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沈没船と海底城と俺。聖剣ソルティブレードの試練

 ちょっと潰れた球体がこの世界──この惑星の外観だ。

 その星の赤道近くに、東西に長い大陸がある。これが人の住む大地だった。

 三葉のクローバーの形をしたこの大陸は、三角形の茎の部分に宗教国家が、三つの葉っぱと中央部には、独創的な発展をした都市がテーマに会わせて作られている。

 それぞれに王家──もしくは代表がおり、緩い同盟を組んでいるそうだ。

 どんな文明テーマで作られたのかは、本題ではないので置いておくとして。


 そこからずっと北、いわゆる北極にはわが家がある。

 この家がある大陸──北極大陸とでもいうのか──は、かわいいハート型をしていた。ハートの上の方、軽くへこんだ部分から内陸に進んだ所に家は建っていた。

 家から離れると、そこは一面の銀世界だ。

 雪、雪、雪。そして氷。

 大陸の周辺には一年中溶けることのない流氷が漂い、航海を困難なものにしている。


 北極の反対、南極には大陸はない。

 本当は幻獣の住みかとして準備されていたらしいのだけれど、幻獣の創造者さんが拒絶したそうだ。

 同じ地上にあったら、人間に侵略されそうとか。

 大地がせまっくるしくて、大きな幻獣がつくれない。というのが理由らしい。

 とにかく、幻獣の創造者さんは引っ越しを決意した。

 裏の世界を作ると、ダイヤの形をしていた大陸ごと、一族の皆さんと引っ越していった。引っ越した一族っていうのが、トカゲさんやインコだったわけだ。

 だから今、南極に大陸はない。


 もう一つ、本当なら大陸があった。

 人の大地の反対側にスペードの形をした大陸があるはずだったのだ。いや、今もなくはない。

 見えないだけで、その大陸は存在している。

 見えないだけ、手を出せないだけだ。

 その大陸は海の底にあった。

 海の中にあるなら"陸"じゃないじゃないか、という声が聞こえてきそうだ。けれど、海の底にあっても、ソコは陸地なのだとヨクト達は言う。


 選ばれし創造者が、一族の繁栄のために祝福した大地。

 "人"とは違う、"幻獣"とも違う、まったく別の種族が生きる大地があるのだ。



 ヨクト達が手際よくスマホを──正確には寒天スクリーン──を操作しながら説明してくれる。

 開いているのは自宅マップだった。


 寒天の両端にヘレとヨクトが立つ。

 タイミングを合わせて二人がスクリーンに手を滑らせると、それに合わせて画面が小さくなる。すると広域マップが表示されるようになったのだ。


 でしょうね!

 スマホだもんね!

 タッチパネルで拡大も縮小もお手のものだよね!


 なんで思い付かなかったかなー、俺。

 は。じいちゃん達が言う、スマホについていけないって、これのことかも? 何ができるのかわからない。何をしたらいいのかわからない、ってよく言ってるアレなんじゃ。


 俺、取説とか、ヘルプとか見ない人だったんだけどさ。見ておいた方が良いのかなぁ。

 じいちゃんと一緒はヤだなぁ。


「パパ、ここ」


 しょんぼりしていると、メアが地図──というか地球儀を回転させる。そして、海の一部、赤く点滅しているところを指さした。

 そこは人の大陸の北端から、真っ直ぐ北に上がった海域だった。

 そこに何かあるのかと疑問に思って、思い出した。


「えっと、沈没船がある所かな?」

「そう。水の中、たのしみ」

「楽しみねぇ……」


 楽しみと言われても困る。

 多分、レイアウトを変えることはできるんだろう。パネルや家具にはホラーなものもある。お化け屋敷にしたり、冒険っぽくしたり、神秘的にしたり、ゲーム的な何かにすることだってやぶさかじゃない。


 けれど。

 相手が海の中だということを思い出してほしい。


 思い出せたなら、大きな問題がある事がお分かりいただけるだろうか。


 一つ。酸素の問題だ。

 人間は酸素がなくては生きていけない。

 スキューバダイビングという手段がなくはないけれど、潜った事ないからなぁ。相手は海だし、プールしか知らない俺達には敷居が高すぎる気がする。

 そもそも、いきなり海で泳げるのかも謎だし。


 もう一つ。どうやって海まで行けばいいのだろうか。

 いくら我が家が海に近かろうと、敷地の外は雪なのだ。雪、氷、流氷の世界。がんばればオーロラが見えるんじゃあ、ってくらいに寒い。

 一面の銀世界に五分でネを上げた記憶がある。あのときはヨクトとヘレが寝込んで大変でしたね。

 ん──ということは、沈没船の周囲も寒い? 凍ってる?

