ゲームダイバー転生モノ お試し版
こんな作品を考えてみた。今、作り途中だけど、興味持ってもらえるかな。という気持ちで投稿してみました。少しでも興味をもっていただけたら幸いです。
主人公属性とはどのようなタイプの人間を指すのだろうか。
例をあげてみよう。
例えば、亡国の王子。親を失い、友を失い、故郷を失い、その全てを失うも、祖国復興の為に挑み続ける。何度倒れようと立ち続け、どんな苦境に立たされようと抗い続ける。気付けば、その後ろ姿に多くの同志が列を作っていた。そして、今日も彼は祖国の為に、そして、世界の為に武器を振るい続ける。うむ。主人公っぽい。
例えば、最初は落ちこぼれ。しかし、ライバルとの邂逅、仲間との特訓、互いが互いを高め合い、メキメキと実力を伸ばしていく。そして、気付いたら、世界を救う役目を担うまでに成長していた。うむ。実に主人公っぽい。
例えば、昔は世界有数の実力者。しかし、敵対者からの襲撃を受け、怪我、封印によって能力の大半を失ってしまう。だが、諦める事なく努力を続け、どんな壁にも立ち向かい、いずれ過去の己以上の実力を身に付け、世界崩壊の危機を救う。うむ。正に主人公だ。
例えば、幼馴染が世界を左右する特別な存在で、その幼馴染を守る為に立ち上がった平凡な少年。しかし、実は少年も特別な生まれであり、その境遇に苦しみつつも乗り越え、世界崩壊の危機を前に幼馴染と共に立ち向かう。いいね。実に主人公だ。
例えば、幼い頃から人里離れた山奥に住む世間知らずな少年。流されるままに表舞台に立ち、流されるままに世界を救う役目を担う事になるが、様々な経験を経て成長した彼は自らの意思で世界を救う為に立ち上がる。なんとも主人公っぽい。
十人十色。人々がそうであるように、主人公にも様々な種類、設定がある。共通して挙げられるのは世界を左右する役目を負うという点であろう。それこそ主人公としての絶対条件と言えるのかもしれない。
もちろん、世界とはそのまま世界という意味でもあり、違う意味でもある。国民にとって、その国が世界であり、町民にとってその町こそが世界だ。その場所に生きる人間にとってそこが自身の世界であり、世界そのものなのだから。
規模はどうあれ、その世界を左右する特別な役割を担う人物。それが主人公と言えよう。しかしながら、どうしても壮大な設定で主人公を描きたくなるのが人間の性なのだろう。多くの主人公は文字通りの世界を救う事でハッピーエンドを迎えるような気がする。
おっと、設定などとは失礼な物言いだったな。主人公もまたその世界に生きる人間なのだから。当然、感情があり、記憶があり、過程がある。様々な種類があって然るべきなのだ。たとえ、それが作られた存在であろうと。
さて、こうして主人公とは、という条件で多くの例をあげた訳だが、勘違いはしないで欲しい。ただ例をあげただけであって、決してこの主人公は正しくて、この主人公は間違っているなどと言いたい訳ではないのだ。どんな主人公であろうと民衆は受け入れるであろう。主人公とは正に民衆の英雄であり、偶像なのだから。
ただ、そんな様々な背景をもった主人公達が、同じ時、同じ場所に存在していたとしたらどうだろう。物語に主人公は一人である筈なのに、あるべきなのに、同じ空間に複数の主人公が存在していたとしたらどうだろう。そして、自身が微妙に近くて遠い関係性をそんな主人公達と持っていたとしたら、一体どうなるのだろうか。
実際にその立場にある俺から言わせて頂けるなら……。
「お前ら、面倒事ばかり起こしやがって。誰が尻拭いしていると思っているんだ」
これに尽きる。それ以外に言葉は出てこなかったりする。
これは主人公、いや、主人公どもに振り回される立ち位置微妙な上司の苦労物語である。というか、さっさと昇格させるか降格させるか、どちらかしてくれないかな。本当に、胃がもたれて仕方がないんだが。
「せ、先生!」
昼下がりの午後。今日もいつもと同じように事務仕事を終えて、これから日課である昼寝でもしようかなと移動している途中、背後から声をかけられる。
