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第17話 昇格試験③

戦闘シーンに納得できない…文才の無さが恨めしい。


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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 人型であるけれど劣化した別の何か、人類の成れの果て…

 それが、ゴブリンを見た俺の感想だった。


 身長は1.2~1.3mぐらい、元の世界で言うと小学生低学年の子供ぐらいの大きさだろうか。

 潰れた鼻と尖った耳が特徴的だ。濃緑色の皮膚はパンパンに膨れた腹部を除いて、身体中で皺になっている。腕、脚、肩や胸にかけて骨張っており、不揃いな歯と白く濁った瞳が醜悪さに拍車をかけ地獄絵図の餓鬼を連想させる。

 下卑た笑みと奇声を上げる姿には嫌悪感しか浮かばない。「ファンタジーの定番キタ―ッ!」とか言って興奮していた昨日の俺に教えてやりたい・・・リアルは想像以上にキモいと。


 何かの皮を気休め程度に腰に巻き、手には錆びた短剣やら鉈、棍棒を持っている事から知能といえるモノはありそうだ。

 しかし、悪臭漂う汚れた身なりと動く度に下半身を晒すような奴とコミュニケーションを図ろうと思う勇者はいないだろう。俺には、無理だ。



 俺達は目的地の森に入ってから5分も経たない内にゴブリンと遭遇していた。


「・・・ユーマ、痛い」


「人に負ぶさってもらっている分際で寝る方が悪い」


「むう」


 ムクれるエルにジト目で返す俺。

 ゴブリン5匹に囲まれているにもかかわらず気の抜けた会話だ。


 小柄なエルは思った以上に軽く、負ぶっていても負担には全くならなかった。おかげで、俺がエルを負ぶってからは一行の歩くペースも上がり、当初の予定時間通りに森へ入ることができた。

