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第15話 昇格試験②

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「君で最後ですね。準備はいいですか?」


「はい…大丈夫です」


 ギルドランク昇格試験一次、模擬戦。

 ついに俺の出番まで回ってきた。

 ゆっくりと剣を正眼に構え、試験官のロデリックさんと対峙する。


「それでは・・・試験開始!」


 開始の号令がかかる。

 しかし、互いに相手を静観し動かなかった。


 なぜか?


 ロデリックさんは様子見の態だろう。

 だが、俺は違う。

 正直、ビビっているからだ。・・・だって、この人はとっても手加減下手なんだよ!

 俺の前に5人の受験生が試験を受けた。結果、5人中3人が腕やら鎖骨やら肋骨を骨折している。しかも皆、不合格のおまけ付だった。


 でもまあ、このまま動かないってわけにはいかないか……色々考えるのは後回しに、全力で逝って玉砕する、かな。幸いに骨折ぐらいならすぐ治るし。


 俺とロデリックさんとの間に大きな技量の差があるのは、ここまでの模擬戦で十分理解した。明らかに格上の相手だといえる。


 ならば、どうする?

 俺はこの試験に向けて一ヶ月間、誰と修行していた?

 眼前にいる相手よりも…ずっとずっと格上の存在だ。

 帝国の……剣帝の名を持つ英雄が一人。


 そのまま思考を自分を鼓舞するものに移していく。


 だから、俺にとって格上と対峙する状況は及び腰になるものじゃない。

 普通だ。日常だった!慣れてんだよ!!

 だから、俺は知っている。わかっている。

 どうすればいいか、なんてな…


「すぅーふぅー…すぅー……」


 呼吸を深く繰り返えす。

 徐々に晴れる頭。

 既に開始直後の感情などない。

 深く深く、ただ深く沈めていく。

 考えるのは、目の前の敵を倒す(殺す)のに必要なことだけでいい。

 他は全て忘れろ、必要ない。


 集中…集中・・・

 自分の呼吸だけを…


 周囲の景色は徐々に朧げに…


「すぅー………」



 そして、空に融けた。


「ふっ!」


 肺一杯に溜め込んだ空気を一息に吐き出し、自ら斬り合いの間合いに飛び込む。

 相手は試験のつもりなら、最初は受けで様子見だよな。

 ならば、一太刀目は防御を考えない。

 捨て身の一撃。

 俺の全力を込める!…覚悟のない構えなど弾き飛ばしてやる!!


「らぁっ!」


 一切の躊躇も残さず横に薙ぐ。

 相手は剣で迎え撃ってくる。


 訓練場に鈍く金属の悲鳴が鳴り響く。


「なっ!?」


 よし!狙い通り構えを抉じ開けた。得物を弾き飛ばすまではいたらないが、大きく仰け反らしている。

 相手はバックステップで間合いを空けようとしているが…許さない!

 ここでもう一歩踏み込め。

 ここが勝負時だ!ペースを握り一気に喰らい付き、喰い千切ってやる!!


「ざぁああ!!」


 振りきったままの刃を目標に向け立てる。

 右半身をさらに後ろへ引き絞る。

 腰を低く溜め、下半身のバネに圧をかけていき…上半身の回転運動と同時に解放する。

 撃ち出すは、牙突の一撃だ!


 相手の顔が驚愕に染まる…


 が、そのまま受け入れるほど甘くなかった。


 飛び退き様の不安定な態勢にもかかわらず半身を無理やり滑らせて、対面積を減らすように突きに反応してきた。


「ぐぅっ!」

「ぐはっ!?」


 鋭い風切り音、硬い物が弾け飛ぶ音、鈍く肉を打つ音が三奏に重なった。


 何…だ、何が起こった??

 俺は…地面に・・・倒れているのか!?ヤバい!


 俺は飛び起き、状況確認に努める。


 相手はどこだ?

