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37  ヌケれない夜

本日の投稿、遅くなってしまい、すいません。


それと、ブックマーク100人突破! 累計PV三万四千! ユニーク五千七百!


読んで頂いている、皆々様! 本当にありがとうございます!!

 今朝の出来事は、ミラベルにとって衝撃的だった。


 幼い頃からタルラに憧れ、何年も剣を振るってきたのだ、一つ二つ年上の男の子にだってこれまで一方的に負けたことはなかった。


 なのに昨日今日剣を握ったばかりのサクに、全く歯が立たなかった。 タルラは身のこなしが上手いから、かわされただけで剣で負けてるわけでは無いと言って慰めてくれたが、負けは負けである。


 しかも、勝負の途中で泣きじゃくり、タルラにみっともない所まで見せてしまった。 この旅で自分の実力を見て貰い、行く行くはタルラの部下にと夢を膨らませていたミラベルにとっては、サクに負けた以上にその事を後悔してしまう。


「サクは確かに人並み外れた才能があるかもしれない。 しかし、今のままならば数年後には、ミラベルの方がきっと勝つ。 私はそう思っているぞ」


 タルラがミラベルを撫でながら口にした言葉。 真実なのか、タダの慰めか、ミラベルには判らなかったが、今のどん底の気持ちから立ち上がるには十分な光であった。


「で、でしたら、タルラお姉さま。 サクを叩きのめして、私が魔法騎士(マジック・ナイト)に成れたら、お姉さまの部下にして下さい!」


「あぁ、ミラベルが入団したら恐らくそうなるだろう。 内定している私の役職からしても、女性の団員が増えることは有難い、その時は遠慮なくこき使わせてもらうぞ」


「はい! 頑張ります!」


「ただし、私とてサクをあのままにする気は無い。 マイアさんとの約束もあることだし、トーレスと二人でサクを鍛え、学園に入学できる実力を身に付けさせるつもりだ。 それでも、サクに勝つ気概はあるか?」


「当然です。 こてんぱんにしてやります!」


 別にサクに勝つことが魔法騎士団(マジック・ナイツ)への入団条件ではないのだが、ここへ来て、明確な目標が出来たのだ。


 ミラベルは、魔法騎士となりタルラの横に並ぶには、サクは越えなければならない壁と認識したのだった。


 だから、馬車の中で宣言までして、いつか倒すと決めたのだ。


(なのに、なんで……?)


 夕方、タルラの部屋に集まり、魔術の練習を行うと言う時、ベッドでサクが隣に座ると、それだけで敵愾心は霧散してしまう。 それどころか、集中しなきゃと思いながらも、気もそぞろになり、落着かなくなる。 かと言って嫌なわけでもなく、たまに触れる肩が妙に気になって、そこだけを意識してしまう。


 ミラベルがそんな状態だと言うのに、サクはと言えば、昨日習ったばかりの《明り(ライト)》の《呪文(スペル)》を発動させて自慢げな顔をしている。


(剣だけじゃなくて、魔術まで……。 納得行かない!)


 口には出せないが、サクの成長の早さにミラベルは、理不尽な物を感じてしまう。


 だから、チェミーが次にサクに教える魔術を考えている時に、思わず口を挟んでしまった。


 それだけじゃなく、サクから魔術書を見せて欲しいと言われた時も、反射的に拒否してしまう。 初心者からの習得を目的に作られた魔術書だから、お金さえ払えば誰でも手に出来る程度の本だ、修められているのも全て世に広まっている《呪文(スペル)》ばかりで、見られても困る事は何一つ無いはずなのに。 でも、サクの才能の前には、多少の意地悪ぐらいはしたくなると言う物だ。


 だと言うのに、サクは気にした様子も無く、「ミラベルなら見せてくれる」と、信じきった目をこちらに向けて、何度も頼んでくる。


 それどころか、どこかこのやり取りを楽しんでいるふうで、ミラベルとしても僅かな妬みからやってしまった事で、自分の心の小ささに気が付き、短いとは言えサクとの付き合いで何となく、この辺で「そこまで言うなら、仕方ないわね」と言えば、折り合いがつきそうな時、


「へ~、ミラベルちゃん、そんなこと言っちゃうんだ。 良いわサクちゃん、私と一緒に見ましょうね」


と、横合いから声が挟まれ、そのままチェミーがサクの反対側に座ると、一緒になって魔術書を見始めた。


(あ、あれ?)


