表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/40

不法侵入者と俺の庭。怒、怒怒怒怒

 十日間、寝て起きてスマホに向かって。眠くなったら寝て起きてスマホに向かって……という自堕落な生活を繰り返していた。

 引きこもりも楽しかったけど、そろそろカビりそうである。庭とプールも気になるし、そろそろ外に出ようかねぇ。


 ぐーっと背伸びをすると、肩から背中に向けてボキボキと音がする。ヤバイ。どれだけ硬くなっていたのだろうか。


「ナメクジ、とかー」

「カタツムリ」

「病気……でんせん病……」


 子供達が変な話をしているのは気にしない。

 久しぶりのブラッシングで、ふわふわのシロをだっこするのがマイジャスティスである。うちのシロは癒し系の美猫だぜ。


 ねえねえ、とヘレに腕を引っ張られた。


「おっきなナメクジと、固いカタツムリと、いっぱい死ぬでんせん病と、パパはどれが良い?」

「みゅぅ──ニャオン」


 聞かなかった事にしたい。

 なに物騒な事言ってるの。可愛い顔して相当ですよ、この子。

 腕の中のシロも、前足を振って抗議している──たぶん。


「ん。わかったの」

「せっかくのアンデットだもんなぁ。ぶれないのが一番かぁ」


 アンデット──シロが何を言ったのかは気になるが、ヘレの言うナメクジ以下略よりはマイルドな気がする。たぶん。きっと。だったらいいなぁ。

 アンデットなら水槽の中──じゃなかった、海底城の中に住んでるもんね。画面ごしだから怖くないと思う。こっちを驚かさないし。ちょっと悪趣味なホログラムみたいなものだ。


 大きなナメクジにカタツムリ……いや。考えないから! あり得ないから!

 俺はフワモフの哺乳類が好きです。

 足が多いのも少ないのもノーサンキュー。


 頭を振りながら玄関を開けた俺の目に、ガタイの良い上半身裸の成人男性が飛び込んできた。


 男の茶色い目とバッチリ視線が合って。



 玄関を閉めた。



 なんだあれ、なんだあれ、なんだあれ──!?


 俺達の家に不法侵入者が!


「どうしたの?」

「なんかあったのか?」


 不思議そうにヘレとヨクトが言う。

 扉を開けようとノブに手をのばすのを止めて、俺は深呼吸をした。心臓がばくばくしている。トトトトと、信じられない強さで脈を打っている。


 落ち着け──と、自分に言い聞かせる。


 落ち着け、落ち着け。相手はただのおっさんだ。

 ただ迷い混んで来ただけの、ただのおっさん。怖くない、怖くないよー。

 ただちょっと半裸なだけ、ちょっと変態なだけだから。


 深呼吸を繰り返す。

 ただの露出狂です。害はない。

 子供達には見せられないけどね。


 落ち着いた所でシロを下ろす。

 子供達と一緒にいるように言い含めて、少しだけ扉を開けた。





「いやいや。人が住んでいるとは思わなくてなぁ。驚かせてすまなかった」


 ちっとも悪く思ってなさそうなおっさんは、がははと大口を開けて笑った。

 もちろん、しっかりと服を着てもらっている。


 しっかり鍛えられた体と、剛胆そうな性格──でなくては、他人の家のプールを使おうとは思わないだろう。


 そう。このおっさんは、プールで体を洗うつもりだったのだ。水だぞ、というのはおいておいて。

 数日前から不法侵入していたおっさんは、目の前にある行水の誘惑に勝てなかったのだそうだ。

 何度か家の玄関を叩いたけれど反応はないし。だから空き家なんだと思ったそうだ。


 数日前といえば、引きこもっていた間だ。気がつかなかったと言われればその通りなんだが。


「で、両親はどこだい? ちょっと挨拶をしたいんだが」


 キョロキョロとおっさんは周囲を見ている。


 けれど、いくら探しても両親なんていない。

 だって俺がパパ──この子達の保護者だからだ。


「ここにいるのは、俺達だけだけど」

「ねー」

「……へぇ。こんなところに君達だけですんでいるのか。大変だね」


 その、たっぷりの間はなんだろうか。


 子供達を見る目が、家を、庭を見る目がヤバイ。

 自衛手段を考えなくては。我が家に守りを!


 が、おっさんはそれ以上何もしなかった。「よいせっ」と掛け声を上げて立ち上がると、近くに置いてあった革袋を手にする。何を詰め込んでいるのかしらないが、袋はパンパンに膨れ上がっていた。


「邪魔して悪かったな。俺はこれで帰るよ」

「帰るって……」

「どこに?」

「どうやって?」


 俺達の質問に、おっさんは後方を指さした。


「あそこに"青の扉"ってのがあってな。それが街と街を繋いでくれてるんだよ」

「あおのとびら?」

「うぎゅ!」


 ヘレが首を傾げる。

 奇妙な声はヨクトのものだ。興味をひかれたヨクトが飛び出そうとするのを、ナユタが押さえていた。


 あそこ──と言われて見た先にあるのは、穴。

 地裏との出入り口だと言って、トカゲがさんざん出入りしていた穴だった。


 でもあれって、地裏への扉なんじゃ?

