インコと戦う俺。猫キャンセルにはトラウマがいっぱい
双方が無言になり、時間だけがたっていった。
なんでかデジャブがあると思ったら、ヨクトだ。ヨクトを叱った時と同じ事をしているんだ。
つまり──根比べ。
じっとトカゲを見る。
左右から子供達も一緒になってトカゲを見ている。
トカゲを見る。
顔を背けたままのトカゲは、視線を合わせようともしない。
トカゲを見る。
トカゲの視線がさ迷っている。トカゲは子供達にちらちらと目をやって、再びそっぽを向いた。
ちっ。こっちは見ようともしない。
トカゲを見る。
よく観察しないと見えない綺麗に並んだ鱗が、さざ波のように光を反射した。
なるほど。こうして見ると、トカゲよりも蛇に近いのかもしれない。自称するドラゴンにはほど遠いけれど。
って、光を反射した?
なんで?
疑問に思ってトカゲの顔から視線をずらすと、そこには根性で立ち上がったインコの姿があった。小鳥が体を起こす度に、トカゲの体に光が走っている。
トカゲを照らすものは、インコから発せられる光だった。
『わ、私達、幻獣の未来のため──あなたには、消えていただきます』
『や、やめぬか! ペリドットフェザーっ!』
トカゲの絶叫とともに、インコが発光する。
インコの光がトカゲの尾を押し上げる。まるで光に吹き飛ばされるように、トカゲの体が宙に舞った。
何かにぶつかった音はしなかったので、そのまま吹き飛ばされたのかもしれない。
インコから発せられる蛍光緑の光はどんどん強くなる。
目の前が緑色に塗りつぶされて、何の形も見えなくなって──目の奥がチカチカして──緑色が弾けた。
恐らくそこに立つのはインコ──いや、幻獣ペリドットフェザーなのだろう。
『これが、私の幻獣としての姿──』
「め、めが……」
焦点を結ばない目を揉みながらセリフを返してやる。
なんだろうか。目が疲れてたのかな。
閉じた目の盛り上がった所を親指の第一関節でグリグリすると、なんか気持ちいい。
「オレンジがちかちかする……」
「ひきょーもの!」
「みんな。なんで、目をとじなかったの?」
子供達の声がする。
メアの言葉は俺にもダメージくるわ。いたいいたい。
ようやく見えてきた視界に、ポーズを決めるインコの姿があった。
なんにも変わってねぇ!
「にゃん!」
『ふ。甘いですね』
"にゃん"の魔法で火を生み出してインコに投げつける。
素早い小鳥らしく、するりと火をよけたインコから腹のたつセリフがなげられた。
ちくしょう、あのインコ。丸焼きにしてやろうか。
うぐぐ、と思うが相手は空の上である。鳥餅も、虫取網も持っていない俺達には手も足もでない。
だが、決定打がないのは相手も同じようだった。
インコは小鳥すぎるがゆえに、チクチクした攻撃を加えてくる──が、それだけだった。
インコは軽く当てては逃げに走っている。素早さに優る場合はそうだよね、当て逃げがベストだよね。
格闘ゲームでもそうでしたよ!
こちらを狙ってくるインコを、上着で振り払い、捕まえようとする。するっと避けたインコはクチバシとカギ爪で傷を付けてくる。
今のところは引っ掻き傷だけれど、そのうち大事になりそうで怖い。先端恐怖症になったらどうしてくれるのか。
『ふははははは』
憎い。緑のインコが憎いっ!
「パパ」
俺がイライラしていると、ナユタが近付いてくる。
ナユタのすぐ側にはヨクトがいて、二人分の警戒をしていた。それに比べてナユタはずいぶんと余裕そうだ。
きっちり上着着てるし。
「パパ、はい」
ナユタが差し出してきたのは、俺のスマホだった。
そういえば、子供達に預けたままだったことを思い出す。
しかしですね、ナユタさん。
今、スマホを渡されて、俺にどうしろっていうの?
とりあえず礼を言って受け取るが──インコから目が離れたのが悪かった。
風を切る音がしたかと思うと、ナユタに渡されたばかりのスマホが──
『ふははははは。
手に入れましたよ。神のアイテム、ケータイを!』
俺のスマホを脚で引っ掻けて、インコが笑っていた。
『かつて我が父は仰いました。"ケータイ"というアイテムこそが、創造の要だと。父はこの特別なアイテムにより、数多の幻獣を誕生せしめたのです』
「なっ……」
何となくそんな気はしてたんだが、特別なのは俺じゃなくて携帯らしい。特にアプリだよな。
『つまり──このケータイを手に入れることができれば、幻獣の未来は明るいものになるのです!』
インコが力説している。そうか──ヤツの狙いは初めから携帯だったんだな。
ニヤリと笑った──多分。この状況で笑わないわけないし──インコが、ゆっくりと地面に降りる。
『我が父も恐れた技をくらいなさい──猫キャンセル!』
「インコ──っ!」
インコのくせに"猫キャンセル"使ってんじゃねーよ!
ちなみに。
インコはスマホと格闘しているところを捕まえた。
うん──その──なんだ、な。
押しボタン式のガラケーじゃなくて、タッチパネル式のスマホだから。
インコのカギ爪を認識しなかったわけだ。仕方ないね。
むきになってスマホを触っているところを、ゆっくりと捕獲ですよ。
さてこのバカ鳥をどうしようか。
そういえば、インコがアホでラッキーと思っていたんだけど……ナユタ、まさか計算してないよな?
おまえは素直な良い子だと、信じて良い、ん、だよ……な?
ちょっと心配。




