表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界流スローライフにスパイスを  作者: 神埼あやか
魔族と幻獣の二重唱
16/40

青い火と黒い闇と俺。腹黒インコを焼き鳥にしたい。

 インコに導かれた先にあったのは、小さな村には不釣り合いなほどに立派な教会──というか、神殿だった。

 まるでギリシャの観光地のような、白い石を積み上げた神殿に向かって、荷物を抱えた参拝者が歩いているのが見える。

 その中に何人か、村人とは違う黄緑色の外套を纏っている人がいる。しかも、外套の形はお仕着せのように同一だった。

 もしかすると、あれが神官なのだろうか。


「へぇ。こりゃスゴイ」


 思わず感嘆の声が上がるほど、白い神殿とカラフルな神官の対比は綺麗だった。

 まるで一枚の写真を見ているかのような気分にすらなる。


『あの中に"場"はあります』


 黄緑色のインコもまた、この神殿にふさわしい色彩だった。


「神殿の中って入れるのか」

『ええ。誰でも入れるようになっているはずです』


 俺の前を飛んでいたインコは、小さな羽根を動かすと神殿の前に着地する。急げ、とでも言うようにぴょんぴょんと跳ねて先へ進んでみせた。


「あー……。まって」


 インコに急かされるままに、俺も神殿を目指す。


 ならされただけの道が、神殿に近づくにつれて石畳になる。

 えっちらおっちら進んだ先、石造りの神殿の中にあったのは"火"だった。それも"青い火"だ。


「……はじめて見た」


 いや、初めてじゃないか。

 アレだよアレ──ガスバーナーだ、あれ。

 だってその証拠に、薪とかくべられてないし。燃やされているものが見えないのに燃えているところも、ガスバーナーそっくりじゃね。


 火の側には勿論だけれど神官達がいて、鈍色の長い棒を手にしている。

 なんだあれ──と思ったけど、どうやらバーナーから火を採る為の道具のようだった。長い棒の先は柄杓みたいになっていて、黒い塊が盛られている。

 それをバーナーに突っ込むと、黒い塊に火が移る。んで、燃える黒い塊を村人に渡している。


 なるほど。村人達が持っていた包みは、カンテラの仲間だったようだ。

 カンテラに収められた火の色は、ちゃんと赤い。


 黒い塊は炭かと思ったが、違うようだ。

 炭は火をあげて燃えないもんな。


 とにかく、石造りの神殿の中には青い火がありました、と。

 んで、肝心の"場"とやらはどこかねぇ。


『目的地はあそこです』


 インコが翼を向けたさきには、燃え盛る青い炎があった。


「い。いやいやいやいやいや。

 なに言ってくれるの、このサドインコ。

 燃えてるから。アレ燃えてるから!」

『インコ……』


 インコはイラッとしたようだ。丸い目を細めて、睨んでくる。

 そんな顔しても、怖いけど怖くありませんから!


『とにかく、アレが"場"なのです。うまく飛び込んで下さい』

「いや、だから、そんな自殺行為は無理──」


 拒否ろうとした俺の前で、インコが火に飛び込んだ。あわれ、焼き鳥のできあがりであろうか。

 俺は焼き鳥が好きだ。

 特にナンコツのコリコリ感は最高。塩コショウでサッパリしてるから、コーラのお供に最適である。

 ネギマも捨てがたいけど。あの甘辛のタレが何とも言えずグッド。白ご飯にはこれだね。


『何を躊躇っているのですか』


 ひょい、とおかずになったはずのインコが。火から顔を出した。ひょこひょこと頭が動いている。


「い、生きてる……?」

『本当に何を言っているのです』


 火の中でピンピンしているインコはおいておいて。これだけ派手なパフォーマンスをしているのに、誰も反応しないというのが奇妙だった。


 火の近くにいる神官とか、特にね。大切にしている"火"に小鳥が飛び込めば、普通は騒ぐものじゃないのか。


 これは、もしかして──見えてない、のか。

 インコが見えていない。まさか、だけれど。


 え、じゃぁ俺は?

 俺見えてるの?


