第2話 宣告
12月7日 改稿
「うふふ。変わってるのね、貴方。いいわ、付いていらっしゃいな~変態さん」
全裸男が必死に土下座する姿がお気に召したのか銃口を下ろしてくれました。
どうやら俺の採った行動は正解だったようだ。もちろん、俺の股間は無事である!本当に・・・本当によかった。
「どうしたの? おいて行くわよ」
彼女は一度こちらを振り向いただけでスタスタと先に行ってしまう。
片手に持っていた銃は、彼女が手を振ると同時に消えてしまった。
イリュージョン?・・・ま、魔法なのか!?
初めての現象を前に及び腰になるが、なんといっても異世界に来て初めての人である。ここでおいて行かれたら生き残る自信などこれっぽちもない。少し怖いけど・・・やっぱ、かなり怖いけど、俺は素直に彼女の後を追った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
彼女に付いて歩くこと約二十分。
ようやく森を抜けて見晴らしのいい高台ような所に着いた。
中央に大きな樹があり、その傍らにはデンッとした豪華な一軒家が建っている。白塗りの壁に赤い屋根。たしか擬洋風建築と呼ばれる洋館だ。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
うおっ!ビクッた。
ぼけーっと豪邸を眺めていたら、いつの間にか執事服を着た初老の男が後ろに立っていた。
腰まで伸びた銀髪を肩甲骨の辺りで結び垂らしている。銀色の瞳が印象的だった。
「セバス、ただいま。狩りの方は、期待外れだったわ。でも、代わりに面白いものを拾ってきたの……久しぶりに退屈しないで済みそうよ」
チラリと流し目で見つめられる。
な、なに? なんか、あんの? ちょ、ちょっと怖いんですけど…
「それはようございました。湯浴びの準備は整っておりますが、どうなさいますか?」
「うーん…いいわ、そんなに汗もかいてないし。それよりも……まだ、変態さんの名前を聞いてなかったわね。私はシャルロッテ・フェッルム・ミュラーと言うの、よろしくね」
「神咲 勇真です、よろしくお願いします。あ、ユーマが名前で、カンザキが苗字です」
「ふ~ん、珍しい響きの名前ね。色々と聞きたいことがあるんだけど・・・少し汚れているし、着る物が先かしらね」
今の今まで自分が全裸であることを忘れてしまっていた。
女性の前で下半身丸だしで自己紹介とか・・・うぅぅ、死にたい。(グスン)
シャルロッテさんと別れ、セバスさんの先導で浴場へ案内される。
こちらの世界でも入浴の習慣は同じようで、ほとんど戸惑わずに入浴出来た。ただ、お風呂は旅館の大浴場並みに広くて驚いたけど。
お風呂からあがると上下の下着と上着に靴まで用意されていた。
着てみるとまるでオーダーメイドで拵えたようにフィットする。
いつの間にサイズを…って、異世界だから魔法の服とかかな?
浴場の部屋から廊下へ出るとセバスさんが待っていた。
「衣服の不都合は御座いませんか?」
「はい、ピッタリです。ご用意して頂きありがとうございます」
「それはようございました。なにぶん急でしたの御用意した服の手直しがいささか雑になったのでは?と懸念しておりました。ですが、ご満足いただけたようですね。お嬢様がお待ちでございます。此方へどうぞ」
い、今なんつった!?俺が入浴していた短時間にオーダーメイド並みの寸法直しを成し遂げたというのか!しかも、サイズは目測で・・・すげー、異世界の執事スゲェー!!
