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第7話 初戦闘

12月21日 改稿


 



 空は雲一つない快晴。季節は初夏に向かっているのか少し汗ばむ程度で、概ね過ごし易い。

 そんな天気の中、俺とボリスさんは街道をひたすら北に向かっている。目的地はここから歩いて三日ほどの位置にあるポルドラという街だ。帝国の地方都市としては平均的な大きさの町であるらしい。

 俺とボリスさんの体力を考えれば、もっと早く着けるのだが教えられた冒険者必須の知識やスキルを実践しながらということなので、結構ゆっくりとした進行速度になっている。


 やっぱり、現場で実践するとなると少し勝手が違ったりで大変なんだよね。


「ん?」


「どうしたユーマ、何か見つけたのか?」


「今、なんか見えたような…」


 数十メートル先の茂みが微妙に揺れているような気がして、歩みを止めた。


「あそこの茂み揺れてませんか?」


「どれどれ…ああ、何かいるな」


 ボリスさんも促されて、茂みの違和感に気付いたようだ。


 ガサガサッ ゴソッ


 そのまま視線を向けていると茂みを掻き分けて体長1mぐらいの豚っぽい生き物が現れた。っぽいっていうのは、毛色が緑で額に角が生えているからだ。俺は、こんな豚、知らない。


「お! 角豚ホーンホッグじゃねーか」


「魔物ですか?」


「一応な。家畜として飼われている豚に比べて、少し凶暴で力が強いぐらいの魔物だよ。魔石も体内に保持してはいるが、最低ランクの物だな」


 おお、初魔物!!

 屋敷を出る時、ボリスさんに脅されたけど、森では魔物に遭遇しないどころか気配するなかった。ボリスさん曰く、こんな事は初めてらしい。


 ところで、魔物とそうでない生物との違いだがあまりない…と聞いていた。一番の違いでも、体内に魔石を保持しているかどうかってぐらいだけだと。


 見た目もあまり…変わんない、のかな?

 角とかあるけど…毛色も迷彩柄で若干違うけど…。


 この世界での魔物とは、世界を満たしているマナの悪影響で変異した動物が繁殖しただけものと認識されている。ただし、マナの影響を普通の生物に比べて強く受けている分、凶暴だったり身体能力・魔力が高かったりするから脅威そのものである。


「じゃあ、見逃します?」


「いいや、たしかに魔石は売りもんにもならない程度の物だが・・・こいつの肉は美味い! それにお前のいい訓練になるだろ? 森じゃ、何故だか知らんが全く魔物いなかったしな。ということで、頑張って来い!」


 こいつの魔石は売れないのか、残念だ。


 魔物が体内に持っている魔石は全て魔力を宿していて、魔道具の材料だったりと利用価値が高い物なのだ。冒険者ギルドなんかで買い取ってくれるらしい。


 まあいい、肉は美味いらしいからな。

 今晩のおかずのために頑張りますかね。


「じゃあ、行ってきます」


 俺はボリスさんに返事を返してから荷物を降ろし、シャルロッテさんお手製のリボルバー『イルリヒト』を取り出した。


 豚モドキは、まだこちらに気付いていない。

 今、俺のいる場所は風下。このまま慎重に近付けば、気付く前に仕留めれるだろう。


 腰を屈めてゆっくり獲物との距離を狭めていく。


 ・・・もう少し、10m……8m…7mっ!?


 風向きが急に変わり、俺のいる側が風上になってしまった。

 通り風が吹き抜けると同時に、豚モドキが顔を上げる。


 気付かれた?! ヤバッ!


 豚モドキと目が合った。

 その瞬間、俺は銃身を上げて間髪入れずに引き金を引く。


 ドォン!


 銃内部で起きた爆発の反動で銃身が跳ね・・・豚モドキの顔半分が爆ぜた。


 大学時代の旅行先で射撃指導してもらった時の事を思い出す。指導官は「えーっと、前の職は伝説の傭兵ですか?」と尋ねたくなるほど眼帯の似合うナイスミドルなおっちゃんだった。


『知ってるか? ジャパニーズボーイ。銃ってのはな、射入痕より射出痕の方がデカいんだぜ。特に顔面を撃たれたりしたら悲惨だ。例えば、弾丸が眼球から侵入した場合は、眼底の骨を巻き込みながら脳へと到達する……巻き込んだ骨を散弾に変え撒き散らしながらな。んで、脳のミンチと一緒に皮膚を突き破って放出され―――――』


 って事を永遠と喋り続けていた。誰もグロい話は求めていない。俺達はレジャースポーツとして楽しみたかっただけなのに。

 ちなみにそのおっさんは、元傭兵でもないただの独身貴族なおっさんで眼帯はものもらいだそうです。・・・まぎらわしい。


 でもまあ、おっちゃんの言ってた事だけは……正しかったみたいだ。

 

 ズゥゥン!


 後頭部から黒い血を噴き出し豚モドキが地面に横たわる。

 見た目以上に体重があったようで、地面から僅かな振動が伝わってきた。


 しばらくその場で豚モドキの観察した後、周りにも気を配りながら慎重に近付き、爪先で蹴ってその生死を確認する。もちろん、銃は構えたままで、最後まで油断はしない。


 大丈夫だ、死んでる。


「ふぅー」


 ここで漸く、息を深く一つ吐いて、俺は戦闘態勢を解いた。

 

「ナイスショット! でも、10mくらいの距離から当てられないとこれから厳しいぞ」


「・・・ですね。久しぶりの射撃だったんで、少し慎重になり過ぎました」


「そうか、早めに練習して感を取り戻しとけよ」


「はい。っと、次は解体ですね」


「おう。血の臭いに釣られて、他の魔物が集まってくる前にとっとと済ますぞ」


 すぐに食べる分の肉と一応、初魔物討伐記念の魔石を回収にかかる。解体はボリスさんも手伝ってくれたので数分で終えた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 すっかり日は暮れている。