 何か、梯子を外された気分になって、二人の姿を眺めてしまうミラベル。


 サクの体がチェミーの膝の上に置かれた魔術書を覗き込もうと少し離れる。 これまですぐ隣で感じられた体温が失われ、ミラベルは七月だと言うのに、サクが居た側が心なしか寒く感じられた。


(な、なによ、あんなにくっ付いちゃって。 サクのスケベ!)


 元はと言えば、意地悪をした自分が悪く、それが分かっているのに、どこからともなく湧き上がってくる不満に、ミラベルは心の中で毒づいてしまう。


 仲良く肩を並べる二人の方を見れず、視線を彷徨わせると、物言いたげな瞳でこちらを見ている侍女のムルビィと目が合ってしまった。


(わ、私が意地悪したからって、そんな目で見なくてもいいのに! ムルビィも、言いたい事が有るなら、何時もみたいにハッキリ言えばいいでしょ!)


 ムルビィの言いたいことは分かっているつもりだ。 身寄りも無く、本を持っていないサクにあんな大人気ない事をしてしまった自分も反省はしている。


 だからと言って、今更「一緒に見ましょう?」なんて恥ずかしくて、口に出来るわけが無い。


 気恥ずかしさを押し殺し、口にしたとしても「チェミーと見るから、いいよ」なんて断られたらと思うと、怖くて動くに動けなくなってしまった。


(怖い? なんで?)


 自分で想像した事にも拘(かかわ)らず、サクが「ミラベルよりチェミーが良い」と、口にする姿に、ドックンと鼓動がはねたかと思えば、頭が真っ白になってしまう。 もっと言えば、なぜそんな事でショックを受けているのかも理解できず、更に混乱してしまっていた。


 しかし、目線の先ではムルビィが無責任にも、目の動きでサクとチェミーの方を示し、声をかけるように催促してくる。


(出来れば、とっくにやってるわよ!)


 半ば八つ当たり的に、ミラベルはムルビィからプィッと顔を背けてしまう。 だが無意識にサクとチェミーが見えないほうへ顔を背けてしまった為、向けた先には部屋の扉と壁しかなかった。


「それじゃぁ、サクちゃん、私に続いて《呪文(スペル)》の詠唱をしましょうか?」


「はい」


 サクが次に覚える魔術が決まったのだろう。 ミラベルの耳に、楽しそうな声が聞こえてくる。 が、その途端、ムルビィが焦ったようにミラベルに詰め寄り、目を塞いできた。


「へ? なに?」


 さっきの混乱もまだ残っていると言うのに、全く理解が出来無い行動をとられ、疑問が口をついて出てしまう。


「お嬢様には、まだ早いかと思われますので…」


(なにそれ!? 私には未だ早くても、サクなら良いってことなの!?)


 ムルビィが耳元で囁(ささや)いた言葉に、納得出来無いミラベル。


 両親が美味しそうにお酒を飲んでいたから、少し欲しいと言った時の「もう少し、大人になったらね」の台詞に匹敵する物を感じる。 何よりサクはミラベルと同年代で背だってそんなに変りはしない。


 大人になれば背が伸びて、魔力も増え力が強くなる、程度の認識しかなかったミラベルだが、もしかしたら子供ではやっちゃいけない魔術の秘密な習得方法でも有るのかと、疑ってしまう。


