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第16話 仲間

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「工業区って初めてだよな~来るのって」


 ここは二次試験の集合場所、工業区を抜けた先にある東門。


 工業区というくらいだから工場ばかりが建ち並ぶ環境に優しくない街並みを想像していたんだけど、商業区と大差ないような気がする。

 露店も店頭の店も普通にあって賑わいを見せている。ただ、店頭販売の店に工房が隣接して建てられているから店主は商人ではなく職人なんだろうけど。それに、武器店なら剣専門とか槍専門とかって具合に各分野で細かく分かれた専門店の割合が多い。こちらの地区で買い物する客層は、それぞれの分野の玄人な人達が多いのではなかろうか。


 この街に来てから随分時間が経ったけど、こうやって新しい発見があるのはいいな。なんか心躍るものを感じるし。


 うん、無駄じゃなかった。今日のゴブリン討伐が気になって寝不足気味に早く来過ぎたけど、工業区の観察をじっくりできたしね。まあ、集合時間3時間前ってのは後悔している。だって、ワクワクが止まらなかったんだもの・・・遠足前の小学生か!俺は… orz


 約1時間後、朝を知らせる鐘が鳴った。

 既に、昨日の顔ぶれが集合している。

 ロデリックさん、瞑想の人、自称天才魔術師エルの順に揃った。


「うん、皆さんちゃんといますね。それでは出発しますよ~」


 相変わらず笑顔なロデリックさんの号令で俺達は街の外へと歩き出す。

 ゴブリン討伐の目的地は、街の東門から出て街道を2、3時間進んだ所から脇に入った森の中だ。

 その周囲のゴブリンが街道まで出没すれば、街の物流に支障をきたすという危惧からの依頼らしい。


 この東門からの街道は、ボルドラの西側と北側が山を背にしている事情から帝都へ続く主流の交易路になっている。距離的には迂回する分、遠まわりになってしまうのだが、山越えで命のリスクを負うよりはと利用する者が圧倒的に多い。それに遠まわりといっても、交易路というだけあって道の整備は行き届いており山越えと比べても馬車ならば1、2日ぐらいのロスで済むのである。命と少しの手間、天秤にかければ前者に傾くのは言うまでもない。


 そんなわけで、色々と重要な街道においてゴブリン程度でも問題なってしまうってことだ。依頼主も冒険者ギルドとの表記だが、実質はボルドラ領主…街そのものからだ。


 ちなみにこのような交易路に関する事情は、他の都市でも似たものを抱えており、街道沿いのゴブリン討伐依頼は奴らの異常な繁殖力も相まってどこでも常に発行されてるとか。まあ、銅色ランクに昇格したばかりの冒険者の簡単な小遣い稼ぎって位置付けの依頼なのも同じだけどね。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 最初は、俺達も帝都との交易路という恩恵受けて整備された街道をサクサク進んでいた。

 そして、このまま目的地に直行しても問題ないようだったのだが・・・途中、魔女っ子が顔色を青くして息も絶え絶えにバテてしまった。そのまま置いていくわけにもいかないというロデリックさんの判断で休憩を挟むことに。まだ半分も歩いてない距離なんだけど…体力なさ過ぎだろ、この娘。


「う~ん…エルさんは、魔術の才能は素晴らしいのですが体力面に問題がありますね。このままだとこれから先、色々と大変ですよ。冒険者は体力あってなんぼのものですから」


 ロデリックさんが休憩中のエルに苦言を呈している。冒険者は、道なき森や荒野、山に洞窟などで活動する事が多い職業だしな。今日みたいな整備された街道を歩いてバテているなんて、苦言の一つや二つ言いたくもなるのは仕方ないだろう。

 そんな二人のやりとりを遠巻きに見ていたら、此方にチラリと視線を送るエルと目が合った。


「・・・大丈夫、問題ない。疲れたらユーマに負ぶってもらう」


 えっ?今なんと言いましたか、この魔女っ子は?!


「うん?エルさんは、ユーマさんとお知り合いなんですか?」


「ん。・・・試験が終わり次第、パーティーを組む予定」


「おや?そうなのですか。良いですね~二人とも期待の新人ですし――――」


 …そんな予定知らない。

 ってか昨日、初めて話したよね?しかも、二言だけ一方的に!


