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異世界流スローライフにスパイスを  作者: 神埼あやか
魔族と幻獣の二重唱
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魔王のタマゴと俺。割るつもりはなかった

 アンケートに答えて、コイン五枚をゲットしよう。抽選で超激レアなスペシャルプレゼントも!──なんてうたい文句に釣られて、ほいほいアンケートに答えた結果が異世界(コレ)である。

 後から悔むから後悔という……ああ、先人は良い事を言った。

 気をつけよう、振り込め詐欺とオレオレ詐欺。上手い話ににゃ裏がある。


 草原に一人放り出された俺は、目の前の三十センチはある大きなタマゴを前に途方にくれた。



『はじまりは?』



 始まり? ああ、そもそもの始まりは、いつもやっているゲームアプリに送られてきた【運営からのお知らせ】をクリックしたことによるんだろうな。


 これをプレイするためにスマホに機種変したといっても良いゲームで、タイトルをトランプ・ワールド・コンパクト。略してTWC。トランプのスペード・ハート・ダイヤ・クローバーから好きな(スート)を選んで所属する。んで、その組織(スート)内で出世していって、最終的には絵札を目指すというのが目的だった。もちろん基本無料で、強くなる為の課金ウエルカムなゲームだった。



 俺はこのゲームを、"彼女"と話をするために始めたんだ。

 彼女の名は雨宮(あまみや) (へれん)。黒いストレートロングの髪に、睫毛バシバシの大きな瞳。まるで人形かってくらいに整った顔立ちの、かわいい同級生だ。俺の姓が大神(おおかみ)だから、机が近くてラッキー。

 席が近いどころか雨宮の後ろの席になった俺だが、彼女が休憩時間にスマホを見てるのが気になってた。なんかチャラリ~ンって音がしてるしな。で、偶然に見ちゃったのがTWCだったんだ。


「あ、ゲーム……」


 雨宮もゲームなんかするんだ、と声をあげちてしまった俺の言葉が耳にはいったのだろう、雨宮は長い髪をゆらして振りかえると人懐っこく声をかけてきた。


「あ、大神君。知ってるの? もしかして大神君もプレイヤー?」

「え、あ、ああ。このあいだ始めたばかりだけどな」


 すっごく嬉しそうな雨宮に、俺はNOとは言えなかった。ガラケーの俺は携帯ゲームなんかやったことないっていうのに。

 ついつい調子を合わせてしまう──だって、話をしてみたかったんだもん。


「そうなんだ? ね、どこまでやったの? 良かったら、友プレイしない?」

「え……いや、でも。まだホントに始めたばっかりで」

「ああ、そっか。スキルマラしてるところ? ふぅん……残念」


 ぐいぐい来るな、と思った。

 もしかしたら俺と話したかったとか? とちょっぴり希望をもったのだって、悪くはないはずだ。

 目の前で笑う雨宮に背中を押されて、俺はも押し返してみつことにした。


「あー。あの、そのうち一緒にプレイできたらいいなーと。また誘って……いや、俺が誘うからさ」

「ホント? じゃぁ、また、声をかけてね!」


 花が咲くような顔で雨宮が笑う。俺もつられて笑ったところで、雨宮は友人に呼ばれて席を立って行った。

 できたらもっと話したかったのに。本当に残念だった。



 という事情があって。

 今まで使っていたガラケーは、俺の不注意により洗濯機にダイブ。データも機能もぜんぶ吹っ飛んだため、機種変を余儀なくされることになった。

 最近はさ、ガラケーってほとんどないのな。スマホばっかなの。店員さんもスマホ押しだし。

 そういうわけで、俺の新しい携帯はスマホになった。

 喜んでTWCをダウンロードしたのは言うまでもない。


 ちょっとプレイすると、雨宮が言っていたスキルマラの意味はすぐに分かった。

 チュートリアルをクリアすると、ボーナスとしてレアスキルを一つ貰えることになっているのだ。

 本来レアスキルを回すには【金貨】というアイテムが必要で、ゲームを進めるうちに手に入るんだけど、課金して買う事もできる。強いレアスキルをもっている方が攻略には有利になるのは言うまでもない。

 だがしかし。【レアスキル】には当たりとはずれがある。

 当たりである強スキルをひけるまで、チュートリアルを繰り返すことをスキルマラというのだそうだ。

 以上、TWC攻略ウィキより抜粋である。


 一晩かけて、ギリ当たりと言われるスキルをゲットした俺は、寝る間を惜しんでレベル上げをした。

 いわゆる初心者を卒業して、ようやく雨宮に声をかける事ができた。始めから声をかけなかったのは、男としてのプライドということにしてほしい。

 たった二日でここまでクリアしたの? と驚いた雨宮の顔はとても可愛かった、とだけ言っておく。


 そんなこんなで、一人だったり雨宮と一緒だったり、三ヶ月ほど楽しくゲームをしていたところに届いたのが、アンケートのお知らせだった。


 簡単なアンケートに答えるだけで、全員に金貨五枚をプレゼントするという、良さそうな内容のメールだった。金貨は一枚五百円もする課金アイテムだ。それが五枚──二千五百円分──もアンケートに答えるだけで手に入るなんて、どうしてやらないわけがあるだろうか。いや、ない。反語。

 もちろんアンケートに答えたわけだが、ぶっちゃけ内容は覚えていない。なんとなく魔王(新キャラ)に関するアンケートだったんだけど、適当に選択肢を選んでいたからなぁ。

 三分くらいかかっただろうか。全部答え終わって、終了ボタンを押したところでルーレットが始まったんだ。

 パチンコで良くあるクルクル回ってるやつな。アレはなんていうのかな、スロット?