「ん? どうした? リース」
ドタドタドタドタと廊下を走る音が聞こえてくる。おいおい。廊下を走るな。走っていいのは親の葬儀と友のピンチだけだって口が酸っぱくなるほど言っただろうが。後者はちょっと言ってから後悔したけどな。
「で、できたんです。上級魔術が―――キャァァァァッ」
バタンッ! と大きな音を出しながら転ぶ少女。……相変わらずだな、この子は。
「あ、あはは。転んじゃいました」
照れ笑いしながら立ち上がる彼女の名前はリース。リース・マテリアル。割と優秀な魔術師なのだけど、おっちょこちょいなのが玉に瑕。いや、ひび割れるレベルで致命的なおっちょこちょいかつ慌てん嬢ちゃんである。本当に、もうちょい落ち着こうよ、頼むから。
「大丈夫か?」
「いつものことですから。えっと、絆創膏でも貼っておけば大丈夫です!」
鼻の頭に絆創膏を貼る。なんというか、マヌケそのものである。愛嬌があって可愛いという意見も受け入れるが。
「で、そんなに慌ててどうしたんだ?」
「そ、そうです、先生! できたんですよ! 上級魔術が!」
ワーイワーイと一人で喜びを顕にする彼女を前に頭を抱えそうになるが、いつもの事なのでスルーする。毎回付き合っていたらこっちも奇っ怪な行動を取るようになりそうだ。
「上級魔術? 先日は風の上級魔術が成功したって喜んでいたよな。次はあれか? 土でも成功したのか?」
「いえ! 火です。これで私、火と風の上級魔術をコンプリートしたんですよ」
褒めて褒めてと尻尾を振り回す子犬が見えたがきっと気のせいだろう。ポンッと頭に手を置く。撫でる? そんな痴漢行為はしないさ。頭を撫でていいのは娘か恋人か、ペットだけだ。特別な存在でもなんでもない人間の頭を撫でるとは言語道断。けしからん!
「えへへ~。褒められました」
見方によっては叩かれたかのような手の置き方だったのだが、この子にとっては褒めるに値する行為だったらしい。解せぬ。
「けどまぁ、上級魔術が行使できた程度で図に乗っちゃダメだぞ、リース。魔術は使えるかどうかじゃない。どう使うかだ。人に比べて保有魔力が多いお前だからある程度は融通も効くだろうが、如何に効率よく無駄な過程を省き、魔力の消費を抑えられるかが―――」
「大事、なんですよね。分かっていますって。まだまだやりますよ」
エイエイオーとか一人でやっているこの元気な女の子をどうしてやろうか。本当に、厄介な教え子をもってしまったものだ。まぁ、この子はどちらかというと見ていて面白いからいいんだけど。むしろ、癒やし。本当に厄介なのは……。
「おい、副団長。ちょっと付き合え」
……来たか。問題児。
「ガスト。唐突になんだ? こちとら忙しいんだが」
「忙しい? どの口が言っている」
「この口だ」
お前達が俺にどれだけ迷惑をかけているか分かっているのか。お前達の後始末で基本的に午前中が終わるんだよ。珍しく早く終わった時くらいゆっくりさせてくれ。
「フンッ。事務処理が遅いのはお前の問題であって私の責任ではない」
こいつ……どうしてくれようか。
「それに、だ。今のお前の役職はなんだ?」
「あん?」
俺の役職ねぇ……。
「リース。言ってみ」
「はい。えっと、アゼルナート王国騎士団副団長で」
「おまけみたいな扱いだけどな」
「王立士官学校の教師でもあって」
「非常勤だけどな」
「騎士団書類処理担当です」
「不本意だけどな」
……本当に。
「後はうーん、何でしょうか?」
「それぐらいじゃないか」
特別な役職なんて何も持ってないし。
「騎士団教導隊隊長、じゃなかったか」
「おおう。忘れていた」
「そういえば、そうでしたね」
ガスト。俺のことをよく知っているじゃないか。照れるぜ。
「そういう訳だから、来てもらおうか」
「どういう訳だ?」
「教導隊の仕事をしろという訳だ」
「……ハァ」
どうやら昼寝をしている時間はなさそうだ。俺、寝不足なんだけどなぁ。
始めに言っておく。この騎士団には問題児がいる。これが一人だったら、しょうがない後輩だな、で済むが、これが多数だともう本当に手に負えない。問題に次ぐ問題。こっちの後始末を終えればあっちで問題が起きて、そっちを片付ければこっちで問題が起きる。
