第4話 アイ・キャン・フライ?
12月7日 改稿
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う、う~ん、眩しい…
圧倒的な光量で瞼の裏まで照らされる。
背中に感じるひんやりとした金属の感触。
兎にも角にも眩しいので光を遮ろうとするが、腕が動かない。加えて、足も頭も…ってか、身体全部動かない。
薄眼を開けて可能な限り周囲を見渡す。
えーっと、何??? この状況…
どうやら俺は手術台のような物に身体を固定されているようだ。
「うそ!? もう目が覚めたの?」
手術台を照らすライトで影しか見えないが、その声の主は間違いなくシャルロッテさんだ。
「あのー、なんで俺は手術台に縛られているんですかね?」
「えっ! あーそれはね、そう、あれなのよ!・・・うふふふっ」
彼女はなぜか曖昧な笑みを返すばかりで教えてくれない。
俺は確か死なないで済むように彼女に頼んで、それから…ああ、そうだった! 薬か何かで気を失ったんだ。ということは、今から身体を治すのかな?
「今から治療を開始するんですか?」
「治療? 貴方の身体だったら新品になっているわよ。ほら~~~」
彼女は俺を照らすライトを退かし、天上に設置されていた姿見鏡を下ろしてくる。
鏡に映った俺は傷一つないまっさらな身体だった。
千切れた腕もちゃんとあり、血色も良い。
そして、肌も若返ったように…そう、少年時代のあの日のようにって?!
あれ? 俺、縮んでね?? ねえ? 俺、縮んでるよね。
俺は、26歳のどこにでもいる成人男性だったはずだ。決して鏡に映ったような15歳ぐらいの少年じゃなかった。
「シャルロッテさん。どうして、俺は少年の姿になっているんですかね?」
彼女の焦っていた理由はこれだったのか。
死を免れるための治療を受けたら子供になってしまうとは・・・さすが異世界、予想もつかないことが平然と起きる。
だが、俺のその考えは甘かった。彼女は俺の常識の遥か彼方にいるようで――――――
「うふふ、気づいちゃった~イイでしょ! 若くてピチピチの身体よ。この年齢に調整するのは凄く難しいんだから~」
ドヤ顔で俺を見下ろしてくる。
えーっと、子供の身体なのは治療の副作用とかじゃなくてわざとだとっ!? ナイワー、ソレナイワー。
「ち、ちなみにですけど、なんで少年の身体にしたんですかね…もちろん、それなりの理由とかあるんですよね?」
「それはもちろんよ~だって、私が少年偏愛主義者だからに決まっているでしょ!」
なんか当たり前だろ的に返された。
一瞬、俺がおかしいのかと思ったけど・・・怒っていいよね、ここは怒る場面だよね。命を救ってもらったことには感謝する・・・するけどさ、身体を弄ぶことまで許した覚えはないよ。よし!ここはひとつ文句でも―――――
いざ口を開こうとした時、彼女が少年の魅力をブツブツと口ずさみながら固定されている俺の手足に黒い線を描き入れている最中なのに気付いた。
治療は既に完了していると言っていた。ならば、これ以上何をする必要があるのか?ってか、俺はどうしてまだ手術台の上に拘束されているんだ??
「それでシャルロッテさんは今、何をしているんですか?」
「この後、改造手術するから、メスを入れる予定線を描いているのよ。計画的に事を運ぶのは大事よね~」
改造手術だとっ?!・・・俺は赤いスカーフを首に巻いたバッタ的な仮面の男にされてしまうのだろうか。「やめろぉぉぉショ〇カー!!」とでも叫ぶべきだろうかって、現実逃避している場合じゃない!身体は少年にされたうえに改造人間にまでされたら洒落にならない。
「シャルロッ「少し黙っててね」?!」
非難の声を上げるより先に口をガムテープのような物で塞がれる。
「?!~~~~~!?」
それでもこのマッドサイエンティストに向けて、俺はモゴモゴと必死に叫ぶがその全てを無視されてしまう。
「この世界はね。優しいことばかりじゃないの。外には、危険がいっぱいなのよ。か弱い少年がそんな世界でも傷付かずに生きていけるようにしてあげる。なんて優しいんでしょ、ワ・タ・シ…うふふ~」
俺は理解した。
彼女が親切で施しているのではないと!
