オヤジとパパと俺。その時、不思議な事がおこった?
「さわんなっ。ナユタにおやじがうつる」
「まだ”おやじ”の年じゃねーっ」
元気すぎる悪ガキにお仕置きを──と思ったけれど、くそう、ヨクトが元気すぎる。
軽やかに身を翻しては、俺の手から逃れ続ける。
だが、逃げるのにナユタをつれているのは間違いだな。
なぜなら、ヨクトが手を引いているナユタは、引きずられているといったほうがいいくらい振り回されている。無理矢理引っ張られているぶん、捕まえるのは容易かった。
ヨクトに振り回されているナユタに追い付くと、小さな体を抱き上げてみた。
ナユタはおとなしく腕の中に収まったが、ヨクトが目を吊り上げて俺の足を蹴ってきた。
いくら小学生サイズとはいえ、蹴られたら痛いっつーの。
しかも、俺をおやじ呼びとか……ひどい。どうしてこんなのに成長してしまったんだろうか。
「ぱぱ、痛いの? ヨクト、ぱぱに痛いことしないで」
俺の足元で蹴られ続ける足をかばってくれるのは、小学生サイズに成長したヘレだった。
俺とヨクトの間に入って、俺を背中にかばう──うん。やっぱり女の子は優しいな。ヘレは優しい。
「んじゃぁ、ナユタかえせよ!」
「ヨクトがナユタをひっぱってたのが、いけないんじゃない。それに、”ぱぱ”のことを”おやじ”だなんて、下品だわ」
ぷりぷりとヘレが文句をつける。
「うっせーの。なんだよ”ぱぱ”って。おやじがぱぱで困るのはヘレじゃねーの」
「どうして? "ぱぱ"はパパでしょ。それで、わたしがママなの。
今なら、あなたを子供にしてあげるよ?」
「いらねーの!」
ヘレのぷんぷんがヨクトにも伝染した。
腕の中のナユタは、もぞもぞと体を揺らして安定する場所を見つけたようだった。高みからヘレとヨクトの言い争いを聞いている。
決して仲裁しようとしないところが、なんだ、うん。まあ、今回はナユタには関係ないことだしね。
「あのなぁ。そうだ、名前を呼ぶのはどうだ? ヨクトも、ヘレも、みんなのことは名前で呼んでるだろ。
俺の名前はオオガミアキラだから、あっちゃんとかアッキーとか呼んでも良いぞ」
「おぉ?」
「……ナユタ?」
ポカンと口を開けて俺を見上げたのはヨクトとヘレだった。少し離れたところに転がっていたメアは、なぜか俺の腕の中のナユタの名を呼ぶ。
なんでだ?
俺の名を呼ぶのに、なんでナユタか?
「メ。パパはパパ」
ぺち、とナユタの小さな手が俺の頬に当てられる。
ぺちぺちと、ぷくぷくの手のひらが数回押し当てられて──ふっと頭の中にあったナニカが消えて行くような気がした。
そう、だな。パパだった。
俺はちびガキ達のパパなんだから、あだ名呼びはおかしいな。
「パパー」
「ぱぱ」
ほらな、ヨクトも。
オヤジより”パパ”の方が良いよな。うんうん。
ヨクトが、なんだかスネた顔に見えるのは気のせいに決まっている。
「にゃおぅん」
少し離れたところでは、シロが顔を洗っていた。
ナゼかコインが増えていた。
一日に一枚しか手に入らないはずのコインだが、昨日は二十枚ほど増えていたのだ。
そこで俺が思い出したのが”イベント”の存在だ。
昨日あった特別なことなんて、雪を見に行ったことしかない。それはズバリ、探索イベントだったのではないだろうか。
きっとそうだ。
大きくなってもホワイトボードに向き合っている子供達を見ながら、増えたコインで家の拡張を行ってゆく。
せっかくだから、家の間取りを決めるのを手伝ってもらおうかな。
「ぜったい、ナユタと同じのがいい」
「ぱぱといっしょがいいな」
「なんでもいいよ?」
はい、ご意見いただきました。
言わなくてもわかりますね、上からヨクト、ヘレ、メアの発言です。ナユタはいつものごとくだんまり。
でもですね、プライベートな空間は必要だと思うのですよ。
なので、せっかくの意見も無視させていただきます。
「じゃぁ聞くなよー」
「えー。いっしょがいいのに」
ブーイングも無視ムシ。子供に意見を求めたのが間違いでした。
さくさくとレイアウトを決めていくぜ。
リビングとダイニング──あれ、ご飯は食べないし、客も来ないから必要ない? トカゲはお客じゃないしね。
となると、プレイルームと風呂と各自ベットルームかなぁ。レイアウトのしがいがないなぁ。
またすぐ成長するかもしれないということで、ベットは成人用の大きめを購入。子供用がなかったとか、そういう理由ではない。多分ない。
くわえて、家庭菜園スペースを設けてみた。
子供の情緒教育といえばコレしかないだろ。ということで、”夏休みの自由研究セット”を購入。ヘチマとヒマワリの種がついてきたので、今後植えてみることにしよう。
このレイアウト変更で、コインを二十五個は使ってしまった。残りが数枚になってしまい、非常に心もとない。
シロ用の高級毛繕いセットを購入したのが敗因だった。が、後悔はしていない。これでシロをふわふわのもっこもこにしてやるんだぜ。
ネコは癒しである。