いや、いいんだよ。その問題を片付けるのが俺じゃなければ。しかし、残念ながら、それら問題の殆どを俺に押し付けられる。他にも責任者と呼ばれる奴らがいる訳だが、一度その後始末を手伝ったのが悪かった。手伝いに次ぐ手伝い。気付けば後始末担当が俺になっていて、その泥沼から抜け出せない状況が続いている。
せめて、せめて一人であって欲しかった。もしくは、俺みたいな存在が他にもいて欲しかった。ま、ないもの強請りしてもしょうがないっていう事はわかっているんだけどさ。
とにもかくにも俺は後始末担当な訳で……胃痛が止まらないのですよ、本当に。
「あ、副団長。お疲れ様です」
「おう。お疲れ様。ロラハム」
ロラハム・マルクスト。この子は良い子なんだけどなぁ。ある意味、問題児なんだよね、これが。周りが悪いと言えば悪いのかもしれないけど……意外と暴走しがちな男の子。
「今日は団長と一緒じゃないのか?」
「はい。カリスさ―――団長は今日、ミストと一緒にお出掛けしています」
団長。ミスト。二人の人物については追々話す事として……。
「なるほど。それで、自主練という事か。精が出るな」
「いえ。少しでも団長との差を縮める為には、毎日の積み重ねが大事なんです」
うん、模範解答。良い子や。真面目で努力家で心優しくて明るい。正にザ・好少年といった感じ。こういう子が問題児なのだから、世の中不思議な事ばかりだ。
「ガスト。お前も見習えよ」
「フンッ。魔術師に大事なのは日々の積み重ねよりも一瞬の閃きだ」
その一瞬の閃きの為に日々努力しているお前の姿を俺は知っているけどな。
「しかし、休日だというのにこれだけ自主練に励んでいる団員がいるとは……」
嬉しい限りだな。教導隊冥利に尽きるというかなんというか。副団長としても部下が強くなっていくのは素直に嬉しい。
「休日だというのに事務処理に追われている奴もいるが」
「グッ」
お前達のせいだろうが! と怒鳴りたいが、大人気ないからそんな事はしない。そう、俺は大人なんだ。青筋浮かべるぐらいで勘弁してやるとも。
「それで、教導隊の俺を必要としているのは誰なんだ? もしかして、ガスト、お前か? 珍しいな、いいだろう。もんでや―――」
「勝手に早とちりするな。お前の相手は私じゃない」
「あん?」
それじゃあ、誰だ? というか、自分の為でもないのにわざわざ足を運んで誰かを呼びに行くなんて珍しい。この唯我独尊男がそんなことをするなんて……相当気に入っている奴か弱みを握られている奴かのどっちかだな、うん。
「おい、ラミット」
「……」
そういう事か。ラミット・サンスルー。無口、無表情、鋭い目付きと手負いの獣を思わせる警戒心は騎士団でもこいつを浮かせる原因となっている。まぁ、正式な騎士団員ではなく、臨時というか特別枠的な存在なのだから、仕方がないのかもしれないけど。あ、もちろん、こいつも問題児の一人な。主にこの態度が問題を引き起こす。
「こいつに攻撃の捌き方を教えてやってくれ」
捌き方ねぇ。それは別に構わないけど。
「いいが、わざわざ俺に頼らなくてもお前が教えてやればいいじゃないか。お前の捌き技術も相当なものだったと思うが」
プライドが高く偉そうな所もあるが、それに見合うだけの技術はある。今はともかく昔は国家戦力に数えられていたぐらいなのだから。いや、これは国家機密だったな。誰にも言うまい。心で思うのは自由だけどな。
「残念ながら、捌き方を教えてやる事はできるが、それも攻撃してくれる相手がいないと話にならん。忘れたのか? 俺の攻撃方法を」
「ま、そうだろうな。魔術師のお前では、技術を教える事はできても、叩き込む事はできないか。でも、攻撃してくれる相手ならそこにいるじゃないか」
指差す。誰かって? 何を隠そう自主練に励むロラハム君を。
「えぇ!? 僕ですか?」
「そうそう。同年代同士、切磋琢磨しあうのが一番だと思うぞ、うんうん」
