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24  一本スジの通った女の子

PV合計 11,000こえた~~!


ブックマーク46人に!!


ありがと~~~~!


頑張ろう! と言いつつ、今回はこんな話(^^;

『それじゃぁ、サクちゃん。 お食事の前にお風呂に入ってきましょうか』


 控えの間の様な所に入ると、マイアが朔に話しかけてきた。


 朔としては急いでいるけど、逆らえば時間の無駄になる。 出来るだけ早く一人になるには大人しくしていて隙を見るのが一番手っ取り早いだろう。 と言っても、言葉が通じない設定上、話しかけられて反応するのも余計な詮索を招く事もありうるので、結局従うしか選択肢は無いのだが。


 そしてマイアに呼ばれた若いメイドに手を引かれ、お風呂へ案内される。 マイアはやる事が有るのか、部屋に残って他のメイドに色々話しかけていた。


(お風呂か~、かなり久しぶりかも)


 昨日アボーテ男爵の所では、平民出身と言う事でお風呂には案内されなかった。 お湯で体を軽く拭いて終わりである。


 それに比べれば、この家ではちゃんと客として迎え入れてくれているのかも知れない。


(でも、そんなにのんびりも出来無いんだよな~。 残念)


 案内してくれたメイドは、着替えでも取りに行くのか、脱衣所の様なところで引き返していった。


 誰も居ないならと、一気に服を脱ぎ捨て、体を洗い湯船に飛び込む。 流石にタオルは無いが、少し癖の有る匂いの石鹸と、綿糸を編んだ厚手の布が用意されていた。


(ふはぁ~~~、生き返る~~)


 朔にとっては半年以上ぶりの風呂に、体の中から脱力していく。


『お待ちくださいお嬢様! 今はお客様がご利用になられています!』


『お客様って、タルラお姉さまでしょ! 戻ってきたの知ってるんだから! お姉さまと一緒に入るの! 邪魔しないで!』


 朔がようやく一人になれた事で命の洗濯をしていると言うのに、脱衣所辺りがやたらと騒がしくなった。


(ちょ、ちょっと待った!? お嬢様って、女の子? それが入ってくるの!?)


 しかも、朔にとっては最悪なやり取りがされている気もしないでもない。


 そして、朔が湯船に深く漬かって身構えていると、風呂場のドアが開き裸の少女が入ってきた。


 肩に掛かるくらいまで伸ばされた茶色がかった髪に、同じ色の利発そうな大きな瞳、そして成長の兆しが見え始めたささやかな胸、十歳前後の活発そうな一本スジの通った所が垣間見える子だった。


『……あんた、だれ?』


 少女は手に朔が使ったのと同じ布を持ちながら、何も隠すことはしないままこちらを不思議そうな顔で眺めている。


(いや、誰っていわれても…)


 朔はあっけにとられながらも、自分を指差して「朔」と言ってみる。 ドアの向こうでは侍女が『入っちゃった~。 ま、いいか』と、気楽な態度でこちらを眺めている。


『サク? 変な名前ね。 で、タルラお姉さまは?』


 返事の仕様も無く首を横に振る朔。


『なに? 口が利けないの!?』


『お、お嬢様。 このはタルラ様から預かったお客様で、異国の子らしく言葉が通じないらしいのです』


 外にいたメイドが、見かねて取り成しに入ってくる。


『タルラお姉さまの!? どういう事? 私があれだけお願いしたのに連れて行ってくれなかったのに、この娘はいいの!? あんた! サクだったっけ、まさかお姉さまと一緒に寝たりしてないでしょうね!?』


 取り成された筈なのに、なぜか声を荒げ始める少女。 「昨日チェミーと川の字になって寝ました」なんて、物理的にも、口が避けても言えない朔は、困ってメイドの方を見て助けを求める。

 

『両親が殺されて、森で彷徨って居た所を、タルラ様が保護なされたらしいですよ。 まだお嬢様と同じくらいの子供なのに、かわいそうな話ではありませんか』


『……なら、仕方ないわね』


 基準が判らないが、メイドの話に納得したのか、少女の機嫌が直ってくれた事に朔はほっと胸を撫で下ろす。

 

