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第8話 ギルド

・・・活動報告って書くべきなのだろうか。


5/29 改訂



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 あれから三日が過ぎた。

 道中で四度ほどの戦闘を経験した以外は、何事もなく、予定通りポルドラに到着した。


 ポルドラの道路は石畳で整地され、レンガ造りの家と木造造りの家とが半々で建っている洋風な街並みだ。想像通りというか小説やゲームにあるような防衛用の外壁で囲まれている。街の西側には、この街の領主のものであろう城も見えた。


 街の門には兵士が立っていて、街に入る者を逐一確認しているようだ。

 現在の時間は昼を丁度過ぎた頃、入門の順番を待っている人の列はそれなりに多い。


 ボリスさんは列に並ばずにズンズンとその横を進み、入門確認をしている兵士とは別の兵士に身分証を提示する。

 提示を受けた兵士は身分証を確認した瞬間、青ざめたように見えた。『す、すぐにお迎えの馬車を用意します』とか『領主様に緊急通達を』とか、他の兵士達もパニック状態に陥っている。

 ボリスさんはそんな彼らを一瞥すると意にも介さずに門を潜ってしまった。


 滅茶苦茶な騒ぎになっているだが・・・・・・いいのか?

 まあ、ボリスさんも帝国で有名人―――英雄の部下とか―――だろうし、仕方ないのかもな。


 そんな事を考えている俺だが、ちゃっかりとボリスさんにくっ付いて門を潜っていた。どさくさ紛いな入門に加え、門番のチェック受けてないので『密入者なのでは?』と思いもするが構わないだろう。


 フリーで通した方が悪いよね?


 それに捕まえられたらボリスさんの所為だ。俺は悪くない。




「ボルドラは、規模としては他の地方都市と大差ないが、有能な領主のおかげで比較的治安の良い住みやすい都市と言われている。冒険者として活動を始めるには都合が良いだろう」


「へえー、そうなんですか」


「さて、最初はどこに行くかな……まあ、身分証が先か。よし、冒険者ギルドに行くぞ! こっちだ、逸れるなよ」


 ボリスさんに先導され、北へ向かって歩き出す。


 ボルドラの街は、北側から時計回りに市街区、工業区、商業区、高級市街区と分けられていて、冒険者ギルドがあるのは商業区になる。


 俺達は南門から街に入ったので、そう長く歩かないで良いようだ。


 う~ん、それにしても残念だ。


 道行く人々は普通の人族ばかり―――と言っても、純洋風ではある―――で、ファンタジー的種族は全く見当たらない。

 それでも中には、元の世界では滅多に見られない―――某局所には存在する―――鎧とか帯剣をしている姿の人がチラホラ見受けられるので、都会に出てきた田舎者ぐらいには興奮していた。鎧や剣も紛い物とは違う実用性のある格好良さがある。


 でも、やっぱり獣耳とか見たいよな~異世界だし。




「ここが冒険者ギルドだな。都市と呼ばれる所ならたいていこの看板がある」


 ボリスさんが親指で示した看板には、オーソドックスな楯に剣二本がクロスしている絵が描かれていた。これが冒険者ギルドの印らしい。

 建物自体は石造りの三階建てで、結構な大きさだ。


 扉を開けて中に入ると想像していた―――酒場兼業の小汚い殺伐とした空間―――よりもずっと綺麗だった。元の世界の市役所に近い雰囲気がある。

 カウンターには受付の女性が数人と端に男性が一人待機しており、奥の方でも職員たちが書類を持って走り回っている。

 壁際には、まさに『冒険者ギルド』な掲示板もあり、たくさんの依頼書が張られていた。


 へぇ…、賑わっているようだし、良い感じだな。


 少しだけ懸念していた新人に絡んでくるテンプレな荒くれ者ってのもたむろっていない。この分ならすぐに馴染めそうだ。


 俺はボリスさんに連れられ、一つの窓口へ向かう。


「少しいいか、こいつをギルドに登録したいんだが?」


「畏まりました。・・・・・・えっ?! あのー…すいませんが、お連れの方はギルド登録の必要年齢に達していないように見受けられるのですが?」


 あれ? 冒険者ギルドの年齢制限って、15歳以上だろ??