最初、彼女に会った時の会話が脳裏に鮮明に蘇る。
『貴方は……変態さんは私の退屈を紛らわしてくれるのかしら?』
これは、自分の退屈を潰す為にしている作業なんだ。
おそらく俺の予想は当たっているだろう。だって、とても楽しそうに笑っているんですもの~~~~~。
「さて、できたっと。あとは、薬で眠らせるんだけなんだけど…ホムンクルス体の培養に高品質のエリクサー使った所為で、状態異常耐性が半端ないのよね~ギルドの麻酔薬じゃ駄目かしらね。例の禁止毒薬で……いや、その100倍濃縮液でちょうどいいくらいかも」
おーい、禁止毒薬ってもうそれ麻酔薬じゃねーから! やめてぇぇぇぇその注射針をこっちに向けないでぇぇぇ!! あ、針先から飛び出た液が台を溶かしてるって、煙上げて溶けてるってぇぇぇ!!!
そんな儚い救済の願い(叫び)も虚しく、プスッとした首への刺激を最後に、またもや俺の意識は闇に落ちていくのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「・・・知らない天井だ」
異世界トリップのお約束。
異世界二回目の天蓋付きキングベットで目を覚ます。
現在の格好は下着だけを着ている状態だが、ベット傍らのテーブルにきちんと畳まれた上着が用意してあった。
ゆっくりと体を起こしてみる。
それから、自分の身体をペタペタ触って異常がないか丁寧に確認していく。
よ、よかった、どうやらバッタ的仮面の男にはなっていないようだ・・・少年の身体なのはそのままだけど。他には…非常に腹が減っているということぐらいか。
とりあえず、用意してある上着に着替えるか。
モゾモゾ
ふと視線を感じて、振り向くとセバスさんが背筋を伸ばして扉の前に控えていた。
「おはようございます、カンザキ様」
「お、おはようございます。セバスさん」
いつの間に入ってきたんだ? 最初の時もそうだったけど、この人は気配なく現れるよな。
「中庭にてご朝食の準備ができております。こちらへ」
セバスさんに促され、後に付いていくとシャルロッテさんも朝食を摂っているところだった。
真正面の席に座ると同時にセバスさんが目の前に朝食を次々に並べていく。
うわー、高級ホテルの朝食って感じだな。
中には見覚えのない野菜や果物もあるが、主食のパンも元の世界で食べていた物と変わらない。料理自体に大差はないようだ。
ぐぅ~~っ
…とにかく食おう! 話はそれからだ!!
「いただきます!」
ガツガツ! モグモグ ゴクリッ
う、美味い! なにが元の世界と大差ない料理だ!! 少なくとも俺の人生でこれほど美味い料理を食った記憶なんてない。う~む、異世界侮りがたし。
「うふふ、食欲も正常にあるようね」
「こんなおいしい料理初めてです」
「あら、そう。セバス、手料理が絶賛されてるわよ~よかったわね」
「お褒めにあずかり光栄でございます」
な…なんだと!? これ、セバスさんの手料理だったのか。この執事、デキる!