『サク。 髪がまだ汚れてるわよ、洗ったげるからこっちに来なさい』


 しかし、安心したのもつかの間、脱力した朔のが手が不意に引っ張られ、湯船から連れ出されそうになる。


 思わず抵抗してしまった朔が、湯船の端で足を引っ掛け、前のめりに少女の方へと倒れこんだ。


「うわっ!」


『きゃっ!』


 浴場に木霊する二人の声がおさまる頃には、尻餅をついた少女の足の間に朔の顔が突っ込んだ体制になっていた。


『ちょっと、サク。 何やってるの? しっかり立ちなさい』


「へ? あ、ごめん」


 目の前に有るそれ(・・)に混乱して、少女の言う通り慌てて立ち上がる朔。


『え? えぇぇぇぇ!? お、女の子って…言ってた…』


「へ?」


 丁度目の高さになった朔の股間に、目線が釘付けになる少女。


『きゃああああああああっ!』


「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!」


『きゃぁ、かわいい』


 そして浴場に木霊する少女の悲鳴と、何処か嬉しそうなメイドの声。 どちらも目元に手をあててるが、その隙間はしっかり保たれているのを朔は見逃さなかった。 しかも、少女に至っては尻餅をついた姿勢のままで、両手で目を隠してるので、大事なところは隠れてなかったりもする。


 朔が身を隠すように慌てて湯船に飛び込むと、メイドが『お、奥様! 大変です!』と叫びながら何処かへ行ってしまい。 少女も『へ、変態! スケベ!』と叫びながらその後を追っていった。


(服を着ないで行っちゃったけど、大丈夫なのかな?)


 その後姿おしりを見送りながら、自分のこれからの事を考える朔。


(それにしても、元気な女の子だったな…)


 つもりだったのだが、目に焼きついたアレが離れない朔であった。



 **********



 その後の夕食は気まずい雰囲気が流れたまま食べる事となってしまった。


 お風呂に突っ込んできた少女は名前をミラベルと言い、歳は十歳。 イベール子爵の娘である。 イベール子爵夫妻にはもう一人、ミラベルの下に歳の離れたモーリスと言う弟がおり、こちらは7歳で今はミラベルの横で大人しく夕食をとっている。


『スケベ…』


 食事中、朔は目が合うたびにミラベルにチクチクと言われてしまう。


(う、空気が重い)


 そう感じながらも、朔は早くご飯を食べてここから抜け出し、タルラ達の後を追わなければと、口にスープを運ぶ。 なのに、横合いから視線を感じて「ん?」と、そちらを向けばミラベルが慌てて目をそらし『変態…』と言って、口にパンを放り込む。


(いったい何なんだ…)


 どうして良いものかと朔は頭を悩ますが、一向に良い案が浮んでこない。


『ミラベル、いい加減になさい。 サクちゃん…君だったわね。 が、困ってるでしょう?』


『だってお母様! この子がっ…!』


 そこで何かを思い出したのか、顔を真っ赤にして黙り込むミラベル。


『聞いたわよ。 サク君がお風呂に入ってるときに、侍女の制止を振り切ってミラベルが突っ込んで行ったのでしょう? それでサク君を怒るのはどうかと思うわ。 女の子なんだからもう少し慎みを持ちなさいって、いつもあれほど言ってるでしょうに』


