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この美丈夫な毛布は神様が与えた罰かもしれない

 毛布って心地いい。

 フワフワしてるしモフモフしてるし体全体を包み込んでくれる包容力(?)、素晴らしい。

 ちょっと寒い日なんかは毛布にくるまってるとこの上なく幸せになれる。

 小さい頃は夜にランプを持ってきて、毛布の中でなんちゃってテントごっことか秘密基地めいた空間にはしゃいだりしたものだ。

 っていうか今もたまにしてるけど。

 何だっけ、安心毛布?ライナスの毛布とか言われる事もあるし、元々毛布ってやっぱりどこか安心させてくれる存在なんだと思う。

 まぁでも、もっともっと、って求めちゃうのは人間の性だよね、サガ。

 だから僕がパソコンで見かけた『擬人化』ってジャンルで、身のまわりの物が擬人化されたイラストとか漫画を目撃して、ついつい「毛布が擬人化されたら」を想像しちゃったのは普通だと思うんだ。

 うん、ちょっとオタクっぽい思考だとは思うけど、でもするよね普通。

 そんでもって「毛布が可愛い女の子だったら……」とか考えてなんかニヤニヤしちゃって、それでちょっとヨコシマな妄想しながら寝ちゃったとしてもそんな変な流れじゃないはず。

 でもやっぱり神様は見てるんだろうか。

 とか唐突に有神論?みたいな事考えちゃったのは、


「ああもうっこうして直にお話できるなんて夢のようです我が主っ!」

「やめて近寄んないで変質者ぁあー!!」


 朝起きたらタオル地の服着た美丈夫に、覆いかぶさられてたからです。

 美丈夫改め変質者。

「『へんしつしゃ』ではございません、私は貴方の毛布です!」

 変質者改め僕の毛布。

 いややっぱり改まんない。どう考えたって毛布じゃないよこの筋肉男、変質者だよ。

 でも、そう、万が一、万が一ね?この鬱陶しいほどイケメンな筋肉野郎が僕の毛布だとしたら、ヨコシマな妄想した僕への罰だと思うんだ。いや意味わかんないけど。

 だって可愛い女の子で妄想してたのにこれ、このガタイ。ひどい。

 美少女が美丈夫。言葉の感じが似てるからって騙されないぞ!っていうかやっぱり毛布なんて有り得ない!100パー変質者だよね!?

「っていうかどっから入ったんだよ!? 窓の鍵は閉めてたはずだぞっ」

「入ったも何も、私は最初から貴方の傍におりましたよ」

「うぅわーキモイ! 鳥肌たったあああ!! おかあさ、おかあさーーーーん!!」

 ストーカーが!家の中にストーカーが!

 っていうか今まさに襲われそうな体勢です、助けてお母さん!

 人ってなんで何かあると神様かお母さんに頼るんだろうね。この前見たテレビの海外ホラーどっきりでも、大の大人がマミーィィイ!って叫んでたし。

 すぐにバタバタバタって階段上がる音がして、

「どうしたの!?」

 部屋のドアがガチャッと開いた。救世主が来た!

「へへへ変質者が、こい、こいつ!」

 僕に覆いかぶさったままの男を指さして言えば、怪訝な顔する我が母上。

「……いや誰もいないじゃない」

 絶句。

「なに? またごっこ遊びでもしてたの? もういい加減そういうのは卒業しなさい、小さい頃も『やいトリデの魔女! このカイゾク船長にお宝をさしだすんだ!』とか言ってたけど変質者がどうとかは本当にびっくりするからやめてちょうだい」

 そう言って我が母上は小さい頃の恥ずかしい記憶も掘り出させてから、パタンとドアを閉めてトントントンと階段を下りていったのだった。まる。

 ………………いや「まる。」じゃない!


「えっ……え……、」

「私の姿は我が主、貴方にしか見えませんよ」

 なんか変質者がファンタジーな事言ってる!

「やめっやめてよそういうヒゲ、ヒゲンディツ的なこと言うの!」

 噛んだ。焦りすぎて噛んだ。

「ひげんでぃつ?」

 小首傾げながら聞き返すな!キモイ!恥ずかしい!

「非現実っ! 僕の毛布だとか僕にしか見えないとか、そんなの有り得ないじゃんっこんな、こんなの……そうだ夢! 夢見てるんだよ僕、あ、あはは」

 そうだそうだよこれ夢だよ、なんだびっくりした全部夢なんじゃん。

 そりゃそうだよね、毛布の擬人化を考えながら寝て朝起きたら毛布が美丈夫になってのしかかってました、なんて。ナイナイ。ナイわ。

 よしこの悪夢から覚めよう。

「ちょっと僕寝るね、オヤスミナサイ」

 夢から覚めるために寝よう、そうしよう。

 矛盾?してないよぜーんぜんしてないよ、でもほっぺたは抓らないようにしようなんか危険だし。

 別に抓ってみて痛かったらとか思ってない、思ってないってば。

「では主を包み込んでさしあげま」

「うわああああやめろバカッ!!」

 くそっ起きようとするとこのクソ美丈夫が邪魔してくる!

 覆いかぶさったまま両手を広げるんじゃない!UFOキャッチャーみたいに僕をキャッチするなバカ!

「離せ! 離せこの野郎っ」

 もがいても全然微動だにしなくてちょっと泣いた。服がタオル地のせいでフワフワ包まれてる感じなのに、そのフワフワが全然引き離せないって何だこれ怖い。

 ちょっと泣きつつ男を睨んだら、なんか悲しそうな顔された。

「主……なぜそうも拒絶されるのですか」

 胸に手を当てて考えてみろ。

「私はずっと主と共にあったというのに、まるで知らない相手のような振る舞い……悲しいです」

 いやアンタみたいなイケメン筋肉なんか知らないし!

「どんな夜も一緒だったではありませんか。寒い夜はどの季節よりも寄り添い、暑さで寝苦しい夜も貴方は私を離しはしなかった」

 ああああ何か嫌だ!その言い方やめろー!

「時には貴方の体液が私に染み込んだりもした」

「いやそれ多分よだれだよね!? 変な言い方すんなよ!」

 ついツッコんだら嬉しそうな顔された。えっなに。

「ああ……やっと私を貴方の毛布と、認めて下さいましたね」

「…………いや認めてない」

「嬉しいです。私の感触も思い出して頂けましたか?」

「いやだからそういう言い方やめろって、思い出すわけな……っ」


 ぎゅうぅ。

 めっちゃ抱き締められた。

 ここで一番問題なのは、自称毛布の変質者にベッドの上で抱き締められてる事じゃない。

 その感触に、覚えがある事だ。

(なんでや)

 別に関西出身でもないのについそうやってツッコんじゃったのは、もう何か色々オーバーしてたからだと思う。もう何か、事態についていけなかった。

 何で変質者のタオル地の服の感触が、僕の毛布と一緒なわけ?

 遠くなる意識はショックのせいか眠りのせいか分かんなかった。

 ていうか、悪夢よ覚めろ。


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