決してサボりたい訳ではないからな。心からそう思っているだけだ。
「未熟な奴相手だと万が一もある。お前は部下が大怪我を負ってもいいというのか?」
「ま、俺としても訓練で大怪我を負うみたいな本末転倒な結果にはなって欲しくないな」
でも、お前の捌き技術なら、未熟な奴相手でも平気だと思うが。ま、そこまで言われたら、教導隊らしくビシッと指導してやるか。相手は同じく未熟なラミット君な訳だし。
「さて、それじゃあ早速始めるか。ラミット、こっちへ来い」
獣を思わせる鋭い目付きでこちらを見てくるラミット。別に怖がったりはしないが……どうにかなんないものかな、その目付き。
「……副団長。貴方は魔術師だった筈では? それでは、ガストと変わらない」
ああ。そうだよな。騎士団に入ったばかりの人間は皆、そういう風に思うらしい。ま、これだけ魔術師らしい格好していればそうなるよな。
「ローブを身に付けた剣士がいてはいけないのか?」
「……」
あれま。黙っちまった。
「安心しろ。俺は所謂万能型だ。だから、実力もないのに、副団長という立場にいて、教導隊隊長なんていう役職も兼務している。言わば、何でも屋という立ち位置なんだよ」
「……そうか」
反応が寂しいだなんて思ってないぞ。思ってないんだからな。
「それで、どういう敵を想定しているんだ? ある程度なら合わせてやるぞ」
流石にドラゴンとか言われたら無理だけどな。
「俺のスピードに付いてこられる剣士」
なるほど。確かにこいつのスピードは一流だ。スピードだけなら、騎士団でもトップクラスと言えるだろう。だが、それ以外の能力、技術は人並み以下。仮にこいつのスピードに対応できるだけの敵が現れた場合、こいつは成す術もなくやられてしまうだろうな。
うーん。仕方ないか。ある程度なら合わせてやると言ってしまった以上、できませんとは流石に言えないし。ちょっと頑張るか。疲れるから嫌なんだけどなぁ、これ。
「いいだろう。リース。ちょっと模擬刀持ってきてくれるか」
「は、はい。すぐ取ってきますね」
ダダダダダッバタンッ。あ、人選間違ったかも。
「何でも屋が俺のスピードに付いてこられるのか?」
あ、こいつ。期待してないけど、言うだけ言ってみた、みたいな感じで要望出しやがったな。まったく……副団長も舐められたものだ。
「おいおい。お前はこの世界で一番自分が早いとでも思っているのか?」
「それは、お前が俺以上に早いという意味か?」
「ふむ。確かにお前は早い。そのスピードは誇っていいだろう。だが、それはあくまで人間としては、という意味でしかない。世の中は広いぞ。お前以上に素早く、お前以上に俊敏な奴なんて山のようにいる。あまり自惚れるのは感心しないな」
「だが、俺がお前以上に早いという事実は覆らない」
最近の若い奴らはどうしてこう年上への敬意というものがないのかね。生意気な奴らばかりで……その天狗の鼻をへし折ってやりたくなるな。
「せ、先生。持ってきましたよ」
「おお。ありがと。リース」
「えへへ。褒めても何もでませんよ」
いや、褒めてもないんだが。
「相手より素早く動ければ勝てる。世の中がそう単純ならお前はあっという間に人間界のチャンピオンだろうよ。だけどな、早い奴を相手にした時の戦い方っていうのもきちんとあるんだよ。特にお前みたいな、早いだけしか取り柄のないような奴はむしろ戦いやすい」
「……何だと?」
ピシッという擬音が入りそうなほどわかりやすく青筋を浮かべるラミット。
「それに、俺もそこそこ動けるという自負がある。ラミット。だから……本気で来い。速さ以外にも取り柄があると俺に教えてくれ」
クイックイッと挑発してやる。それだけで更に青筋を浮かべて飛び込んでくるラミット。若いなぁ。そんな簡単に挑発に乗っていたら、お前の大切な幼馴染は守れないぞ。大事な彼女を守る盾になりたいのなら、どんな挑発にも乗らない安定した精神を持たないと。
「そうそう、ガスト、一応待機している癒術士を連れてきてくれるか」
「戦闘中におしゃべりとは余裕だな」
「実質、余裕だからな」
「……」
