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2   裸の獲物

 初投稿作品、第二話。


 どんな結果が出るのか。緊張で指が震えてます。


 

 歩き出して一時間程で森に到着した。


 恐らく街道なのだろう、舗装もされていないむき出しの踏み固められた地面に、轍の跡がついた下生えの少ない道のようなものが、森の中へと続いている。


 今の朔にとって森が有るのは都合がいい。なにせ生まれたままの姿なのだから、何か身を包むものが見つかるかもしれないのだ。幸いな事にここまで来るのに未だ誰とも出会っていない。最低でも、他の誰かに見られる前にその辺の葉と蔦で、パオパオさんのお鼻位は隠しておきたい。


 しかし、朔のその願いはかなわぬ事となった。


 手ごろな葉っぱを物色しようと、街道から森に入ろうとした時、少し先の木が揺れて中から三人の男が出てきたのだ。


 二人は腰に剣を下げ、残る一人は槍を持っている。三人共薄汚れた身なりで、所々擦り切れた皮の鎧に雑事使いのダガーを身につけていた。


 見た目だけで言うなら、盗賊や山賊といった所か、何より白兵戦用の武具を主兵装にしている辺り、この世界の文明が知れる。


 下卑た笑みを浮かべ、三人は話しながらこちらを見ているが、朔には何を言っているのか分からない。


「こいつらか?」


「そそ、どう? 美味しそうでしょう?」


 朔に瞳を食欲で輝かせ、涎が溢れ出んばかりの口で応える悪魔。


 同意を求められても、美味しそうかどうかなんて、朔にはさっぱり分からない。ただ一つ救いなのは、この悪魔が悪人の魂を好んで喰らう事だろう。そして、悪魔が美味しそうと言った相手は、決まって悪人なのだ。朔には分からないが、魂にとそこにこびりついている怨嗟や、恨み、怨念などを感じ取っているらしい。


 そもそも、正義や悪等と言った物は、立場やその場の感情で大きく変わってしまうものだ、自国民にとっては救国の英雄でも、敵対国から見れば憎しみの対象でしかない。


 飢饉に陥った自国を救う為に隣国へ攻め込み、略奪を繰り返し、邪魔するものを虐殺し尽して、飢えた民を救った将軍は、正義なのか悪なのか、考えさせられる話なのである。


 そういった時でも、悪魔はその人物の魂の本質や性質、何を思っての行動なのかを感覚で掴みとり、その魂にまとわり着く怨嗟と感謝を天秤にかけて判断してしまうようだ。


 前述の将軍の場合、本人が出世欲にかられ、国民に対しての人気取りや、保身の為に行った人物と、飢えに苦しむ民達を見るに見かねて、仕方なく行動を起こした人物とでは、結果が同じでも、魂の味は大きく違っているらしいのだ。


 そして、本人の行った事はその魂に記憶され、決して消える事は無い。その記憶は、行った行為によって発生した恨みや怒りと、互いに強く引き合い結びつくものらしい。だから、冤罪すらも起こらないのである。


 ここまで言えば凄い能力なのだろうが、当の悪魔は、その力をただ美味しい食事を得る為だけに習得し、使っている。


 そしてその習得方法に至っては、


「何万回も食べれば、美味しいか美味しくないかなんて、見ただけで分かるようになるわよ」


と、平然と言ってのけていた。食欲恐るべしである。


「でね、あの人達、アンタが女の子だと思って出てきたけど、男の子だから残念みたいなこといってるよ。 でも、これだけ別嬪なら、男でも十分娼館に売れるんじゃないかって。 子供好きなマダムや、そっち方面が好きな奴ならいくらでも金貨を積みそうだって~。 よかったね」