 ついキョロキョロと視線をさ迷わせて。

 あ。神官の人と目が合った。


「あ」

「助けが必要ですか?」

「え。あ、その、いえ。大丈夫です。ありがとうございます」


 俺が不馴れだと分かったのだろう。親切な神官の男性が声をかけてくれたのに、むっちゃどもってしまった。

 ううう、情けない。


「あの、もっと近くに行ってもいいでしょうか?」


 俺の言葉に、神官の人はニッコリ笑った。さすが神官らしい、軟らかな笑顔だ。


「どうぞ、もっとお近くに。暖かいですよ」


 神官の人──めんどい。もう神官さんでいいや──神官さんの言葉に甘えて、火に近づいてみる。

 強烈な青色にそぐわない、ほんわりとした暖かさを感じた。


 手を伸ばしてみると、ストーブに手をかざしているみたいだった。


「へぇ。すごいな……」

「ごゆっくりどうぞ」


 神官さんが他を向いたタイミングで、ぐっと腕を伸ばしてみる。

 一瞬触れた火は、ちっとも熱くない。

 これなら、中に入る事もできるかもしれない。


「ん──っと──」


 誘うように、急かすように、インコが揺れている。

 左右に揺れるインコに合わせて、俺の腕も揺れて──ぱっっとインコが俺の腕を脚で引っかけた。


 思いもよらない強い力で引っ張られる。

 おもいっきり体勢を崩した俺は、上半身から火に突っ込まされた。


「うわッ」

「え、ちょ。何が──!」


 神官の悲鳴が聞こえた気がした。




 そして、闇──




 あたりは真っ暗闇で何も見えない。伸ばした自分の腕さえ見失いそうな、生き物の気配もまったくない、そんな世界にいた。


 さきほど引っかけられた腕の、痛みもなにも感じられない。

 腕の感覚も、足も、体も──本当に俺はここにいるのだろうか。


 これは俺みたいな都会っ子には馴れない"闇"だ。

 世界にただ一人──そんな寂しさすら感じさせられる、本物の闇。


 真っ暗といえば、ここでも何度か新月を過ごした。子供達のために灯りを消して。

 けれど、どんな闇の中でも、子供達の気配は感じていたし──ヨクトは寝相が悪かった──ここぞとばかりに甘えてくるシロもいた。


 こんな孤独とは無縁だったのだ。


 世界に一人ぼっちなのは寂しいと思う。

 子供達が泣いていないかと心配になる。

 ここで死ぬのかと不安になる。


 ああ。どうしたら──


「パパ」

「ん? あれ、メア?」


 ぎゅっと腕を掴まれて振り向くと、なぜかメアがポツンと立っていた。

 とたんに孤独が弱まり、闇の色が薄くなる。

 今まで真っ黒な墨汁の中にいたのが、濁ったプールの中を泳いでいるみたいだった。


 ゆらゆらと水が揺れるように、メアの姿が揺れる。

 俺の腕も、体も、ゆれてゆらゆらと形を留めることなく流れていた。


「地裏は地表とは違う(ことわり)(エネルギー)の世界。

 "魔力"の塊であるパパを、エサとみなして吸収しようとした」

「え──まさか……」


 メアの姿が揺れる。

 遠く近く蜃気楼のように。

 ふわふわゆらゆらと陽炎のように。

 ゆれてきえて、あらわれてゆれゆれる。


「異界を繋ぐのはわたしの領域(ちから)。だから迎えにきたの。

 パパが消える前に。

 パパがパパであるうちに」


 正直言って、メアの言葉の意味は理解していなかった。

 ちょっぴり中二的な言葉だと思わなくもないけど──それを笑えないのは、俺の体験故なんだろう。

 現在進行形で、変な世界にいるわけだし。


「ここにはインコと一緒に来たんだけど。インコは大丈夫なのかな?」

「……パパのお人好し。

 ここは幻獣の住みか。幻獣の世界。

 この世界が幻獣に仇なすことはないの」


 メアと出会えて、ずいぶんと気が楽になった。

 それでようやくインコのことを思い出したんだが──それって、今の今まで忘れてたってことで。

 だからメア。俺はぜんぜんお人好しじゃないぞ。


「そっか。一緒にいたはずなのに……って、姿が見えないから心配したんだ。

 無事ならよかった」

「三人がシメてるから、無事かどうかは保証しないけど」


 シメてる?

 どう言うことだ?

 三人──って、ヘレと、ヨクトとナユタか?


「あとシロがかじってた」


 シローっ! 野鳥を食べるんじゃありません。病気を持ってたらどうするんだ。鳥インフルエンザは怖いんだぞ。

 ぺってしろ。ぺって。

 キャッチアンドリリースが狩りの基本です。


「さぁ、パパ。帰ろ」


 俺の腕を強く掴むメアは、もうゆれていなかった。

 俺の体も、腕も。消えないしゆれない。


「ああ、うん」


 俺は、メアに引っ張られて一歩を踏み出して──


「パパ。お帰りー」

「ようやく帰ってきたのか。遅いっつーの」

「おかえり」

「にゃふん」


 一歩踏み出した先は懐かしい我が家で。

 俺は子供達とシロの突進を受けることになったのだった。


 ああ。嬉しいけど。

 ところで子供達──またサイズ変わってる?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