 これがスペシャルプレゼントの抽選か──って、ぼんやり眺めてたんだよ。だって、当たるわけないからさ。

 俺はこれでも【幸運】なんて引いたことがなくてな。

 ゲームでだって、本命といわれるアイテムもスキルも引き当てたことが無いわけだ。


 だから当然ハズレだろうと思った。


 ところが、当たったんだ──いや、こうしてみるとハズレだったのかもしれない。



 だって、大・当・り! の文字が揃ったと思ったら、一瞬意識が途切れて草原にいるんだから。


 ああ。どういうことなんだろう、コレ。

 ここどこ? 

 俺のバックとスマホ──は、手に持ってたわ。マジで意味わからんし。

 寝てるのか? 白昼夢なのか?


 早く目が覚めてくれと願う俺の目の前で、大きなタマゴに張られた紙がゆらゆらとゆれていた。


 って、今さらだけど紙? なんでこんなところに張られてるんだ──って、【魔王を育てて下さい】?

 え……それって、アンケートの──そうだ、最後の質問だ。



 Q:魔王を育てたいですか? 

 A:はい



 はい。──はい選んだよ。

 そのせいかああぁぁぁぁぁああ!?


 何やってんの俺。

 何やってるのおおぉぉぉぉおお!?


 だって育成モノかと思ったし!?

 レアキャラ育成とかご褒美だって思ったし!

 まさか、潜在意識に残って、こんなわけわからん夢を見るハメになるとは思わないから!


 いいえ押すよりは、心象いいかなって思った結果が悪夢(コレ)である。

 夢なら早く覚めてくれ。



『三日後』



 水もメシもいらない。ついでに排泄もないって、夢決定です。本当にありがとうございました。

 思考だけがグルグルグルグル。いつまでたっても目覚めはこない。しかし、どうしたものか。


 周りにはタマゴしかない。

 タマゴ。タマゴ、タマゴ、タマゴ──って、増えてる!?

 増えてるよ、タマゴ!


 いつの間にか、大きなタマゴの下に、スーパーでよく見るパックサイズのタマゴが三つ増えていた。

 白色が一個、茶色が二個。でもニワトリの卵じゃないんだろうな。

 タマゴのタマゴなのか? どういうことだろう?

 勇気を出して触ったみた小さなタマゴは、つるかたで、ただのタマゴのようだった。


 なんだ──とホッとした。コレに触ったら何か変化があるような気がしたのだけど、まったく何も変わらない。

 なんの変哲も無いただのタマゴだった。変な張り紙があったから驚いてしまったけれど、普通のタマゴだった。

 なら、この大きなサイズはダチョウの卵だろうか。ダチョウの卵一個で、ニワトリの卵三十個分位はあるとテレビで言っていたしな。


 初めて触った大きなタマゴは、小さなタマゴよりザラザラしていた。

 白一色のタマゴに張られたメモ──セロハンテープで留められていた──を剥がすと、くしゃりと丸める。

 近くに放ったメモは、風に煽られながら落ちてゆく。背の高い雑草の中に落ちたようで、すぐに見えなくなった。


 コン、とタマゴの表面を叩くが返事は無い。

 そりゃそうだ。タマゴから返事が返ってくることを期待した方が間違っている。

 コン、コンと繰り返し、何の反応もないことを確かめると、タマゴに両手をかけてゆっくりと持ち上げてみた。


 三十センチのタマゴは軽かった。

 なんというか、中に何も入っていないような軽さだ。

 不思議に思って、もう一度タマゴを叩いてみる。


「もしもーし」


 夢の中だし、恥ずかしげもなく独り言を口にした俺の腕の中で──タマゴが割れた。



 それは一瞬のことだった。

 力なんて入れていないのに、ノックよりも軽く叩いただけだったのに。

 タマゴにはヒビが入り、穴があいた。



 小さく開いた穴の中。一瞬だけ目を見開いた赤ちゃんが見えた気がするが、気のせいだったのだろうか。

 緑の目をいっぱいに見開いて、俺を見ていた気がする。

 ぎゅっと結ばれていた小さな口が、何かを言うように動きかけて──



 我に返った時には、タマゴの中は空っぽだった。


「あれ、気のせい?」


 やっぱり軽いタマゴをじっくり観察するが、特別なところは何もない。

 ただのタマゴの殻だった。ただの、といっても厚さは五ミリはある。どうしてコレが割れたんだろうと、首をひねりながら足元を見て──そこに四人の幼児がいた。近くにはタマゴの殻が転がっている。


 目を閉じ、開いて、閉じて、開いて──何度か繰り返すが、幼児達は消えない。

 その四人の幼児達は、高い声で笑いながら俺の足元に集まってきた。


「……ぱぱ」

「「「パパー」」」


 声をそろえて言うのが可愛い──ではなく。

 目の前の幼児達を見ながら、俺はどうしたらいいのかと空っぽになったタマゴをなでた。


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