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異世界流スローライフにスパイスを  作者: 神埼あやか
魔族と幻獣の二重唱
10/40

柱の傷と俺。ハリセンボンは後悔の味

「パパー」

「ぱぱ。ぱぱぱ」


 朝になって子供達が起きてくると、いきなり賑やかになる。

 静かな夜にのんびりスマホをいじるのも良かったが、思いもよらない子供達の行動に右往左往するのも、また楽しい。とでも思わないとやってられません。


「おはよう──ん?」


 挨拶をしながら立ち上がり四人を見下ろすと、どこか違和感を感じた。

 なんでだろうと四人をじっと見て──頭一つ分、メアの背がのびているのがわかった。

 いやいや、まさか。

 昨日は普通だったよね。なんで?


「め、メア。少し成長したな」


 いつものようにメアの頭を撫でてやるが──うん、やっぱり高さが違う。

 そのメアの横で「おれも、おれも」とヨクトが跳び跳ねていた。


「お、おお。ヨクトも少し高くなったな」


 メアほどではないが、ヨクトも大きくなっている。

 コピペレベルでそっくりだったナユタに比べて、肩の高さ変わっていた。


「ぱぱ。ヘレの、だめ?」


 ほとんど変化のないヘレとナユタは、しょんぼりして見える。

 けれど、よく見たら、もしかしたら、少しは育っている──の、かもしれない。


「よし。ちょっとまってろよ」


 せっかく持ち家モドキがあるので、子供達の成長のメモリアル。背比べをすることにする。

 どうせ犠牲になるのは、柱一本だ。




 きゅきゅきゅ、と壁にマーカーを引く。

 真っ直ぐせをのばした子供達の横で、シロも後ろ足で立ち上がって背を伸ばしていた。

 後ろ足に体重をかけようとしてバランスがとりきれず、プルプルと震えている様子にほんわかする。体勢をととのえようとしているのか、前足をつきだしているのが可愛い。


 このままずっと見ていたいところだけれど、シロに「はやくしてー」と訴えられている気がして、手を動かす。

 茶色のマーカーで耳の先にチェックをつけると「ふにゃぉうん」とシロは満足そうに鳴く。そのまま、マッサージするように後ろ足の毛繕いにはいった。


 子供達にも、順番に頭の上で線をひいてやる。くるりと振り替えって、自分の身長を確認したヨクトは、なぜかがっくりと肩をおとしていた。


「なんだ。メアに負けたのが悔しいのか?」

「そう。それに、ナユタのいっしょはいい」


 ふむ。このヨクト語を解読してみると。

 メアに負けて悔しい気持ちはある。

 それ以上に、ナユタと一緒──同じが良かったと言うことか。

 たしかに、双子のわりには、成長のしかたが随分違う。

 ヨクトとナユタには、俺の指三本くらいの差ができてしまっていた。


「じゃぁ、おそろいの髪型にするか? 今はナユタのほうが長くなってるみたいだけど」


 成長速度が違うのは、身長だけではなかった。髪の長さもヨクトとナユタでは違っている。

 それか長さは同じでも、身長の差で違うように見えるだけなのかもしれない。

 とにかく、そっくりにするには、髪を整える必要があるのだ。


「うー。えーあーうーん」


 ヨクトはうなっていた。

 そっくりになりたいなら、ナユタに髪を切ってもらえば良いのに。どうしたんだろうか。


「やめ。ナユタのきず、だめ」


 お? お、おお。

 感動した。自分の希望よりもナユタの身を守ることを選ぶとか。なんと兄弟思いなんだろうね。

 髪の毛を切ることが"傷"なのか? という問題は置いておくとする。まあ、ハサミで切るからね──俺が。

 取り返しのつかないことにならないとは保証できない。

 俺はいつもヘアサロンで切ってもらってたしさ。他人の髪の毛を切ったことはない。


 しかし、アレだよな。

 以前にナユタがいじめられてたのも助けたし、今回もナユタの髪を切らせなかったし。本気で。ヨクトはナユタを守ってるんだろうな。

 双子の兄弟でなければいい話なのに、と思っちゃいけないんだろうなぁ。

 うん。家族愛、家族愛。


「ヨクトはナユタの王子様なんだなぁ」

「ぶー」

「えぇ……」


 子供達には不評でした。

 そうだね、相手はナユタだし王子様じゃないね。


「ごめんごめん。えーっと、王子じゃなくて。ナイトだね。王様を守る騎士(ナイト)みたいだからね、カッコいいよ」

「ないと。おれ、ないと!」


 ぱあ、とヨクトの顔が輝く。

 むう、とヘレがすねた顔をした。


「ぱぱ、ヨクトはナイト、ナユタにおうさま。ヘレの?」


 そうだねお姫様かな──って、しまった。女の子は二人いる。一人はお姫様として、もう一人をどうすればいいのか。

 そうだ!


「そうだね。王様がいるから、お妃様はどうかな。王様と結婚して──」

「や──っ!」


 ヘレが被せぎみに否定してきた。

 チッ、良い案だと思ったのに。


「ヘレ、ぱぱとけっこん! ナユタのヤ」


 しまった、そうだった! ヘレはナユタが嫌いと言っていたんだ。

 たしか、怖いとか。

 冗談でも、そんな相手を進めたんじゃあヘレが嫌がるのも仕方がない。

 あああ、ヨクト。そんな目で見ないでっ。


「そ、そうだったねー。ヘレは俺の奥さんになってくれるんだよね。成長がタノシミダナー」


 勘違い、ただの勘違いですよ。深い意味はありません。

 だから泣かないでぇぇ。

 俺の足にしがみついて泣き出したヘレをあやす。


「ごめんな、ごめん。間違えちゃったんだよ。

 ああ、ほら、約束しようね。ヘレが大きくなったら結婚する約束をしような」


「うん。ぱぱ、うそ……だめよ」


 ごめんと謝りながら、ヘレの小さな小指と指切りをした。

 小さな指っていうけど、本当に小さいんだよ。こんな小さくて、ふにふにした幼児と結婚の約束するってどうなの自分?

 非常事態だから。これは、泣き止ませるための非常事態。

 本心ではありませんよー


「……嘘ついたら針千本のます。指切った!」

「はり……せんぼん……」


 ようやく泣き止んだヘレの向こうで、心底嬉しそうにヨクトが笑っていた。


「パパ、わたしは?」


 お願いします、メアさん。少し時間をください。

 いっぱいいっぱいなので、もうちょっ待ってくれるとうれしいです。

 できたら、明日まで。


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