、後に釣り

 寒天スクリーンに手を入れる。

 ぶみゅ、というか。うにょっというか、めちょっというか。なんとも表現し辛い音とともに、手が寒天の中に埋まってゆく。


 手に感じるのは、生暖かい何か。


 水ではない。もっとこう、ねっとりもっちりとしている。

 ああ、つきたてのお餅がこんな感触かもしれないが、餅は熱いもんね。ちょっと違う。


 ガラスを適当な部屋に放り込んで終了。


 最初はどこに置くのが嫌がらせになるかと、必死に考えていた。でも、ヘレに促されてガーデニングを終えたころには、なんかもう、どうでも良いなぁという気分になった。

 でもやっぱり見たくないから、海底にたたきこんでおく事にした。

 青いガラスと青い海。まざりまざって、もう区別がつかない。


 そういえば。海底に置けたんだよね。


 寒天スクリーンに手を入れると、海底に届くという不思議仕様だったのだ。

 びっくりしすぎて、もう、ほんとね。考えるな、感じろってこういう事だよ。


 ん。あれ、手に違和感がある?

 手は今海の中だよね──って、つつかれてる。


 小魚の幽霊が、骨が、集まって来ていた。ひらひらと泳ぐのは、ぷっくりとした腹の金魚のような魚だった。体長も親指くらいだから、五センチほどだろうか。

 まるで餌をつついているかのように、俺の指にじゃれている。痛くはないけれどくすぐったい。

 幽霊につつかれてくすぐったいわけがないので、多分気のせいだ。


 手を左右に振って金魚を散らすと、俺は手を引き上げた。


 仕事終了。と思って手を見ると──金魚が三匹釣れている。

 アレ?




 金魚が空を泳いでいる。

 体の半分はある長い尾びれが風になびく。


 ゆうらゆうらと揺れる金魚を狙って、シロが身を低くしていた。頭を低くして耳を立てると、前肢はぎゅっと縮めて体の下に置いている。今にも蹴りだしそうな後ろ足と、金魚の動きに合わせて揺れる尻尾。

 体は狩の体勢になっているのに、顔は横を向いている。いかにも興味なさそうにみせて、相手の油断を待っているのだ。抜け目なく金魚の動きを追っているのが分かる。


 手の届く高さまで、金魚が降りてくるのを待っているのだろうが──ふ。甘い。


「待てー」

「きんぎょさーん」


 じっくり腰をすえるハンターの獲物を、賑やかなヨクト達の声が追い払った。子供達は跳び跳ねて金魚を捕まえようとしている。

 その子供達に追われて金魚は高く飛び上がると、三方に散っていった。


 散り散りになる金魚を視線で追いかけていたシロだったが、不満げに鳴くと自然な様子で毛繕いを始めた。


「え。金魚? 別に興味ないし。っていうか、金魚いたんだー。知らなかったしー。関係ないしー」

「にゃふん」


 無念そうなシロにアテレコしていると、当のシロから突っ込みが入った。


 よしよしとシロの喉をくすぐって、ちょっと考える。

 子供達も気に入っていることだし、もうちょっと金魚を増やしてもいいかもしれない。

 三匹だけだと、シロが全滅させるかもしれないしな。


 よし。もう少し増やそう。


「おーい。ナユタ、ヨクト、ヘレ、メア。お魚を増やすぞ!」

「わーい」

「ほんとう? おさかな、いっぱいにしてね」

「キレイなの。いっぱいほしいの」


 楽しそうな四人と一緒に、寒天に腕を突っ込む。

 シロの前肢だけは短くて届かなかったため、見学だ。大人しく座って獲物を待っている。


「いいかー。お魚がくっついたら腕を上げるんだぞ」


 言いながら腕を引き抜くと、小さな、本当に小さなクラゲがふよよよとくっついていた。このサイズはクラゲじゃなくてプランクトンだろうと思う。


「パパ、へたっぴー」


 むう。また言われた。ヨクトは本当に口が悪くて困る。


「みんなで一番をきめようぜ!」

「おっきーのが勝ちね」

「おおきいの……」


 だよね。やっぱり大きくないとね。

 大きい魚と聞いて、足元のシロが期待に目を輝かせる。

 尻尾がご機嫌に振られていた。


 皆が楽しそうでなによりである。が、ここは年長者としての意地の見せどころであろう。


 俺が釣るのは金魚とプランクトンだけじゃないぜ!



 意気揚々と腕を突っ込んだ結果──元気に動き回る生イカを前に、俺は挫折を味わったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