 随分若返ったけど、15歳ぐらいの見た目はあるはずなんだが…。


「クックック…。譲ちゃん、こいつはこの見た目だが年齢基準を満たしてるぞ。幼く見えるのは…まあ、血筋ってとこだ」


 あーそうか、なんとなくわかった。


 元の世界でも、海外で日本人は実年齢より若く見られがちという話を良く耳にした。この世界の人々―――少なくともこの地方の人々―――は、西洋人がデフォルメだし、同じように勘違いしたんだろう。


「そ、そうなんですか?! 失礼しました。そうですか、若く見える血筋ですか・・・・・・妬ましい(ボソ)」


 受付の女性は、しばらくの間、俺をじーっと観察して納得したようだ。最後にボソッと言った通り妬んでいた訳じゃない事を切に願う。


「それでは改めまして、冒険者ギルドへようこそ。本日の担当を致しますカリナです、よろしくお願いします。ギルドへの登録は初めてでございましょうか?」


「よろしくお願いします。登録は初めてです」


「それでは、こちらの用紙の名前、年齢、種族などの空白項目にご記入をお願いします。虚偽の内容を書かれてもかまいませんが、後にそれが元でトラブルになった場合は自己責任となりますのでお気を付けください。代筆をご利用でしょうか?」


「いいえ、大丈夫です」


 文字の読書きは既にマスターしている。もちろん、シャルロッテさんの特別授業が敢行されたが故である。どんな難しい文章だろうが、遥か古代の文字であろうが、もう完璧だ。


 人間ってさ……命の危機を目前にすれば、不可能な物事なんて極僅かなんだよね~ハハハッ・・・ハァ…。



 これは余談なんだが、読書きを習っている際―――正確には石抱きの刑紛いの格好で音読していた―――に、異世界の言葉を何故理解できているのか聞いてみた。

 結果、『言葉が解らないと困るでしょ?』と答えにならない答えが返ってきた。どうやら異世界では、言葉の壁など存在しないようだ。

 シャルロッテさん曰く『世界の理でそう決まっている』なんだと。すげぇーよな、異世界…。



 差し出された用紙を受け取り、空欄の項目を埋めにかかる。ただし、ほとんど虚偽で。ギルドで要求される個人情報の内容はどこも共通らしく、あらかじめボリスさんと道中で考えておいた。


「書きました」


「確認します。・・・・・・はい、大丈夫のようですね。では、最後にこちらへ左右どちらの手でも構わないので、触れてください」

 

 カリナさんは、用紙の項目確認と並行して情報の抽出作業を行った後で、例のステータスを見る水晶を持ち出してきた。シャルロッテさんの所にあった水晶よりも二回りほど大きい。


 俺が指示通りに左手で水晶に触れると、数秒間の発光後、ピーッという音と一緒に金属製のプレートが押し出されてくる。

 出てきたプレートは、内容をカリナさんに一度確認されてから差し出された。


「不備はないようです。こちらが貴方のギルドカードになりますので、紛失しないようお願いします。今回は初回ですので無料でお作りしましたが、次回からは再発行に伴い銀貨15枚が必要となります、ご注意下さい」


 俺が頷くのを待って、言葉がさらに続けられる。


「また、登録された個人情報と個人識別用の魔力パターンは、全ギルドで閲覧可能なデーターベースに共有保存されています。全ギルドとは、冒険者ギルドを始めとする各職業の全てという意味です。万が一にでもギルド追放処分を受けるような悪質な犯罪行為を行った場合は、全てのギルドに加入できなくなりますので、お気を付けください」


 全冒険者の個人情報が記録されるデーターベースか……、思ったよりかなりハイテクなシステムなんだな。

 追放される事をするつもりはないけど・・・・・・、全ギルドに所属できないってのはキツいな。この歳で、未来永劫無職とか笑えない。


「はい、わかりました。気を付けます」


 真剣に忠告してくれたカリナさんに真摯な態度で返事をしてから、受け取ったギルドカードを確認する。


**************************************************************


所属:冒険者ギルド

名前:ユーマ・カンザキ

種族:ヒューマン

年齢:15

職業:剣士ソードマン

属性:火

能力:‐

特技:初級薬学・遺跡学

ステータス:平均 D- [筋力 D+ 体力 D+ 技能 E+ 敏捷 D 魔力 D 精神 E]


**************************************************************

 

 職業は、少しだけ齧っている剣士ソードマンにした。銃士ガンナーという選択もあったが、この辺じゃ珍しい職種みたいで、ボリスさん曰く、目立つようだったから止めておいた。わざわざ自分でトラブルを引き寄せる種を撒く必要もない。


 属性もボリスさんの「一番多い火でいいんじゃないか?」の一声を参考にした。どんな属性にしても魔法使えない俺には、どうでもいい話だ。


 ・・・別にイジけてない…本当だよ?


 特技は、シャルロッテさんとの『命懸け一般常識講座』で仕込まれたものを二つだけ書いたが、15歳の新人冒険者というのを考慮した着色をしている。本当は上級薬学を修めているのに…とかだ。


 遺跡学ってのは、元の世界で院生をしてたと知ったシャルロッテさんに、こちらの学生的一般常識として教え込まれた学問だ。

 途中、過度な専門的内容とヘビー級の分量から『……コレ、ゼッタイチガウ』と思ったが、既に逃走経路は塞がれていた。


 ボリスさんの話だと二つとも一般常識で学ぶもんじゃないそうだ。慣れたと思っていたシャルロッテさんの非常識に久しぶりに、泣いた orz 


 ステータスが平均 D- に下がっているのは、鬼と竜の力が封印されている影響だ。

 現在の俺のギルドカードには、ホムンクルス体のみの能力が表示されている状態となっている。


 だが、ここで注目すべきはそんな些細な所じゃない。

 もっと良く見るべき点、もっと騒ぐべき箇所があるじゃないか!!


