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不定種は安寧の為に

 ロゼ博士は廊下を歩きながら、先程まで対面していた過剰なまでに適応力のある特任博士を思い出す。

 羨ましい。そう言った思いがドロドロとした黒い感情に上澄みの様に薄く浮かぶ。

 ロゼ博士は適応力が低い。

 現在は様々な薬剤で強制的に底上げしているが、それでもグラン博士程の重金属種には一生掛かってもなれない。

 新型工場は最低限の人員で最大限の生産性を得られる工場として作られた。

 新工場を設立する提案をしたのはロゼ博士であり、その中核としてグラン博士を担ぎ上げたのもロゼ博士であるが、その心中は複雑であった。

 目的の為に利用した駒に対する羨望。

 それはロゼ博士を本人も気が付かない内に苛立たせ、結果グラン博士への辛辣な物言いへと繋がっている。

 加えて、自身の合理的で無い言動にもロゼ博士は苛立ちを覚える。

 ミナカタ公国の貴族達を葬り去ると言う目的に対して、グラン博士と敵対するのは悪手でしかないと自覚しているが故に。

 苛立ちを無理矢理理性で押さえつけたロゼ博士は、その時初めて工場内に響き渡る異音に気が付いた。

 反響する不快音。金属と金属を強い力で擦り合わせた様な、細く長い不快音が。

 ロゼ博士は一瞬立ち止まり、僅かな逡巡の後再び歩き始めた。

 ロゼ博士はその不快音を気にしない事にした。

 この時点では。

 工場内の異変はグラン博士か工場長が察知して対処するであろう事と、重金属種を前提とした工場内の通信機構は無線接続が出来ないロゼ博士には利用出来ない事が理由だ。

 そしてグラン博士に対する感情以上に工場長に対する苦手意識もまた、ロゼ博士の悩みの種であった。

 グラン博士に対する正体不明な苛立ちとは違い、単純に工場長の見た目がとあるミナカタ公国の貴族に似通っているからだ。

 そもそもロゼ博士には、この工場がどうなろうと問題は無いのである。

 この時点で、ロゼ博士の極私的な企みは必要条件を満たしつつあった。

 巡洋船舶用塗料の開発を隠れ蓑にして密かに作成していた薬剤が、先日完成したからだ。

「後は量産方法を確立できれば。いや、試作機に塗布するのに十分な量を作成する目処がつけば」

 試作機に塗布するのに十分な分量があればむしろ過剰なくらいかと考え、僅かな笑みを浮かべながら研究室の扉を開く。

 その研究室は推進器関連の研究室と、グラン博士の研究室の中間に当たる位置の研究室であった。

 高さ五メートルはある円柱状の硝子容器に、澄んだ飴色の液体が並々と貯められていた。

 硝子容器は六つ並んでいて、それぞれに番号が振られていた。

 19、20120、58564、59663、60200、61855。

 それらは全て巡洋船舶用塗料の試作品である。

 ロゼ博士はタンクを一瞥する事も無く、棚に置いておいた小瓶を探して壁面の棚へと目を向けた。

「四本?」

 棚を見て、怪訝な顔をしてそう呟く。

 密かに開発した薬剤は、棚に置いた五本の小瓶に分散して詰め込んであった。

 それが今は四本しかない。

 工場内の人間は工場長とグラン博士とロゼ博士のたった三人。

 小瓶を持ち出す可能性のある人間は存在しない筈である。

 小瓶が五本もあるのはいざと言う時のための予備としてなので、一本くらい無くなっても問題無い。

 問題無いが、気持ち悪い。

 小瓶を一本手にしたロゼ博士は、壁面の操作盤へと向かう。

 研究室の映像記録を閲覧する為に手動で操作盤を起動し、機械言語で指示を打ち込んだ。

 重金属種であればこの作業も不要であるのにと、若干の苛立ちを覚えながら。

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