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6   六十井 朔 3

今更ですが、ブックマークに登録して頂いた方有難うございます!


すごく嬉しいです!

「何が悪魔だ、ついに気でもふれやがったか? この屑が!」


『りょうか~い。 契約完了』


 鶴見ヶ丘が、未だ床に這いつくばっている朔の顔に、叫びながら革靴のつま先を蹴りこんでくる。


 そんな鶴見ヶ丘の声に重なるように聞こえた、悪魔の声。


 その瞬間、朔の身体に力のようなものが流れ込んでくる。


 そして、グシャリとあらぬ方向に捻じ曲がる、鶴見ヶ丘の足首。蹴りを受けた朔のほうは平気な顔をしていた。


「ひっ! ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 鶴見ヶ丘が悲鳴をあげて転がる。逃げようとしているのだろうが、片足では上手く行かず、丁度三日前に朔がやったような、尻餅をついて後ろへずり下がった時と同じ動きをしていた。


「そうだよ。 悪魔に魂を売るぐらいに、怒り狂ってる」


 そんな鶴見ヶ丘を見下すように朔は立ち上がった。


 怒りで震え、今にも暴れだそうとする身体を気力で押さえつけ、呟いた朔。その右肩が、後ろから様子を見ていた兵士に掴まれる。


「邪魔するな!」


 掴まれた手に引かれるままに振り返り、朔は左拳で殴りつける。ただのテレフォンパンチだ。だが速度と威力が以上に高すぎた。


 周りからは朔の体が一瞬ブレた様に見えただろう。次の瞬間。


 生木が折れるような音が部屋の中に響く。


 その時にはもう、朔に殴られた兵士の頭はひしゃげ部屋の石壁に叩きつけられていた。


 首から下をその場に置き去りにして。


 余りの現実感の無さに、部屋に居る者全てが押し黙る。


 いや、朔だけは別のものを見て絶句していた。


 咀嚼音との凄まじいギャップを放ちながら、朔の目の前でモグモグと口を動かしつつ『よっ!』と、片手を挙げる手の平サイズの少女。一目で契約した悪魔だと魂が理解はしたが、想像していた姿との落差がひどるぎるのだ。


 それでも悪魔がどんな姿をしているのか等、今は関係ないと頭を切り替える事にした朔。


 静けさの中、頭部を失った体から噴出される血が床に滴り落ちる音と、悪魔が魂を啜る音を聞きながら、朔は死体となった兵士の腰のホルスターから。拳銃を引き抜くき、


「残弾良し。安全レバー解除。初弾装填完了」


一つ一つの動作を思い出しながら、声を出し、確認していく。


 これは、昨日の夜食事を運んできた男がやっていたことだ。反応が鈍くなってきた朔にゆっくりと見せつけ、声を出す事で更に恐怖煽り、そのおびえる顔を楽しんでいた。


 何を言っているかは分からない朔でも、何をしているかは理解できる。それから暫くは震えが止まらなかった。


 その経験から、あえて声を上げ、ゆっくりと動作をする。


 そして、頭を無くしても未だ立ち尽くしてる兵士の胸に、一発発射する。


「撃てるな」


 手の中の拳銃を眺めて確認した後、朔がゆっくり振り返ると、社長と目が合った。


「ひっ」


 朔が銃口を向けると、社長は分厚い唇の間から、引きつった悲鳴をあげる。


「みゃ、待ってくれ、六十井君! ワシが悪かった! だから許してくれ! 君を取り立ててやった恩は忘れていないだろう? だから、な?」


 多少噛みながらも、すぐに命乞いが出来る辺りは、人を殺しても平気な者の持てる、胆力なのであろうか。


「そうですね。社長には恩があります。恩は返さないといけませんね」


「だろう! だか…らぎゃぁっ!」


 安堵の表情を浮かべる社長が、また何か言い掛けた所で、朔はその右腕を打ち抜いた。


 喋っている途中だったからだろう、可笑おかしな悲鳴をあげるたらこ唇。


「これは、俺の分です、そして、田崎の分! 真野上の分! 木田の分」


 叫びながら、左腕、左足、右足を打ち抜いていく。


 社長までの距離は二メートル強。初めの一発で反動や照準など、銃の性質を掴んだ朔が外す距離じゃない。そしてそれは、撃つ毎に精密さを増して行く。最後の右足は狙い通り膝を打ち抜けたはずだ。