 そんな中潜るの?


 ちらりと子供達を見ると、それぞれの期待を込めた目とぶつかる。

 こ……困ったなぁ。





 家族会議の結果、海底(含、沈没船)エリアは観賞用にすることにしました。決定!


「つまんねー、つまんねー、つまんねーの」


 頬を膨らませるヨクトの頭をナユタがなでる。というよりも「撫でて」とヨクトが頭を下げていた。

 これではどっちが兄なのか判ったものではない──よく考えたら双子だった。アレ、兄なのはどっちだろう。


「ゆらゆらがキレイ。おおきなお城がいいの」


 メアの希望はお城でした。なんか女の子っぽいな。


「怖いのがいいかな。みんなが逃げ帰るような。骸骨(ほね)幽霊(おばけ)をあつめて……」

「お宝と(どっきり)もいるよな!」


 思いっきり楽しそうに言うヘレに、気を取り直したヨクトが被せてくる。

 しかし、なんでホラーなのか。


 ヘレとヨクトに押されたメアは、少し考えて言った。


「お化け屋敷のブタイにお城を。それで、だきょうするの」

「よっしゃ、決まりな」

「いいとおもう」


 最後にナユタのオッケーがでて、海底のテーマが決定した。

 海底に現れるホラーなお城か……。

 アトラクションと思えば、まあありかな。


 ちなみに、図面を引いたり、希望道理の小道具を探したりにすごい時間がかかってしまって。

 なんと完成までに十日ほどかかってしまった。


 メアのお城へのこだわりパネェ。小道具にどれだけダメ出すのか。

 机やカーペット、シャンデリアの色形は当然として。

 階段の手すりの木材とか、壁の質感、窓ガラスへの光の入り具合まで調節していた。そのこだわりを全部屋に適用したのだから、時間がかかるのも仕方がない。

 おかげさまで、非常にファンタスティックで高級感溢れるスゴイお城になりました。最終的に、波による視界の揺めきと相まって、超神秘的。


 もっとも、どんなに微調整しても結局は海の底なわけで。

 まあ見てるだけっていうか、水族館というかアクアリウムって感じだな。


 魚のかわりに、ヘレがアンデット系住人を確保していた。

 かつて人だったんだろうと思う骨と、青白く光る幽霊がこの城の住人だ。

 多分だけど、沈没船の乗組員だったんじゃないだろうか。ゾンビ状態じゃなくて良かったわ。


 ちょっと変わり目としては、魚のアンデットも城の中を泳いでいる。

 ただの魚と違うところは、骨になってたり、切り身になってたり、巨大化していたりする事だろう。色とりどりの光が群れて泳いでいるのは綺麗だった。


 後は、住人である骨が希望した、真水のエリアと空気アリの部屋を作ってみた。

 なんでも、ずっと塩辛いのは飽きるのだとか。

 ちなみに、ヘレの通訳でした。アンデット連れてきたり、アンデットとお話したり。いったいヘレはどこに向かっているんだろう。


 で、せっかくだからと置いてみたわけですよ、レアアイテム。海底にある不自然な空気エリアにしかない逸品。


 その名も聖剣──ならぬ塩剣である。


 イメージとしては、この部屋に寄せてきた海水が蒸発して塩の結晶になる。結晶は長い年月をかけてどんどん、どんどん大きくなってゆき、最終的に一振りの剣になったのだ! ──というところ。


 塩には浄化のイメージがある。

 あせもに良いというし、お葬式の時に使うのも塩だ。飲食店には盛り塩をするし、神社でくれるのだって塩なのだ。

 というわけで。

 浄化ですよ浄化。アンデットに効きそうでしょ。

 ゲームでだって、効果的なアイテムとか武器防具とか、ダンジョンの途中で拾うじゃないか。それを再現してみた結果でした。


 俺がゴリ押しした特別なアイテムだけど、「宝箱に入れる?」というヨクトの好意は辞退しておいた。

 だって、宝箱だよ……錆びそうなんだもん。


「でも、お塩は水にとけるよ?」

「パパ、パネェ嫌がらせするよな」


 当然、確信犯ですとも。

 特別なアイテムをゲットして喜んで、そのまま海に潜って台無しにするところまでがボケ設定である。

 どうせ誰も来ないんだしさ、こういう小さなこだわりが楽しいのだ。

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