乙音響という人間
「異能力っていうのはね、ある強い思いから生まれるものなの。」
「強い…思い?」
「えぇ、例えば乙音さんならば…と。これは私の口から言っていいのかしら?」
そう言って彼女は乙音の方を見る。
しかし彼女はいつもの笑顔で
「いいよ!平気平気!」と答える。
「そう…なら私から言わせてもらうわね。彼女は幼い頃に両親を亡くしているの…。」
「なっ…!?」
乙音響。
小さい頃からいつも笑顔でたくさんの友達に囲まれていた。しかし彼女から笑顔を無くした瞬間…そう、彼女の両親が事故にあってしまったのだ。
物心のついていた彼女には両親の死が理解できた。二度とかえってはこないのだと。
その後彼女は親戚の家に匿ってもらい、再び笑顔で過ごしていた。
そんな彼女には夢があった。
歌手。歌うことが好きな彼女はよく母と父にその歌声を聴かせていた。歌を歌う楽しさ、それを聴いて喜んでくれる両親。それがいつの間にか夢となっていた。
両親が亡くなってから歌う気さえ無くなりかけていたが両親の喜んでいた顔を思い出すと…
そして彼女は再び歌うことをはじめた。
学校ではバンドを組み、自分なりにボイストレーニングをして、路上ライブまでやった。
歌っていることで天国の両親に自分がここにいることを知らせることができると思ったからだ。
歌うことは私の『存在』だ。