 声にならない悲鳴をあげて、痙攣しながら痛みに転げまわる社長ブタ


 そこに、朔が放ったのとは異なる銃声が響き、右肩に痛みが走る。


 目を向けると戦闘服を着た男が、朔に拳銃を突きつけていた。


 朔が拳銃を使った事で、彼らの現実に近い敵と認識され、正気を取り戻したのだろう。


「無駄ですよ」


 痛みが有ったのは一瞬だけ、朔の肩にはすでに傷の一つも無い。放たれた銃弾は足元に転がっている。朔自身気にしていないが、あれほど酷かった右腕の傷も、いつの間にか完治していた。


「なぁ、悪魔」


『なに~?』


 戦闘服の男に銃を向けようとして、思い止まり、とてもそうは見えない悪魔に話しかける。


 人は怒りが頂点に達すると、かえって冷静になると聞いた事がある。今の朔がその状態なのだろう。ただ作業をするように、淡々と思考を組み立てて行動している。


 本来なら、先に戦力の排除をする方がリスクを減らせれるのだが、その間に社長に逃げられては意味が無い。だから社長が逃げられないようにしたのだ。


 鶴見ヶ丘は、あの状態なら走る事は出来無い。だから放置している。


 ここに居る人間は皆殺し、それは確定だ。その気になれば瞬殺する事も可能だろう。


 だが、それでは朔の怒りは収まらない。出来るだけむごたらしく、己の罪を味合わせながら殺す。そう決めているのだ。


「お前マーカーみたな事できるか?」


『マーカー? って、なに?』


「目印みたいなものを付けて、それが何処に行ってもすぐに居場所が分かる感じの物かな?」


『あぁ!それなら「これは私の物~~っ」て印を付けるだけでいけるよ!』


「今すぐ、ここ(・・)に居る全員に、できるか?」


『余裕~』


「じゃぁ、やってくれ」


 相手の反撃など意味は無い。銃で撃たれた傷など直治る。戦闘服の男と朔を連れてきたもう一人の兵士、そして食事を運んできた男の三人が放つ弾丸は、それを証明するかのように、朔に対し何の行動を阻害する事もなく、悪魔との会話を邪魔する事すらできていない。


 だが、逃走され、姿を隠されては面白くない。姿を見失い逃げ切られてはその後、探し出すのが面倒になる。だが、何時でも居場所が分かるのなら、話は別だ。一人一人、じっくりと相手が出来るのだから。


『ほいっと』


 悪魔の声とともに、黒い炎の様な物が無数に飛び立っていく。戦闘服の男は頬の辺りに、残り一人の兵士と、食事を運んでいた男は胸元に、それぞれ焼きごてのを押し付けられたような痕が刻まれていた。よりにもよって、デフォルメされた巻角少女がVサインしてる、痕が。


 三人は一瞬痛そうに顔を顰め、黒い物が当たった辺りに手をあてた。「何をした?」と表情で訴えながら朔のほうに顔を向けた時、三人とも硬直し、後ずさりし始めた。


 その視線は朔と言うより、朔の傍に居る悪魔に向けられている。


『あっそうそう、いい忘れてたけど、印を付けられた人はアタシの姿が見えるみたいなの。 それと、契約者と、死ぬ寸前に生きたままアタシに魂を食べられてる人が、アタシを見えるようになる条件…かな?』