「そのまま食べながらでいいから聞いてちょうだい。治療前に言った通り、貴方が何故死にかけていたのか説明するわね~」
そういえばそんなこと言ってたなと思い出しながら頷く。
「この世界はね、マナっていう魔法の素みたいなものに満たされているんだけど…どうやらこのマナが、魔法の存在しない世界から来た者にとってはかなりの猛毒らしいのよ。だいたいこの世界の外気に晒されて2、3時間もすれば全身から血を噴き出しながら絶命するくらいにね。貴方が私と出会うまで結構な時間、森をさ迷っていた事を考えると良く持ったわね~って感じよ。過去の記録には、生き残った異世界人もいたらしいけど…その異世界人は年齢36歳で魔法使い?だったとか……まあ、この話は魔法の存在しない世界で魔法使いとか矛盾しているから眉唾物だと思ってるんだけどね~」
へぇー、30歳超えてて魔法使いの異世界人は生き残ったのか。・・・そうか、だから(あと4年修業が足りない魔法使い見習いの)俺は異世界人の平均生存時間を超えても生きていたんだー……(´;ω;`)ブワッ
「どうしたの? 顔色悪いわよ。もしかして、何か心当たりあるのかしら?」
「イイエ、アリマセン、ダイジョーブデス」
「そう、ならいいわ。次に貴方の新しい身体について説明するわね。貴方の身体はダメージが酷過ぎて、私でも手に負えない状態だったのよ~だからね、なんとか崩壊を免れている細胞を確保して、ホムンクルス作成の応用で貴方のクローン体を用意したの。そこに、予め分離していた魂を定着させ完成したのが、今の貴方よ。でね~ここからが肝心な所なんだけど、ホムンクルスの培養液に高品質のエリクサーをふんだんに使用したから超強力な肉体再生能力と状態異常耐性を備えたスペシャルなボディーに仕上がっているの。これで、頭を吹き飛ばされても身体をバラバラにされても安心ね」
ここで、片目を閉じてウィンクを挟んでくる。
「心臓付近に魔核ってのがあってね。それさえ無事ならどんな状態からも再生可能なのよ~さらに、万が一にでも魔核に何かあったら困るからってことで、緊急脱出機能も付けてみたの。どこからでも私の所に転送されてくる仕様なのよ~凄いでしょ!!」
俺はどうやら完全に人間を辞めてしまったらしい。
頭を潰されても魔核ってのさえ無事なら平気で、その魔核?も脱出機能を搭載しているってロボかよ! シャルロッテさんは「やっぱ緊急脱出はロマンよね~」とか言ってるし。
「それだけじゃないのよ! いくら再生できても弱かったら意味がないじゃない? だからね、全身の骨格を“狂鬼”の字名を持つ鬼の骨で成形し直し、体液を竜血で作成した物に置き換えちゃった(・ω<) てへぺろ 」
あーそうか、やっぱりあれも夢じゃなかったんだーははっ、改造されたのかー赤いスカーフ買いに行かないとなーあるかなーこっちに。
俺はその時、全てを、どんなことでも受け入れられる境地に達していたのかもしれない・・・ただ、思考停止していただけともいえるが。もういいです、生きてさえいれば……ぐすんっ
「言葉にならないほど感激してるところ悪いんだけど、さっそくその身体のスペックを見たいの。理論上は、上位竜相手にタイマンで十分渡り合えるだけの能力があるはずなのよ。ん~とりあえず、まずはあそこにある岩をおもいっきり殴ってみて」
おいおい、いきなり岩を殴って来いとかむちゃぶりしてきたよ。
彼女の言う通りなら可能なんでしょうけど、この身体は高スペックらしいし…でもさ、中身は一般市民代表の俺なんですよねー岩とか殴るの痛そうだし、嫌なんだけどなー(チラッ)ダメだ!嫌ですって言えない。すっげー期待された目でこっち見てるよ。
「わかりました。やってみます」
了解の意を伝え、席を立つ。
指定された岩の前に立ち、腰を落として構える。
拳を握る。
息も止める。
覚悟を決め、岩に狙いを定めた。
「ふっ!」
吐き出した息と共に踏み込みながら拳を打ち出――――っ!?
ドォォォン!!
足を踏み込むと同時に地面が爆発した。
辺りには大量の粉塵が濛々とたちこめる。
360度激しく動く視界。
凄まじい回転に翻弄される身体。
そして、遠ざかっていく地面。
なぜなら、俺は・・・遥か上空を飛んでいるから。