 戸惑う俺を他所に彼女とロデリックさんの会話は続いていた。

 既にパーティーを組んだ後のアドバイスまで貰っているようだ。


 休憩が終わり、再び歩き始めると俺はエルの隣に行って並ぶ。


「な?少しいいか。・・・いつの間に俺は、君とパーティー組むことになったんだ?」


 えっ!?何故にそんなに驚いた顔してんの??


「昨日。・・・エルでいいと言った」


 ???…確かに言われた。でも、それとパーティー組むという話とは繋がらないよね。俺の困惑に反応してか、言葉が続けられる。


「私は天才。ユーマも天才?・・・優秀。だから、パーティーを組む。・・・何か問題?」


 エルはコテンと頭を傾けながら心底不思議そうな顔をする。


 今ので説明は終わりらしい。

 えーっと、彼女との会話を俺の素晴らしい推理力で神解釈すると…つまりは、彼女の中で天才の自分と(彼女評価で)優秀な俺とがパーティーを組むのは当然なことなワケで、昨日の会話は彼女的にパーティーを組むことへの誘いだったワケか・・・いや、どんだけ口下手なんだよ!理解しろって方が無理だろ!!

 あと、自分の事を天才だと一度も思ったことないけれども、俺の所だけ言い直した事に地味に傷ついていますよー。


 俺が傷心したことは一旦置いとくとしても・・・


「何が問題って、君と「エルでいい」」


 じーっと見つめながら訂正された。

 譲れないことらしい。


「・・・エルとパーティーを組むなんて知らなかったし、昨日の会話がパーティーへのお誘いだったとしても俺は承諾してないよね?」


「黙認した」


「いや、あれは黙認してたんじゃない。いきなり話しかけられて驚いていたんだよ」


「っ!・・・?・・・!!」


 エルは、ずっと眠そうにしていた半目を一度、大きく開いて立ち止まる。

 すぐに俯いて歩き始めたが、その足どりはトボトボとしたものだった。


 もう10分ぐらいかな?彼女の歩幅に合わせながら横を歩いている。

 パーティーを組むことを拒否されるとは微塵にも思っていなかったらしくかなり動揺しているようだ。少し…いや、かなりの罪悪感を感じる。

 この状況をどうしようかなとか思案していると俺の服の肘を摘まんだエルが立ち止まり顔を上げる。 


「・・・私とじゃ、嫌?」


 意を決したような顔だった。

 今は、大きく開かれている目には涙が零れ落ちそうなほど溜まっている。また拒絶されることを怯えているような姿は、小柄な体形も相まってずっと幼くか弱く見えた。


 う゛っ!!こ、これは…


 想像してほしい。ある雨の日、学校から帰る途中で何処からか聞こえてくる鳴き声、声を辿っていくと雨に濡れて震えている子猫、縋るように君を見つめる瞳・・・振り切って無かった事にできるか?できないだろ??俺はできない!抱きしめるさ、保護するさ!!


 まあ、何が言いたいかっていうと拒否できない状況ってあるよ・・・な?


「わ、わかった。まあ、他にパーティーを組む予定もないし…承諾するよ」


 エルは袖でゴシゴシと顔をしてから小さな胸を張る。

 乱暴に擦った目元と鼻先がちょっと赤くなっていた。


「ん。・・・当然」


 強がっているようだが鼻声だ。

 そんな様子に俺は自然と頬が緩む。


「まだ試験は終わってないけど、これからよろしくな!」


 俺は右手を差し出しながらエルを見る。

 最初は意味がわからなかったのか、エルは俺の右手を不思議そうに見ていた。

 でも、すぐに理解して右手を握り返してくる。

 少しだけ頬が朱色になっていた。


「ん」


 元の眠そうな半目に戻っていたが、乏しい表情の中でどこか嬉しげだったのは気のせいじゃないだろう。


 そんなわけで、俺とエルは仲間パーティーになった。

 まだ予定だけど。


 考えてみれば魔術師とパーティーを組むのは、前衛後衛揃ってバランス的にも悪くない。結果、オーライで良かっ――――――


「ユーマ。・・・負ぶって」




 ・・・少し早まったかもしれない orz


お読み頂きありがとうございます。

次回からギルドランク昇格二次試験に突入!

更新は水曜日の19:00以降になると思います。


[余談]

 エルはヒロインその弐です。

 もちろん、その壱はシャルロッテさんです…ヒロイン?


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