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情報操作は収束の為に

 自らの拳で粉砕した相手の残骸を見ながら、少年はぽかんとした顔をしていた。

 あまりの手応えの無さに、呆れていた。

「…うん、思ったより楽に制圧できるかも」

 全部粉々になるとは思ってなかったなと拳を握ったり開いたりしていたその動きが一瞬止まる。

 重金属種には知覚する事すら不可能に近い攻撃。

 その攻撃に対して少年は僅かな違和感を足掛かりに自身の記録の精査を実施し、全ての機能が寸断された瞬間があった事を認識する。

「強力な電磁h―――aか。影響は一秒以下だけど、邪魔だな」

 少年は上位制御系に干渉を始めた。

 工場長は防護鎧に包まれていた。

 元々はグラン博士専用の防護鎧なのでサイズは合っていない。

 緊急妨害装置を遠隔稼働させながら、工場長は重い鎧を引き摺って工場内を不規則に移動していた。

「結局足止めにもならん」

 悲壮感を漂わせて、工場長は防護鎧を脱ぎ捨てた。

 その身体が軽く感じる。

 重金属種にも感覚錯誤はあるのかと、どうでもいい事に感心しつつも移動は止めない。

 この工場の中に安全な場所など無いと、工場長は理解していた。

 ロゼ博士はグラン博士に摘み上げられて、ばらばらになった作業機械の残骸と侵入者を見下ろしていた。

「んー。邪魔な機械は壊せたけど、それを使っていた人の捕捉は失敗」

「この侵入者を排除するのには協力出来ませんが、ミナカタ公国の貴族だけを絶滅させる方法なら提案できますよ?」

 ロゼ博士には二つの声が同時に聞こえた。

 一方で侵入者はロゼ博士とグラン博士が存在しないかの様に振舞っていた。

「ロゼ博士、貴方が隠匿した貴方自身の経歴を僕は知っています。ミナカタ公国御三家の直系なのに生得的な水中適応が無かったが故に放逐された経歴を」

 追加で言葉を投げ掛けてもロゼ博士が呆けているのを見て、現実への心理的適応が済んでいないと判断したグラン博士は一旦少年へと焦点を移す。

 グラン博士の非常識なまでに高度な情報隠蔽に少年が気付く気配は無い。

「見つけた」

 少年はグラン博士に無防備な背中を見せて、笑う様に呟いた。

 工場長は遁走に転じていた。

 自身が移動する痕跡を隠匿する手法は放棄している。

 侵入者を欺く情報隠蔽を行える人間を想像出来かった。

 代わりに自身の痕跡に似せた偽の痕跡をばら撒く。

「一瞬でも足止めになれば御の字か」

 この声も工場長の居る場所から少し離れた場所でスピーカーから発せられた音声である。

 それでも、猶予は数分だなと、工場長は覚悟を済ませた。

 ロゼ博士は侵入者の姿が見えなくなってから、ようやくグラン博士の言葉を呑み込んだ。

 その結果湧いて出る様々な疑問を一つだけ残して全て呑み込み、残した疑問を口にする。

「だけを?」

 ミナカタ公国の貴族『だけ』を絶滅させる方法。

 説明不足なその抜粋の意味を苦も無く把握して、グラン博士は中断した提案を再開する。

「そう、ロゼ博士の開発したエラ呼吸を阻害する薬剤を使用する手法の様に、広範囲かつ多種族を巻き込む虐殺では無く、ミナカタ公国の貴族『だけ』を絶滅させる方法ですよ」

 そんな事がとロゼ博士は疑問を半端に紡ぐ。

 出来るのですとグラン博士は続きを答える。

「そもそも生れ付きエラ呼吸可能で生涯水中でしか生きられない種族なんて、最早適応族、一般的に言われる適応種では無いですよね?」

 ロゼ博士はグラン博士の言葉に、雷に打たれたかの様な激しい衝撃を受けた。

 震える口は言葉を作ろうと足掻いて、漏れるのは浅い吐息だけ。

「彼等はヒト科適応族両生種では無く、ヒト科両生族両生種と定義するべきだと私は思っています」

 先程の少年も、復刻種では無くてヒト科重金属族重金属種と定義するべきですよと、グラン博士は自分だけ納得して付け加える。

 憑物が落ちた様なロゼ博士の表情を見て、グラン博士は自ら設定した水準を満たした事を察した。

 水準。

 この騒動を収束させる労力と利益を比べた場合、利益が上回る水準である。

 ロゼ博士の認識が変容したその瞬間の事である。

 隔離構成層の影響を受けて変容しながらも、辛うじて連続していた少年或いは侵入者が持つ自我の、連続性が、致命的な、までに、途切れた、のは。

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