 なぜか最後が疑問系で終わる悪魔。実は本人もよく分かっていなかったりするのか。


「その割には怖がってるように見えるぞ?」


『当然よ! 本来悪魔には姿形なんて無いんだから。 見たいものが見たいように、見せたい悪魔が、見せたいように見えるのよ』


「分かるような、分からんような話だな」


『つまり~』


 ん~~と、悩むように指を口に当てて、どう説明しようか考える仕草をする悪魔。


『今アタシはあんたに、「見方ですよ~~。怖くないですよ~~」って、念を送ってて、それを感じ取って、あんたの脳が勝手に作り出したイメージを、目で見えているように認識させてるって事』


「じゃぁ、あいつらには?」


『あれは、美味しそうなご飯。 だから、あの二人には、本能的に魂を貪る悪魔が勝手に想像されて、見えてる?』


 又最後は疑問系なのだが、悪魔にとって獲物にどう見られるかなんて、関係も無い話で考えた事も無かったのだろう。


「それなら、この会話やつらにも聞こえてるのか?」


 もしそうなら、話す内容も考えなくてはならない。


『それがね~、印し付けた人間には何を話しかけても、怯えられるだけなんだよね。 だからよく分からない。 案外うめき声にしか聞こえてないのかも?』


「そうか。ありがとう」


『うわ~っ、うわうわっ、褒められた~~っ!』


 朔としては、自然と出てきた、故郷の国の会話の一つとして良く使われる、感謝の言葉なのだが、言われた悪魔の方はそうでも無かったらしい、頬に両手をあて嬉しそうに腰をクネクネとさせている。


(そんなに腰をウネウネ動かしたら、ズレて見えるぞ)


 なに(・・)が見えるとは色々な意味で絶対に口には出来無い。口に出したのは別の事だった。


「さて、鶴見ヶ丘。 お前この国の言葉話せるよな?」


「はっ、はひっ!」


 悪魔と朔を交互に見比べる、鶴見ヶ丘。その額にも刻印の様な物が刻まれている。


「じゃぁ、あいつらに伝えてやってくれ、「お前らには生贄の刻印を付けてやった。お前らの神に仕える高位な神職者なら、その呪いも解けるかも知れんが、刻印を付けたまま死ねば、魂は悪魔に喰われ、永遠の地獄を味わう事になるだろう」とな」


「生贄? あくま?」


 鶴見ヶ丘は訳の分からない顔で、見上げてくる。 説明するのも面倒と、朔は振り向きもせず、拳銃を兵士に向かって放つ。


『ご飯げっとっ!』


 後ろで、人が倒れる音と悪魔が魂を貪る音が聞こえる。場にそぐわない声が聞こえた様な気もしたが無視する。


「早くしろ」


「分かった、分かったから、殺さないでくれ」


 朔とその背後光景を見比べながら、目先のせいにしがみ付き、鶴見ヶ丘は先程の朔の台詞を翻訳して伝える。


『うん、うん、言ってる事は大体合ってるね』


と、悪魔も「私役に立ってるよ! 凄いでしょ!」オーラを出しながら、後ろから肯定してくる。


(この悪魔、語学も堪能か、ほんとに使えるな)


 鶴見ヶ丘が、伝え終えると、男達は走って逃げ出していく。死ねば神の身元へ召され、最後の時まで安らかな眠りにつけると説いている彼らの教義からすれば、最も恐ろしく、おぞましい呪いをかけられたことになるのだ。


 例えこれまで口先だけの信仰だったとしても、いくら弾丸を撃ち込んでも殺せない、不気味な男ともに目の前に悪魔が現われたのだ。救いを求めて何かに縋る気持ちも芽生えるだろう。そうなるように助言も与えた。今更間違った教えとして、虐殺してきた他教徒の神に助けを求めるような事もできまい。


 後は、彼らを追い詰めていけばいい。それで、殲滅できる。より苦しめながら…。


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