四人は工場の為に
少年は自身の根幹を成す何かが作り変えられたのを感じた。
「あー、ちょっと無茶したかー」
その手が隔壁を貫き、紙でも裂く様に穴を空けた。
「でも、出られるからいいかー」
隔壁の向こうにある隔壁も同じ手段で穴を空け、少年は制湿室からの脱出を果たす。
廊下を堂々と歩き、しかし目的地は無い。
「確実に発見されているけど」
至極気怠そうに呟き、壁面に隠匿された銃口から吐き出される銃弾をその身に浴びる。
銃弾は少年に触れる直前に潰れて落ちた。
足跡の様に潰れた銃弾の道が作られていった。
当ても無く歩きながら、少年はこの工場を制圧してしまおうと、そんな発想に至る。
「どうせ三人しかいないしね」
すぐ終わるよと、そんな言葉は銃声に掻き消された。
★
がきん。と、重金属種に重金属種が殴られる音が響いた。
「…グラン博士?」
工場長は強制的に足元に向けられた視線を、ほぼ真上を見上げる角度までゆっくりと持ち上げて、その先に見た人物に疑問符を投げ掛けた。
「一先ずは、重金属種への適応おめでとう」
言われて中央制御管理室の映像情報を一瞥した工場長は、ああ本当だとだけ感想を漏らすと、その事は意識の外へと追いやった。
重金属種の極みとしか言い様の無い相手から祝福された所で気分は高揚しない。
それよりも重要なのは今ようやく気が付いた重大な保安上の問題。
「侵入者が居ますね」
グラン博士によって迎撃される侵入者の存在を知覚した工場長は、即座に侵入者の分析をして排除するのは難しいと結論付けた。
「排除しなくても構わないから、適当に足止めしておいてくれ」
軽金属種だったならば青褪めていた工場長に、後はこっちで処理するからと言い残して、グラン博士は中央制御管理室から出て行った。
工場の破損状況を把握した工場長は大いに焦り動揺しながら、それでも相変わらず人使いが荒い人だと愚痴を漏らす程度には落ち着きを取り戻すと、装備を整える為に中央管理制御室から出て行った。
中央制御管理室。
そこは重金属種には不要な部屋である。
★
少年はふらふらと工場内を歩きながら、困っていた。
「んー。さっきまでは管理者らしき意識がはっきりとした場所に居たのに」
手当たり次第に扉を開けて探索していた少年だったが、幾つ目からの部屋からは扉を開錠するのも面倒になって扉を引き裂く様になり、更に幾つかの部屋を回った辺りで壁を壊して移動する方法に落ち着いていた。
そうやって破壊し続けて幾つの部屋を巡った辺りで、少年は立ち止まって壁に向けて手を翳した。
ばちんと音がして、少年の腕が粉砕されて飛散する。
粉状になって飛び散った腕を無理矢理集めて腕の形を模り、再度壁に向けて手を翳すと、再びばちんと音がして腕状の金属粉が飛び散った。
「誘導?座標指定かな?」
無傷な壁の向こうを見ながら、少年は更にもう一度腕を飛び散らされた。
「僕とは違う感じ。でも人。だけどミナカタ公国の住人とも違う」
前の僕が知っている気がするなと言いつつ、無事な方の手で易々と壁を引き裂いて、少年は歩き始めた。
★
少年が向かって来る事を眼鏡と呼ばれる古い機械で把握していたロゼ博士は、手に持つ拳銃の様な装置と少年の反応を見ながら信じられんとぼやく。
「遠隔加速器が通用しないとは思わなかった」
思わず独り言が漏れる。
やけくそ気味に数度装置を起動させると、場所を変える為に走り出す。
「ここは俺の工場だ」
忌々しそうに呟きながら走るロゼ博士の目の前に、少年が壁を破って出て来て立ち塞がる。
「この工場は僕の物だ」
偽装工作に関してはロゼ博士の到達し得ない境地に立つ少年は、ロゼ博士との間合いを詰めて殴った。
易々と壁を引き裂くその腕で。
乾いた破砕音が虚しく響いた。