セバスさんの圧倒的有能さに驚愕としながらも後を付いて行くと、シャルロッテさんはテラスで優雅にお茶を嗜んでいた。
「あら、来たわね。そこに座りなさいな」
勧められるまま席に着く。
流れるようなタイミングでセバスさんがお茶を淹れてくれた。
「それで、どうして森の中に裸でいたのかしら? 普通では、私の結界を抜けるなんて事できないはずなのだけれど」
「えっとーあの、結界というのはわからないんですが…気付いたらというか、ドアを開けたら森の中だったとしか。その前は、自分の家のトイレで寝ていました」
「ふふふ、トイレで裸のまま寝るなんて凄い趣味ね。そう、気が付いたら森だったのね。ということは・・・ああ、なるほどだからオーク如きが侵入できたのか。面白いわ~ええ、とても素敵よ」
トイレでの全裸寝オチは趣味じゃないですと全力否定したかったが、なんか自分の世界に行ってしまっているようなので無駄だと思い、そのまま黙っていることにした。不本意だけど。
しばらくの間、シャルロッテさんはブツブツと独り言を呟きながら考え事しているようだった。
淹れてもらったお茶から立ち昇る湯気もなくなり、手持ち無沙汰にしていると彼女は急に顔を上げて見つめてくる。その顔は満面の笑みで目が爛々と輝いていた。
「結論から言うと貴方は元の世界に帰れないわ。それに―――――」
「ち、ちょっと待ってください!!今、なんんて!?」
「もう、他人が喋っているのに遮るのは行儀が悪いわね~」
彼女に少しムスッとした顔をされるが、そんなことはどうでもいい!『元の世界に帰れない』って確かにそう聞こえた。い、いや、そもそも俺は彼女に異世界から来たと言っていない。ならば、俺が異世界人だと知らないはずだということは……ここから帰すわけにはいかないとかの意味で―――――
「えっと~混乱させちゃったみたいだけど、貴方が異世界人であるという前提の話だからね。どうして異世界人だとわかったかというとね、貴方の髪と瞳がこの世界の人種に存在しない漆黒の色である事と私の結界内にオークと貴方が侵入していたからなの。私の結界は特別製でね。例えば、上位竜がわんさか攻めてきても破られないくらい強力なモノなのよ。その結界を破るどころか全く反応させずに侵入するには、空間そのものを歪める方法しかないのよ…それでも、世界全体に影響が出るくらいの時空震を伴うから侵入者自体ただじゃ済まない事になるでしょうね。しかもね、空間を歪めるなんて所業を自分の意思で実行可能なのは……私が知る限りじゃ【世界の支柱者】だけなのよ。でも、今の彼らにそんな大それた事をする余裕なんてないのよね。ってことは、彼らによって歪められたのではないと判断できるわ…それに、世界規模の時空震なんてものも観測できなかったしね」
彼女はここで一旦、言葉を切りお茶を一口飲む。
傍らでは、セバスさんがすっかり冷めてしまった俺のお茶を淹れ直していた。
「そうなると…どうして貴方はここにいるのかって問題が残るんだけど。その答えは簡単、空間の歪みが発生するもう一つの可能性。本当にコンマ以下の可能性しかない事象…それは、偶発的異世界間の共鳴によって発生した時空の歪みなのよ。ここで言う異世界っていうのは、宇宙自体が異なる世界って意味ね。これ、重要よ。それでね、その別宇宙の世界と世界は近づいたり離れたりを繰り返しているっていう真理が存在するんだけど――――――」
また、セバスさんが冷めたお茶を淹れ直している。
「―――――って、感じなの!凄いでしょ? 簡単に概要だけ掻い摘んで話したけど、これももっと詳しく話すと面白いんのよ~今回はここら辺で説明を省くけどね。でね、この世界と貴方の世界の距離が虚数的に近づくと互いに共鳴し合って、ランダムな時空の歪みが発生してしまうのよ。この場合の時空の歪みは、宇宙の法則に則ったものらしいから反作用で起こるはずの時空震が発生しないの!!興味深いわよね~まあ、そんな人智を超えた事象に偶然巻き込まれて貴方はここにいるのよ。ここまで言えば、同じ現象を再現するなんて不可能なのが理解できるでしょ。したがって、貴方を元の世界に帰れないという結論に至る訳。ちなみに、オーク達は時空の歪みによって一時的に空いた結界の穴から侵入したんだと思うわ~」
頭の中が真っ白になった。
難しい事も色々言われた。
理解を超えた事も長々と説明された。
そして、とにかく帰れない事だけはなんとなく理解できた。
ああ、頭が痛くなってくる・・・目の前が暗くなって、グニャグニャに歪んでる気もする。かなり精神的に応えたらしい。
ツー ドロリッ
頬を伝う違和感と口元に触れる液体の感触。
それらを拭い手元に目を落とす。
え!? 何だコレ、目と鼻から・・・血が垂れてくる???
「ああ!っと、貴方にもう一つ伝えなければならない事があったわ。そろそろ限界っぽい感じだしね。覚悟して聞いてほしいの、いい?」
真剣な表情を作り姿勢を正す彼女。
対して俺は呆けて構えていた。
ははっ、これ以上何を言われても驚かないよ。
元の世界に帰れない以上の事なんてあるわけじゃないか。
「・・・貴方、後数時間で死ぬわ」
「え゛っ!!」
あったよ、それ以上が・・・orz