 ・・・そう、そうだ! その通り、技能の値だ!!


 E+ になってるよね? E じゃないんだよ? + 付いてるんだよ?


 あの訓練の日々が、あの物理的にも精神的にも苦痛の毎日が、決して無駄なものじゃなかったという証明だ。


 ……ただ、あれだけ地獄を味わって E+ までしか上がらなかったのには、納得いかないんだがな…。 



 

「次に冒険者ギルドの説明に移ります。よろしいでしょうか?」


「お願いします」


 それからギルドについての詳細な説明を受けた。

 説明の内容をまとめると次のようになる。


・ギルドランクはカードの色と三本の線で表わされる。

・色は青>銅>銀>金>黒の順で高ランクになり、同色のランクでも次ランク色の線が多い方が高ランクとなる。

・依頼は自分のランク色と同じものしか基本受注できない。

・パーティーで依頼を受ける場合の基準は、メンバーの平均色である。

・依頼達成などのギルド貢献によりランクは上昇する。ただし、ランク色が変わる場合は、試験が課せられる。

・依頼失敗や依頼引継の場合、違約金やペナルティが発生する。

・依頼途中で発生したあらゆる損害は自己負担となる。

・基本的に冒険者同士でのトラブルにギルドは不介入である。

・犯罪行為や大きなトラブル、ギルドへの許容外の損害が発生した場合、追放処分・厳罰に処せられる。

・ギルドが緊急招集や指名依頼を発した場合、従事する義務がある。

・冒険者ギルドと協約している施設(宿屋、武器屋、道具屋など)では、割引特典がある。



「以上で説明を終わります。何かご質問はありますか?」


「いいえ、ありません」


「それでは、これからのご活躍を期待しています」


 激励の言葉と丁寧なお辞儀を最後に、結構な時間を要した俺のギルド登録が終了する。


 ふー…、終わった~。

 んーっと、ボリスさんはどこだ? 途中からいなくなったの知ってたけど…。

 まあ、しばらくしたら戻ってくるかな。


 ボリスさんの姿が」見えないので、時間潰しを兼ねて、依頼書の張られている掲示板を覗きに向かう。


 どれどれ、青色の依頼は・・・・・・ふむふむ…。


【引越しの手伝い:報酬銀貨2枚】

【庭掃除:報酬銅貨30枚】

【ペットの世話:報酬銅貨40枚】etc.


 青色の依頼は、雑用依頼と分類されるものが大半を占めていた。冒険者の仕事というよりは、学生のバイトに似た印象を受ける。


 討伐系は、次のランクからかな。

 ん? ・・・・・・白色の依頼書?


 ギルドの説明にはなかった色の依頼書が、少し離れた場所の掲示板に張られていた。


 なんだろ、これ?


「それは、常時依頼の掲示板だ。需要が高く且つ達成難易度が低い依頼ばかりを集めたもんだな。ランクに関係なく受注できるから、低ランクの冒険者には貴重な収入源から小遣稼ぎまでと幅広く重宝されてんぞ。それに雑用ばかりじゃ、経験積めないだろ?」


 いつの間にか背後にボリスさんが立っていた。なんかやけに満ち足りた顔をしているのが、凄く気になる。


「へぇー…って、どこ行ってたんですか? ・・・・・・なんか甘い匂いしますけど…」

 

「おお、そうだった。ここのギルドは二階が喫茶店になっていてな、名物のハニーパンケーキが絶品なんだよ。登録が終わるまでのつもりだったんだが、夢中で食べていて遅れてしまった。50枚は食べすぎたな」

 

 ガハハハと笑っているけど、パンケーキ50枚って・・・・・・う゛っ! 想像しただけで、胸焼けが…。


 ボリスさんが『超』が付く甘党なのは判明している。

 シャルロッテさんの家でも一日に1リットルの蜂蜜を一人で消費していたし、毎食のデザートやおやつを最低でも20回はお代りしていた。おそらく帝国一似合わない甘味男子だ。


「ん? どうした? 顔が引き攣ってるぞ。登録は無事に終わったんだろ?」


 終わりましたけど…。


「そんじゃ、次は剣だな。よし! 行くぞ」


 俺の苦笑いの意味を理解せずに、ズンズンと歩き出すボリスさん。

 一度だけ嘆息してから俺はその後を追った。 



 今日から俺は冒険者になった。


 上着の内ポケットに仕舞ったギルドカードを布越しに握ると確かな感触が掌に返ってくる。少しだけ誇らしい気分だ。



 ・・・異世界の地で、俺は冒険者になったんだ。








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