 ぜんぜん良くない。三段腹熟女のお相手や、同性相手に受けや攻め等絶対に願い下げだ。それはともかくとして。


「言葉がわかるのか?」


「分かるわけ無いじゃない。 ただ言葉の中に含まれる意思を、汲み取っているだけよ」


 まったく、便利な悪魔である。ただこの場合悪魔の声が特定の相手にしか聞こえない事を考えると、通訳としては全く役にはたたないが。


「それと、5人(・・)とも食べるって決めたんだから、逃がしちゃ駄目よ。あんたは出来る子なんだから」


「了解」


 ほんとうに使える悪魔である。さらっと、重要な情報を伝えてくるのだ。ただ、出来るなら接触前に教えて欲しかった。


 姿を見せていない残り二人は、恐らく飛道具を持っている。例え剣や槍で武装していたとしても、銃火器が無いとは言い切れない、流石に連射の利く自動小銃等は無いだろうが、単発ならあるいはという所だろう。


 そして、朔が様子を窺うに、剣を持った二人の男の内の片方がこの集団のリーダーだろう。もう片方の帯剣した男に顎をしゃくると、こちらに向かわせる一方で、チラリと目線で森の中に合図を送っている。


 朔のほうに歩いてくるのは一人。たかがガキ一人と警戒する事も無く、剣は腰にしたままだ。


(ならば)


 と、すばやく朔は方針を決める。


 朔はこちらに向かって歩いてくる男をぎりぎりまで引き付けると、森の中へと走りこむ。


 男からしたら、朔が逃げ出したように思うだろう。案の定何か叫びながら後から追って来る。


 十メートルも行った所で、朔は木の陰に隠れた。


 朔が飛び込んだ森と男達が出てきた森は、道に対して同じ側にある。リーダーらしき男が視線を送ったのもこちら側。そして朔は、そのどちらかとも下生えの藪で視線が切れたタイミングを見計らって木の陰に身を潜めた。


 朔が選んだのは各個撃破。それも、敵の視線をさえぎって、殺されてる事にも気がつかせない様にしたい。少なくとも最初の一人は無傷で、確実に仕留めたいのだ。


 そして、最初の生贄に定められた男は、未だに相手は子供と油断し、声を上げながら朔を探している。


(上手く行きそうだ)


