幻獣なインコと俺。魔獣のマはロマンのマ。
「じゃぁ、俺が移動したのは、魔法のせいだったのか」
『そうです。魔人達が新しい魔法を作っていたところ、転送の魔法が意図せずに発動しました』
黄緑インコの説明は簡単だった。
魔人っていうのは子供達の事だろうなぁ。トカゲが魔族がどうのって言っていた気がするし。
トカゲ……名前は、たしか……。
『ちょうど居合わせたショートテイルの依頼で、わたしがお迎えに上がった次第です』
そう。名前はショートテイルさんだ。
「そっか、後でお礼を言わないとな。
その前に、インコさん──小鳥さん──君にもお礼を言わないとね。探してくれてありがとう」
インコと呼んで睨まれ、小鳥と呼んでそっぽを向かれた。
いや、どう見ても小鳥なんですが、ごめんなさい。
インコがぷくっと胸の羽根を膨らませる──威嚇、だろうか?
『わたしの名はペリドットフェザー=チェシャン五世です』
「オオガミアキラだ。よろしくな」
なるほど、黄緑色の見事な羽根は宝石と比べても遜色ない美しさだった。
頭のてっぺんのオウムのような飾り羽まで輝いて見える。
「でも、なんで五世?」
『産まれ順です。わたし達幻獣が産み出された順番なのです。
わたしは五世なので、五番目に産まれたということ。
ショートテイルは三世なので、三番目に産まれた事を意味します。
若い幻獣にとっては侮辱の言葉になりますから、気をつけてくださいね』
近くの木にとまったインコが、首をふりふり言う。
しかし、ナンバーが侮辱になるのか。早く産まれた方が偉くて強いのかね。
「下克上とかないのか?」
『は? 何のことでしょう』
「いや、強いから偉いのかと思って。なら下克上もあるのかなぁと」
この反応は違うな。
ならどういうことだろうか。
『私達は幻獣ですから。魔族の常識は通じません。
早く産み出されたということは、それだけ世界に強く望まれたということなのです。愛情深きとも言えますね。
下の者が上の者に成り代わることなどできません』
ええっと。つまり──なんだ、よくわからん。
でも"幻獣"という種族においては、産まれた順番というのがナイーブな問題だというのは分かった。今後はスルー推奨だな。
気にしなければオーケーだろう。
『魔族もそうでしょう? 魔王を第一世代として、それに続く第二世代の魔人と、第三世代の魔獣。
種が増えてゆくのは、あなたがそれを望まれているから、ではないのですか』
魔人っていうのは、子供達の事だよな。
魔獣? あ──シロのことか!
あの素晴らしい毛並みの猫モドキライオンが魔獣だと?
くっそ、魔獣最高じゃね。
「まじゅう……」
良いな魔獣。
みんなシロみたいに、ふわふわモコモコしてるのかなぁ。
魔ウサギとか、魔チンチラとか、魔アルパカとか……もとからふわふわのペットがレベルアップしたらどうなるのか。イイね。パラダイスだ。
シロはなぁ。毛並みは良いんだよな、毛並みは。
そりゃ毎日のブラッシングを欠かしていませんし、子供達と走り回っているので運動もバッチリだ。
ただ──ライオン、なんだよな。
いやさ、野生の欠片もない飼いライオンなんだけど、なんかスッゴい頭イイけど、それでもライオンはライオンだ。日本語で言うと獅子。
つまり──ふわふわ毛が足りない。
猫科短毛種の成獣なんて、すらりとカッコいいだけなんだよチクショウ。
だいたい、ライオンのオスなんてかっこよすぎるじゃないか。どっしりとした体格と、ぶっとい脚に鋭い爪と歯、首回りではたてがみがなびき、餌はメスが獲ってくれる。
あ、こいつハーレムニートだった。
だめです。うちのシロは駄目な大人にはしません。がんがん草原を走り回って、木登りだってすいすいとこなせる、スペシャルでゴージャスな一匹ライオンにするの。