 それで今は、ゴブリンに囲まれたにもかかわらず背中でご満悦な表情のまま寝ていた魔女っ子にデコピンのお仕置きを与えたところである。


「仲が良いのはいいのですが、一応試験ですから緊張感を持ってください。まあ、油断しているわけではないようですけどね」


 ロデリックさんに苦笑しながら注意された。

 確かに俺とエルは場にそぐわない軽口を叩き合っているものの、目線は目標から外さず既に戦闘準備を終えている。



 ゴブリン達は、俺達を左に3匹、右に2匹と分かれて囲んでいる。

 左は短剣が2匹に棍棒が1匹、右は鉈と棍棒が1匹ずつだ。


「お前達は、左を頼む!」


 瞑想の人が、俺とエルに向けて一言叫ぶとそれが合図になったかのようにゴブリン達も動き出した。


 ってか、瞑想の人、今日初めて喋ったな。休憩の時もずっと瞑想してたし。


 動き出す状況の中で、俺はそんなことを考えているとゴブリン3匹がこちらへ突っ込んでくる。


「エル、援護よろしく!」


「ん(コクン)」


 エルを背にして前に出るとゴブリンは俺に狙いを絞ってきた。

 「ギャアギャア」と奇声を上げながら先頭の1匹が短剣を振り下ろしてくる。

 しかし、その剣速は遅く余裕を持って対応可能なものだ。

 タイミングを計りながら振り下ろされる短剣を逆袈裟斬りで斬り返す。


 耳を衝く金属音。


 その後に続く木を何かが打つ音。

 それは、ゴブリンの短剣が後方の木へ弾き飛ばされ突き刺さった音だった。


 自分の得物を失くして隙を見せるゴブリンに追撃の左ストレートを打ち出す。

 狙いは後ろに続いているゴブリンを巻き込こませて動きを封じるまたは、阻害させることだ。

 思いのほか左ストレートは綺麗に決まった。

 グシャッという音と肉を潰す感触を拳に残して、ゴブリンは顔面から青い血を撒き散らしながら背後の1匹と重なるように吹っ飛んだ。


「『氷結弾フリーズ・バレット』」


 エルの透き通った声が響くと同時に残り1匹のゴブリンが腹に穴を空けて倒れる。

 穴の周辺は白く凍っているようで血も流れていなかった。


 俺はその様子を目の端で確認しながら覆いかぶさる仲間を押し退けようと足掻くゴブリンを2匹ごと踏み付けて地面に固定する。

 続けて、右手に持つ剣を逆さに持ち替えて呻くゴブリンの胸元へ振り下ろす。

 少しだけ血が飛び跳ねたが、剣は少しの抵抗を感じさせただけでまとめて貫通し地面に達した。


 それでも、ゴブリンは僅かに動いていた。

 そのまま放置しても問題ないような虫の息だった。

 でも、これは実戦だ。何が起きるかわからないもの。

 念のために剣を右回りに捻る。

 ブチブチと血管、筋肉が切れる感触と「グギャッ」の一声。

 そして、ゴブリンは動かなくなった。



 自分達の担当分が済み、瞑想の人の方に目を向ける。

 ちょうど1匹目を倒して、2匹目と対峙してところだった。

 対峙しているゴブリンも既に片腕を切り落とされ、失血によって息があがっている。


「これならフォローはいらないか・・・なっ!?」


 戦闘の決着が見え、援護は必要ないだろうと判断したその時だった。

 息絶え地面に伏していたはずのゴブリンが立ち上がり、最後のゴブリンに気を取られている瞑想の人の背後から跳びかかった。

 瞑想の人もその気配に反応して、相手をしていたゴブリンに止めの突きを繰り出したままの姿勢から頭だけ振り返る。

 彼の目には、鉈を振りかぶって迫りくるゴブリンが映っているはずだが、既に対応するだけの余裕はなかった。

 彼の表情に絶望の色が差す。


ドォン!!


 一発の銃声が場に轟く―――――


 と同時に跳びかかった姿勢のままゴブリンの頭があさっての方向に弾かれた。

 慣性が零状態での強烈な横衝撃で身体は壊れた人形のように舞う。

 そして、そのまま空中に青い血の放物線を描きながら強張った表情でいる瞑想の人の隣を擦り抜けて転がった。


「ふぅー」


 息を吐き出す音が固まったその場の空気を和らげるように広がる。


 跳びかかるゴブリンに気付いた瞬間。

 右足のホルスターから愛銃の『イルリヒト』を抜き照準を合わせ引き金を引く。

 俺のほとんど無意識な動きだった。


 瞑想の人が油をさしていないブリキ人形の如く首を向けてくる。ギギギという音が聞こえてきそうな動きだ。


「君が・・・た、助かった」


「間に合って良かったです」


 銃をホルスターに仕舞いながら努めて冷静に答えた。


 昇格試験前の特訓。

 メインこそ剣術であったが、それだけをしていたわけではない。

 特訓の合い間や就寝前と起床後の剣の素振りに加えて、ホルスターから銃を抜き目標に標準を合わせて引き金を引くまでの動作をひたすら反復練習をしていたのだ。自然な動作として体に染み付けるように一回一回を丁寧に繰り返した。毎日、だいたい2000回ぐらいしていただろうか。

 その成果が今回、最高な形で発揮されたのだ。


 努力が報われたともいえるこの状況。

 本来ならば喜び叫んでいたかもしれない・・・射撃以外だったら。

 というのも俺の射撃には、とても重大な致命的不安要素を抱えているという事情があるからだ。そのおかげで、喜びよりも圧倒的安堵の感情の方が湧いてくる。


 では、その不安要素とは?


 それは、俺の貧乏が祟って弾丸の確保がままならず射撃練習は23発分しかできなかったというものだ。その時のスコアは距離約10mで命中率ギリギリ3割というところだった。自信を持って実戦に臨める成績ではない。ってか、下手したら瞑想の人に当たってたかもしれない。


 冷静を繕っている俺の内心は極めてヒヤヒヤしていた。ホント、アタッテヨカッタヨ。



「いや~危なかったですね、バトスさん。ゴブリンだから油断しましたか?彼らも立派な魔物の一種なんですよ。それに人型の魔物は知恵が働きます。罠を仕掛けたり、集団で連携したり、今回のように死んだふりをして相手の油断を誘うこともね。あのまま背中に一太刀もらっていたら重症でしたね――――――」


 へぇー、瞑想の人はバトスって名前なのか。


 齎される新情報に平凡な感想を持ちながら俺は自分の作業に没頭していた。

 情報の発生元は、戦闘を終えるなりすぐに開始された瞑想の人改めバトスさんに対するロデリックさんの説教である。

 放置されている俺とエルは、説教で徐々に小さくなっているバトスさんをずっと観察しているのも気が引けたので、二人を横目にゴブリンの討伐証明部位と一応、ゴブリンも魔物なので魔石の回収作業をしているのだ。

 ゴブリンの証明部位は、左耳。解体用のナイフで軟骨に沿って耳をそれぞれの死体から削ぎ落としていく。魔石は、心臓付近にあるので、こちらも胸を切り開いて取り出した。なかなかにグロい。そして、何より臭い。


 これで無事に終了かな、昇格試験。色々とあったな・・・今は臭いという思いしかないけど。


 俺はゴブリンの解体しながら試験が終わった…そんな感想に浸っていた。






 この後に訪れる苦境など知りもせずに…。 




お読み頂きありがとうございます。

一章本編もあと少し。

更新は土曜日の12:00頃になると思います。


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