 そう思いながら朔は足元の枯れ枝をゆっくり拾い上げ、放り投げる。自分が一番奇襲しやすい位置に、相手を誘導する為に。


 枯れ枝が藪に沈む音に導かれ、喜色きしょくな声を上げた男が、朔の隠れている木の横から姿を現す。こちらには気が付いて居ない。


 瞬間、朔は男の右横へと踏み込み、むき出しになっている太腿の外側へ肘鉄を食らわした。


 突然の痛みに叫び声をあげる男を無視して、朔は孤を描くように動き、背後を回り込む形で反対側の同じ位置にも肘を打ち込むと、男の腰からダガーを掴み引き抜いた。


 本当なら剣を奪いたい所だが、鞘から抜ききれず動きが止まった所で、男に掴まれてしまったらその場で積みだ。


 ましてや今は、相棒の悪魔も魔力が枯渇しており、支援は期待出来無い。


 もともとこの小さな身体で、大の大人を一撃で沈めるのは不可能だろう。並んでみて分かるが、今の朔の身長は男の胸にも届いていない。


 そんな小さな身体で放たれる肘打ちにも、さして威力は無い。


 男は驚いたものの、大したダメージを受けた様子も無く、立ったまま朔に視線を向け、腰の剣に手をかけた。攻撃され、武器を取られた事が頭にきたのだろう。


 だが、昔イジメを受けた朔は知っている。太腿の外側に膝蹴りや肘を食らうと、筋肉が痺れて動かなくなるのだ。


 これが、腿の正面ならその場で立っている事も出来なくなるだろうが、側面なら立っている事位ならできる。しかし、そんな状態で剣を抜こうものならどうなるか。


 男は一気に剣を抜き放ったが、一部の筋肉が痺れた両足ではそんな日常の挙動でも踏ん張りきれず、体が泳ぐ。


 男がバランスを崩したのを見逃さず、左手を相手の肩にかけ引き寄せながら、朔はその首をダガーでき切った。


 自分の身体に何が起こったか理解できず、見開かれた瞳をこちらに向ける男。その首からはおびただしい血が溢れ出てくる。


「どうだ?」


 反撃を警戒して素早く下がった朔が、悪魔に声をかける。


「ん~。もう少しかな?」


「そうか」


 喉を切られた場合、その死因は窒息死か、失血死になる。つまり、死亡するまで最低でも1、2分は掛かるのだ。


 だが、その時間すら惜しい。敵はまだ居り、自分は非力なのだ。


 痛みからか、それとも息苦しさからか、うずくまり喉に手を当ててうめいている男が取り落とした剣を手に取ると、朔は振りかぶり、延髄へと叩き付けた。


 グシャリとした手ごたえの後、痙攣して動かなくなる男。命が絶たれた瞬間であった。


 そしてそれは、自分の相棒の悪魔に朔が文字通り生贄を捧げた瞬間でもある。


「準備(料理)かんりょ~う。それでは頂きますっ!」


 顔に飛び散った返り血を腕でぬぐいながら、ふぅと溜息を吐く朔の横で、悪魔が喜色満面の顔で男の死体に飛びつく。


 絵図らとしては、悪魔が手を伸ばし死体から、見えない何かを掴み取りそれを口に運んで食べているように見える。ゲームやPCのコミカルなアイコンがハムハムとご飯を食べているようで、見た目にはとても愛らしいのだが、そんな目で見える情報に反して、朔の耳に聞こえてくるのは、ジュルリ、クチャクチャ、ング、と言う、湿った粘膜質の何かをすすり、噛みしだき、咀嚼する音である。


 これは、朔が本能的に現実から目を逸らしたい心理が、視覚情報に反映させた上で、自分の行い全てから逃げてはいけないと、音だけ残した結果なのだが、本人はその事を認識していない。複雑な深層心理が働いた末の事なのだ。


 だが、どちらにせよこれで一番の壁は越えた。


「いけるか?」


「ん~、一人分だから大した事は無いけど、残りを相手にする位なら、ぜんぜん問題は無いよ~」


 未だに満面の笑みで咀嚼している悪魔が、朔に答える。久々の食事をゆっくり堪能す事に決めたようだ。


「なら…」


「くるよっ!」


 いい加減魔力を回せと言いかけた朔の言葉を遮って、叫ぶ悪魔。


 その声に反応して身を伏せた朔の頭上を、炎の塊が通り過ぎていく。


「なんだ? 今のは?」


「恐らく魔法ね。 それにしても、すっごく下手糞」


「人間が魔法を使えるのか?」


「まぁ、そういう世界も有るって事じゃない? もしかしたら、あんたも使えるようになるかもよ?」


「そうか?」


「うん、悪魔と人間じゃぁ、使える魔法に制限が有るからアタシじゃ教えられないけどね! どちらにしても問題なし! 見てたけど、魔力の収束は遅いし、その上駄々漏れ、扱えてる魔力の量もほんのちょびっとだし、何より発動を呪文に任せているのよ? まったく、万物の根源の一つたる魔素マナを、何だと思ってるのかしら。 あれじゃぁ、マニュアルを読んで使い方は分かってるけど、根本の理屈は全く理解できてないあんたのガラケーと同じよ! 情けない」


 スマフォじゃなくて悪かったな、それに、見てたならもっと早く教えろよ、何より、出会った時には携帯電話すら知らなかった悪魔こいつに言われたくないと、朔は心の中で悪態をつく。それでも、口に出したのは別の事だった。


「問題ないなら、いくぞ」


「はいよ」


 言うが早いか、血濡ちぬれのダガーを口にくわえ、奪った剣を片手に朔は走り出した。



 

 


 

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