『あれはタルラお姉さまだと思ったの! 男の子が入ってるって知ってたら、あんな事しないわよ!』


『知っててやってたら、私の方が驚いちゃうわ。 いくら元気だからってそこまで大胆に育てた覚えはないし』


『だから、違うって言ってるでしょう!』


『はいはい、そう言う事にしておきましょうね。 大胆なミラベルちゃん』


『お母様!』


 気恥ずかしさから声を荒げて言い返す娘に、その照れてるさまが可愛くてついついからかってしまう、おっとり奥様。 幸せな家族の食事風景が朔の前で広がっていた。


『そうそう、ミラベルこれだけは言っておくわ』


『なによ』


『サクちゃんに裸を見せたこと、お父様と騎士長、後…兵士長と座学の先生に言ったら駄目よ。 もし話しちゃった、サク君殺されちゃうかもしれないわ』


『そんな事、恥ずかしくって、言えるわけ無いでしょう!』


 それもそうだと朔も納得するが、もし漏れてしまったら、あの武人然とした子爵に殺されかねないのは事実かもしれない。 朔としても、もし娘の裸を見た男が居たら、絶対に生かしては置かないだろう。 そうなった場合は、大人しく殺されるしか無いと心に誓う朔であった。


「ごちそうさま」


『あら、もういいの? もっと食べても構わないのよ?』


『お母様、言葉がわかるの?』


『分からないわ。 でもね、あなた達が泣く事しか出来無い頃から、ご飯を食べさせてたのよ。 それぐらいは理解できるわよ』


 言葉は通じなくても、雰囲気を理解できるのだろう、マイアは朔の様子を見て声をかけてきた。 

 

『じゃぁ、お部屋に案内させるわ。 サクちゃん疲れたでしょう、ここは安全だからゆくりお休みなさい』


 席を立った朔にメイドが一人付いて、ランプを片手に部屋まで案内してくれた。 

 砦の中なので、それほど豪華ではないが、飾り彫りのされたベッドに、ランプの乗ったサイドテーブル、文机と背もたれクッション付きの椅子のセット。 ソファが向かい合いで二脚あり、それらが品よく配置されていた。


 部屋の入り口の反対側にある開け放たれた木戸の先には、人二人が立てるくらいの小さなテラスまであり、そこを抜けてくる風が心地よい。


 豪華さで言えば昨日のアボーテ男爵のゲストルームの方が数段上であろうが、朔にとっては落ち着いた雰囲気をかもし出しているこの部屋の方が、心和む気がする。


 メイドは朔が部屋の中に入ると、ベッド脇のランプにを入れ、『おやすみなさい』と静かに出て行った。


 メイドの気配が遠ざかっていくのを扉越しに確認した朔は、部屋に詰まれた着替えなどをベッドの中に押し込み、人の形を作ると、タルラに買って貰った男の子の服に着替える。 今まで着ていたのも男の子向けの服だが、急いで用意したのか少しサイズが合わなかったのだ。


 そして、テラスから外を覗くと、中庭ではメイドや下男げなん達が井戸の横で大瓶おおがめに水を入れていたり、鍋や寸胴で何かのスープを作る準備をしている。 大瓶の下に簡易の竈があるから、お湯を沸かし、帰ってきた兵士たちが体を洗えるようにするのだろう。


 テラスがあるのは三階、ここから中庭は良く見えるが、生憎南向きなので、北へ向かったであろうタルラ達の姿は確認できなかった。


 準備する時間を考えても、出発してから三十分以上は経っている。 徒歩かちの兵も居るから、今頃街道に付く手前ぐらいだろう。


「なぁ、悪魔。 お前姿を消す魔法って使えるか?」


『ん~~。 できる…かも?』


「安全性は大丈夫か? 今の間がすっごく気になるんだが」


『大丈夫。 何度も使っても問題なかったみたいだよ』


(誰がだよ!?)


 心の中で突っ込むも、今は余計な口論をしている時間も惜しい。 「じゃぁ、たのむ」と朔が言うと『ほいっ!』っと、軽く手を振る悪魔。


「消えたのか?」


 自分の手を見ながら、朔は不安げに悪魔に質問をする。 朔からは何も変わった様に見えないのだ。


『うん、大丈夫、消えてるよ』


 朔と目線を合わせたまま自身有りげに言って来る悪魔。

 

(どうしよう、めっちぁ不安なんだけど)


 でも、消えてるというなら信じるしかないと意を決して、三階のテラスから朔は身を躍らせた。






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