 ん。あれ──なんか違和感がある──?


 あ!


「ぶ、ブルーベリーがなくなってる!」


 ない。トカゲへの嫌がらせに植えたブルーベリーが、あとかたもなくなっているのだ。

 根っこからほじられている。


 誰がこんなことを、って。一人しかいないよな。


「おっさん……その袋の中に何を入れてんだ!」

「げ。いや。じゃぁ、そういうことでな」


 そのパンパンの袋の中身を見せろ──っと、詰め寄る前におっさんは逃げ出した。


 背を向けて走り出そうとする、その袋に向かって魔法を放つ。どうせ殺傷力もない小さな炎だ。威嚇と足止め──もって逃げる袋を燃やして、中身を回収できたらという目論みだ。


「にゃん! にゃん! にゃん!」


 三つの炎が生み出されておっさんに向かう。

 大きな図体にもかかわらず身軽に走るおっさんは、振り返ることなく穴に飛び込んで行った。


「逃げたー!」


 ちくしょう。不法侵入者かとおもったら、泥棒じゃないか!

 なんで、あんなのが我が家に──ま、まさか。今後もやって来るんじゃないのか。


 すっごい不安。どうしてこんなことに……。


「ぱ、パパ──あのね」

「ん?」


 可愛い顔を不安そうに歪めて、ヘレが近寄ってくる。


 子供達の前でこんな怖い顔をしていたらダメだな。落ち着け、落ち着け──ハァ。


「どうかしたのか?」


 出来るだけ普通の声を出そうと努力しても、ヘレは困ったように、言い辛そうにモゴモゴしている。


「大丈夫だよ。怒ってないからね」


 怒ってるのはずうずうしい泥棒にであって、子供達にではない。大丈夫、大丈夫と繰り返す。


「本当に怒ってないからね。大丈夫だよ。心配な事が、何かあったのかな?」

「うん。あのね、シロの猫草がね、なくなってるの」


 猫草まで!

 そーかい、そーかい。ブルーベリーだけじゃぁ、袋はパンパンにはなりませんよね。なるほど、猫草も盗っていったのか、あのおっさんは!


「そ、そうか。教えてくれてありがとうな」


 ヘレの頭を撫でる。イイコイイコしていると、今度はヨクトが青いガラス球を拾っていた。


「パパ。落ちてたぜ。あのおっさんの忘れ物じゃないの?」

「忘れ物……青い、ガラスか……」


 憎らしい泥棒の置き土産である。どんな呪われた証拠品かわかったもんじゃない。

 誰にも手がでない場所。万が一取りに来てもしらばっくれれる場所。嫌がらせ満載の場所──そこまで考えて、俺は良い場所を思い付いた。


 誰も手が出せない、最良の保管場所がある。


「よし。これを海底城で保管しておこう」

「え──」

「パパ。ほんき?」


 子供達もびっくりしたようだ。でも、あそこが一番保管には良いよね。

 色も青くて、海中にぴったりじゃないか。まるで誂えたようですらある。


「本当、本当。あのおっさんは、ブルーベリーや猫草を盗んだ泥棒だったんだよ。どうせもう来ないからね」


 盗んだのがバレてなお来るとか、そこまで面の皮が厚くないだろう。言い当てた時のあわてっぷりを見たらそう思う。

 まあ、来たら来たで逃がさないし、盗んだ事を後悔させてやるけど。


「ナユタ、どう?」

「うん。ジエイはあり」


 最後にメアがナユタに確認をとって、ゴーサイン。


 よし。にっくき証拠品をどこに設置してやろうか。わかりやすく門に飾るか、城の天辺にでも置いてやろうか。

 宝箱に入れる──ノンノン。そんなのガラス球にはもったいない。野晒しで十分です。


「よし、じゃぁさっそく──」

「どうするの?」

「パパ。おはなが……」


 イライラしたまま家に帰ろうとした俺は、ヘレの言葉に掘り返されたままの地面を見る。綺麗にならされたはずの地面が、そこだけ不格好に穴が空いている。

 ああ。さびしいし、悲しいな。


「新しいお花を植えようか。もちろん、シロの猫草もな」

「うん!」

「なにを、うえるの? なににする?」


 ぱっと顔を明るくしたのはヘレとメアだった。やっぱり女の子は花とかガーデニングが好きなんだな。


「オモシロイのが良いなぁ」


 ヨクトの言う、オモシロイ植物ってなんでしょうね。

 バナナでも植えるか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