悪いけど、まだまだヒヨっ子共には負けんよ。ついでにその慢心も砕いてやるとするか。俺だってそこそこ動けるんだぞ。少なくともお前程度に付いていくぐらいには。
「点数付けるなら30点といった所だな。いや、20点でもあげるのが惜しい」
「……クッ」
ま、これで天狗の鼻も折れただろう。それに、分かっただろうよ。多少早く動ける程度じゃ何の戦力にもならないという事が。
「あわわわ。大丈夫ですか? ラミット君」
お、今日の待機当番はララックか。ララック・ライリック。世間知らずで常識知らず、加えて天然という逸材だが、薬草や生物への知識は学者顔負け。幼い頃から森の奥深くで暮らしていたからこそ、そんな知識の偏りが生まれるんだろうな。
そして、その知識を活かした癒術は他に見ない効力を発揮する。将来が期待できる若手きっての癒術士だ。臆病で内気な性格さえなんとかなれば、だけど。
ちなみに、この子も問題児。決して、この子が何かするという訳じゃないけど、不思議とトラブルを呼び寄せる。そういう意味でのトラブルメーカーだ。
「底が見えないな、お前は」
「流石です、先生」
底がすぐ見えるようじゃ教導隊としては失格だよ、ガスト。こっちこそ、褒めても何もでないからな、リース。
「なるほど。あの場面ではああやって動いた方がいいのか」
ちゃっかり勉強していたみたいだな、ロラハム。感心感心。お前の才能はその向上心だよ。どんな事でもいい。吸収して力にしろ。
「さて、一仕事終えたし、俺の役目は終わりだよな。じゃあ、そろそろ―――」
「待て。次は私の番だ」
え? 本気か? ガスト。
「そんな嫌そうな顔するな、いい大人が」
知っているか? 俺、今日実は非番なんだぞ。午前中の書類処理は……お前達のせいだからな。言わば、お前達のせいで俺の休み一日が潰されるという事に……。
「教導隊としての仕事だ。嫌とは言わないよな」
「はぁ……。リース、せっかくだから見ておけよ。勉強になる筈だ」
「はい。もちろんです」
そんなに眼をキラキラさせてこちらを見ないでくれ。ある程度手を抜いてやろうと思っている自分が情けなくなるだろう。
「ララック。すまないが、もう少しいてくれるか。近くにいてくれればいいから」
「いいですよ。僕は他の方の手当をしていますので、終わったら呼んでください」
「ああ。頼む」
こいつらだけを優先して治療してもらう訳にはいかないからな。
「それじゃあさっさとやるか。俺の昼寝の時間がなくなっちまう」
「そんな理由で部下への指導をサボるなよ」
昼寝大事。世の中の民が昼寝を習慣とすれば戦争なんてなくなるだろう。俺は昼寝をそれぐらい偉大なものだと思っている。
「ナマケモノが増えるだけだろ」
ごもっともです……。
さて、既に気付いていると思うが……彼らが、彼らこそが主人公だ。俺なんてせいぜい脇役でしかない。いや、元々脇役ですらなかった筈だ。名前だけしか出てこない物語に微塵の影響も与えない存在、それが俺だったのだ、本来なら。だが、何の偶然か今の俺はこの微妙な立ち位置にいる。そして、気付けば、主人公達に多少なりとも影響を与えている。
ロラハム・マルクスト。ガスト・ゲイルライン。ラミット・サンスルー。ララック・ライリック。誰がどの境遇かなんて事は言うだけ野暮だろうから言わないが。彼らにはこれから先、様々な壁が立ち塞がる。その助けに少しでもなれれば……なんて殊勝な事は残念ながら考えていなかったりする。だって、俺がいなくても物語はきちんと回るわけで、それなら、俺は好きに動いていいという訳だ。我ながら強引な持論だが、ま、俺は俺で好きにやらせてもらうとしよう。偶になら、助けてやってもいいけど。
……とりあえず、この目の前に積み重なっている書類をどうにかしないと。
「クソッ。あいつらまた問題起こしやがって。……確かにこれだけ書類処理に追われていたら物語に影響を与えるような役目は担えなかっただろうな……」
結論、俺が表舞台に出られなかったのは、どうやらあいつらのせいだったらしい。本当に……世界は主人公を中心に回ってやがるよ。