 ボリスさんと俺は野営の準備を終え、昼間狩った豚モドキを焼いていた。

 味付けはシンプルに塩のみ。火に炙られ肉の脂が滴り落ちと何とも言えない食欲をそそる香りが漂ってくる。


「そろそろ、良い焼き具合かな」


 焼けた肉の塊を火で軽く炙った半切れパンの上にナイフで削ぎ落としていく……こんもりお肉の山ができたところを残りの半切れパンで挟む、特製ポークサンド異世界バージョンの出来上がりだ。・・・ゴクリッ!たまらん。


 ボリスさんにも行き渡った瞬間、「いただきます」も忘れて我慢できずに齧り付いてしまった。


「っ!?」


 なんというか…粗野な味なのではあるが、魅力的な美味さがあった。もう完食するまで終始無言である。肉は全部で5kg位焼いたのだが、食事を終える頃には一切れも残っていなかった。


「すげー食べっぷりだったな。オーガと竜が混じっているって半信半疑だったが、・・・納得したわ」


 苦笑しながらボリスさんが呆れていた。仕方ないじゃないか、あの滴る脂の甘み! 元の世界のA5ランク和牛だって勝てませんよ!! まあ、A5ランクなんて食べたことないですけども。


 食後に色々と談笑しながら過ごしていると前々から聞きたかった事をふと思い出して、この際だからボリスさんに聞いてみた。


「そういえば、前から気になってたんですけど。ボリスさんって何でシャルロッテさんのことを大佐って呼ぶんですか?」


 ボリスさんは顔を上げて、俺を「え!?」って感じで見てくる。


「お前、知らなかったのか? 大佐は…シャルロッテ・フェッルム・ミュラーは、200年前の帝国平定戦争で軍を率いた英雄なんだぞ。そんで、俺はその時に率いられた部下の一人って訳だ」


 な、なんだって!? シャルロッテさんが帝国の英雄?! ・・・帝国の天敵の間違いじゃ…


「当時の帝国はな、国を強大な権力で支配していた皇帝が崩御したばっかりで、国内は色々とごたついていたんだよ。皇帝が死んだのを好機と抑えつけられていた各地方の領主が好き勝手始めたり、それを諌めるはずの帝都貴族共も一緒になって腐敗しまくりでな、もう手がつけられない政情だったんだ。そんな状況で一番割りを食うのは、誰だか知ってるか……平民だよ。貧困や飢え、病、野盗に襲われたりで膨大な数の死者を生んだんだ…」


 昔を思い出しているのか、焚火に照らされたボリスさんの目は遠くを見ているようだった。


「そんな地獄のような中、立ち上がったのが帝国軍に所属していた大佐だよ。国の軍人って言ってもな、中身は一部を除いてほとんどが平民だ。皆、大佐に従った。・・・で、そこからは大佐の快進撃の始まりだ。バカな地方領主から帝都貴族も全員粛清されてったな、一族全員。大佐こそが本物の英雄だよ」


 ほぇ~歴史的な大人物な感じなのかな。

 凄い人なのはわかったんだけど、実物を先に知っているとなんか納得できないという気持ちが…ある意味凄い人だけど。

 ってか、200年前の戦争ってあんた等いったい何歳なんだ???


「200年前の戦争ですか・・・ちなみにボリスさんって何歳なんですか?」


「う~ん。だいたい戦争の時が30歳ぐらいだったから、230歳ってところか。まあ、俺は竜人族だからあんま気にしないんだわ、歳なんてな」


 ボリスさん、あなたが竜人だと初めて聞いたんですが。

 それにしても、まさかの200歳オーバー・・・よし! 異世界・ファンタジー万歳で処理しよう。


 あれ?

 それだと、200年前にボリスさんの上官だったシャルロッテさんは少なくとも……―――――


 ゾクッ!?


 ――――死神の鎌が首筋にかけられたような寒気を感じたから、考えるのは止めとこう。




 その後もしばらくの間は、当時の英雄談などで会話を楽しんでいたが、夜番のこともあるのでお開きとなった。

 

 今は、焚火の前に最初の夜番役である俺が一人だけ。

 夜も更けてきた所為か、周囲も随分と静まり返っていた。

 燃える薪の爆ぜる音が妙に大きい。


 火をじっと眺めていると自然に考えごとばかり頭に浮かんでくる。

 特に、今日は昼間のことが…。


 俺は初めて自らの手で生き物を殺した。相手は魔物だ。

 しかし、魔物でっても生き物は生き物だ。元の世界では…極一般人ならば忌避する行為。本来なら罪悪感や後悔を感じるべきなんだろう行為だが……俺は何も感じない。そして、それを恐ろしいとも思っていない。

 おそらくだが、今日殺した相手が豚モドキではなく人間だったとしても平気だっただろうと思う。何故か、確信してそう思える。

 

 新しい身体の影響が精神にまで及んでいる?


 元の世界で、俺は平凡という言葉が似合う一般人だった。そんな俺が、生き物の命を奪うという行為に対して悩まないなんておかしいはずだ。だったら、俺は…。


 ボリスさんと夜番を交代する時間まで、そんなモヤモヤとした考えが浮かんでは消えを繰り返していた。






 ・・・寝ればスッキリするよな。




 この思いもなぜかそうなるだろうという確信を含んでいるのだが…




 この時の俺は、それに気付かない。


 ただ、今日の疲れを癒す為…毛布に包まって瞼を閉じた。


 



お読みいただきありがとうございます。


帝国平定戦争時でのシャルロッテの活躍もその内に書こうかな…外伝で。

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