 そんなミラベルの耳に、「じゃぁ、次はサクちゃん一人で唱えてみて」と、聞こえてくる。


「あ、あの、お嬢様。 念のためにお耳も塞がれた方が宜しいかもしれません」


 後ろからミラベルの目に手を回すムルビィが、そんな事を言ってくるが、当然聞けるわけも無い。


「い、嫌よ。 ムルビィも、この手を離しなさい!」


「そう言う訳にはいきません」


 ミラベルとムルビィがやり取りする間にも、サクが《呪文(スペル)》を唱える声が聞こえてくる。 そして唱え終わる頃、


「…んっ。 …くぅん…」


と、サクのうめき声にしては妙に上ずった、鼻にかかった何かを堪(こら)える様な声が聞こえてきた。


「これが、先ほど言っていたアレか…。 なんと言うか、見てはいけない物を見せられている様な……、そのくせ、目が離せなくなってしまう物だな」


「はい。 でも、昨夜はしばらくすると治まって、その後も問題なく普通にしてましたので、大丈夫だとは思うのです」


「そうか、それなら良いのだが」


 タルラとチェミーのやり取りに、ミラベルはやはり何かあるんだと気色ばむ。 そして、魔術を一日で習得する秘術を一目見ようと、《速度向上(スピード・アップ)》の《呪文(スペル)》を唱え、ムルビィの拘束から己が瞳の自由を奪い返した。


 ちなみに、サクの事は事前にタルラ達が話し合っていたのだが、自分の話では無い上に、チェミーが大丈夫だと言っていたので、ほとんど聞き流していたので、自分の頭の中だけとは言え、色々と有ったミラベルは、すっかり忘れてしまっている。


 そして、ミラベルの目に飛び込んできたのは、顔を赤く染め、何かに耐えるように身悶えながら、指や身体をモジモジと動かすサクの姿であった。


「あ、サク大丈夫?」


 本能的に何処か遠慮させられてしまう姿に、ミラベルは一瞬戸惑うも、心配になって声をかけしまう。


「み…、みないで…。 はずかしい…くぅんっ…から、おねがい …んっ… ミラベル…」


 身を捩りながら、赤く染まった頬の上にある、トロンと潤んだ熱の篭った瞳で、こちらを見つめ、恥ずかしそうに、お願いしてくるサクから、ミラベルは目が離せなくなってしまう。 気付けば、ミラベルの鼓動は早く脈打ち、サクにあてられたかの様に頬が熱くなって来るのが分かる。 きっと今頃はミラベルの顔も、目の前のサクと同じように桜色に染まっていることだろう。


(こ、これが大人の扉?)


 有っているような、間違っているような感慨を受けるミラベル。


「お嬢様。 サク様は、《呪文(スペル)》を習得する時に身体がモゾモゾする体質らしいのです」


「へ? あ、そ、そうなの?」


「はい。 問題は無いそうなのですが、その、あまり見られるのは目の毒かと思いますので、お嬢様も程々になされるのが宜しいかと…」


 サクに見蕩れていたら、ムルビィに横から話しかけられ、説明される。 見れば抑えてはいる様だが、ムルビィの頬も多少上気しているのが分かる。


「そ、そうね。 サクも見て欲しく無さそうだったし、あ、あまりじろじろ見るのは失礼よね」


 言いながら、ミラベルは慌ててサクから目を逸らす。 子供心にも「これは見てはいけないもの」だと感じられる何かがそこにはあったのだ。


 そして、サクが落着くのを待って、この夜はお開きとなったのだが、色々と悶々としてしまったミラベルは、その夜を眠れぬまま過ごす羽目になってしまったのだった。



 *********



 ミラベルが、瞳を爛々と輝かせ、眠れぬ夜を過ごしているその時。


 トーレスの隣のベッドで寝ていた朔は起き上がり、昨夜に続いて夜の特訓をしようと動き出した。


「ん? サクどうした?」


 だが、朔がベッドから降りたところでトーレスが気が付き、声をかけてくる。


「あ、トーレス おこした? ごめん トイレ」


「そうか、帰ってくるまで鍵は開けて置くから、気を付けて行って来い」


「うん、ありがとう」


(こりゃトーレスと相部屋だと、抜けれそうに無いな…)


 朔は頭をかきながら、今日の特訓は諦めるしかないかと、一人ごちて、言葉通りにトイレへと向かった。


 そして、戻ってくるまで、部屋のランプをつけ直し、起きて待っていてくれたトーレスに、悪い事をしたなと思いながら、ベッドに潜り込む朔であった。 




 

 

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