ハーレムなんて、パパは許しません。うらやましい。
ああ……思い出したら寂しくなった。
手が癒しを求めている。
「なぁ──」
『はい。なにか質問でも?』
このさい鳥でもイイや。小さいけど。
「撫でていいか?」
『可及的すみやかに、その発言に至った経緯をお話し下さい』
伸ばした手から逃げるように、インコは飛び上がった。
『あなたには三つの選択肢があります』
「お。三つも!」
インコは少しだけ撫でさせてくれた。
でも全然足りない。もうちょっと満足するまで撫でさせて欲しいところだけれど、嫌がってるし仕方がない。
ああ。特にこう──首の付け根のあたりをもっと。
俺の視線が気になったのか、インコはぶるりと翼を振るわせた。
『一つ。住居まで歩くこと』
「無理」
ちょ。このインコ、無茶ぶりがひどすぎる。
言葉使いが丁寧だって油断していたら、まさかの天然鬼畜ですか。
住居ってどこだと思っているのか。北極だよ? 北極。
今の服で歩けって、凍えて死にます。
『一つ。転移の魔法を使うこと』
「魔法? 転移の魔法って、想像つかないんだけど」
『魔法も一度は使えたのでしょう。ならば、頑張れば使えるのではありませんか?』
魔法ねぇ。興味が無いわけではないけど……。それってアレだよね。あの、早口言葉ふたたびってこと。
正直自信ないなぁ。
『一つ。幻獣の住みか──つまり、地裏を通ること』
「え──」
地裏──またでたよチリ。
『地裏と地表は表裏一体。スポットと呼ばれる"場"によって、二つの世界は繋がっているのです』
「トカ……ショートテイルさんは、北極点と南極点が磁場の出入口だって言ってたんだけど」
あぶない。トカゲさんとか言うところだった。
確かにトカゲだけど。
間違いなくトカゲ以外の何物でもないけど。
『勿論、その通りです。
ですが──そうですね。
大きな布二枚をくっつけると仮定して下さい。両端を二ヶ所縫うだけでは心もとないと思いませんか?』
「なるほど。キルト的な感じなのか」
『納得していただけましたか。人の町は"場"の近くに作られるのが常です。いえ、人の町近くに"場"ができると言いますか……。
とにかく、この町の近くにもあるはずです』
近くにあるなら、簡単そうだし試してみても良いかな。
駄目だったら転移魔法にチャレンジしてもいい。
どうせお腹もすかないし、時間はたっぷりあるんだから。
『では急ぎましょう。消滅まで半日あるとはいえ、何があるかわかりません。時間は有限です』
え?
しょうめつ、って何?
以前にトカゲに言われた事だけど、俺は"魔族"なんだそうだ。で、魔族のご飯なのが"魔力"。
つまり、俺の体は魔力でできている──らしい。
まったくぜんぜん自覚はないけど、人の食べ物みても美味しそうに見えなかったのはそのせいらしい。
俺の体が、食べ物を食べ物と認識してなかったからだと。
確かに、まぁ。文房具見ても美味しそうだとは思わないもんな。
そして今。なんと、餓死の危険にさらされていました。
「マジかよ」
そんな言葉もでるってもんさ。
『あまりゆっくりできないことがご理解いただけましたか』
「ああ。スッゴクよく分かった」
そして、インコの残念にサディスティックな性格もよくわかった。
やっぱりあの三択──徒歩、魔法、地裏──には、罠が仕掛けられていたわけだ。
徒歩を選んだら消滅してたじゃん。死んでたじゃん。
かわいい姿して、相当なワルだ。
そんな気持ちを込めていたのがバレたのか、インコは何度か咳払いをした。
『では、ご案内いたします』
「よろしくな」
丁寧な言葉なのに、素直に受け取れないのは何でだろうか。