 

カランッ


 訓練場の石床を乾いた音が打つ。


 音のした方に目を走らせる。

 ライトメイルの肩あて部分が一つ床に転がっていた。

 そして、その持ち主は十分に距離をとった所で、左肩を抑えながら立ちあがっている最中だった。

 

「いや~今のは、本当に危なかったですね。反撃しなければやられるところでしたよ。っ痛ぅ…」


 どうやら俺は反撃をくらって床に転がされたらしい。

 あの状況で、俺の突きに対処するだけでなくカウンター…おそらく蹴りだろうが、反撃までされるなんて・・・クソっ!これで仕切り直しだ。


 俺はペースを握ることに失敗してしまった。これはかなり不味い!

 格上との戦いにおいて、先手でペースを握ることは重要…いや、すべてだ。

 相手を初撃で困惑させ、間をつかせず、流れと勢いで圧倒し、短期で勝負を決する。

 それでしか勝機はない。少なくともボリスさんとの特訓で、そう学んだ。


「う~ん…これほどの実力なら文句なしの合格を与えてもいいんでしょうが……やられっ放しって言うのも癪なんで、もう少し付き合って下さい」


 ご、合格ならもういいじゃん!何で続行すんだよ!!


 抗議しようと口を開くより先に、ロデリックさんの笑顔がこれまでにない底冷えするような威圧感を帯びる。


「では、いきま「お゛ぉぉっ!」!?」


 攻めさせちゃダメだ!あくまでもこっちがペースを握る…じゃないと瞬殺されちまう!!


 俺は言葉途中で奇襲をかける。

 身体を前傾姿勢で踏込み、一気に間合いを詰める。

 跳びかかるように放った全力の逆袈裟斬りだったが、片手剣で防がれた。

 今度は相手も油断のない構えで、弾き飛ばすことも叶わなかい。

 俺は一撃を防がれたことに構わず、そのまま振りきる。

 息も吐かずに続いて、踏み込んだ左足を軸にし身体を回転させ横に斬り払う。

 しかし、既に相手は間合いにはいなかった。


 バックステップ・・・ヤバッ!!


 剣を振りきったと同時のタイミングで相手が間合いを瞬時に詰めてくる。瞑想の人を仕留めたパターンと同じだ。

 俺は振りきった剣の自重と遠心力も利用して咄嗟に横へ転がるようにして避ける。

 空気を裂く音が耳を掠める。

 態勢を立て直す前に追撃の突きが襲ってくるが、それをなんとか剣で軌道をずらし避ける。

 立ち上がり際に距離をとることも考える、が…ここは、あえて相手の懐側へ突っ込む。


「うぉおおお!!」


 おもいっきり肩から体当たりするが、感触が軽い。

 体当たりと逆方向に飛んで衝撃を殺されたようだ。

 それでもなんとかピンチを凌ぎ切った。


 でも、ここからだ。一息入れる暇なんてない。

 また、先手を採らなければペースを握られてしまう。

 相手が着地して構えをとる前に、跳躍して上段から斬り落とす!


 だが、これは読まれていた。

 何度も奇襲を仕掛けたのが災いして、難なく受け止められ鍔り合いに持ち込まれた。


 ガチガチと金属同士が噛み合う。


 ぐぅ~奇襲はもう効かないか…でも、純粋な力と力の比べ合いならまだこっちに歩がある!


 未だに自分の能力を扱いきれない俺だが、それは筋力を技量が大きく下回っているからであって、単純な力比べの状況なら技量など関係なく筋力をフルで発揮できる。


 俺は一気にそのまま押し潰そうと力を込めた。

 だが、それがいけなかった。

 相手はそのタイミングを狙ったように脱力して剣を引いたのだ。

 それにより支えを失った俺は面白いように床に転がされた。

 すぐに挽回しようと起き上がるが、相手はそれを見逃すはずがない。

 気付いた時にはロデリックさんの剣先が俺の首に突き付けられ、どうしようもない状態だった。


「ハァー、ハァー…参りました」


 息切れする中、俺は敗北を宣言する。


「ふぅー、なかなか楽しめました。あ、もちろん合格ですよ~」


 ロデリックさんは元通りの笑顔で俺を起き上らせてくれる。

 心なしかツヤツヤしているのが気になった。


「さてと、合格と言われた人は集まってください。それ以外の方は・・・皆さん、もういませんね。それじゃ、最初の控室まで移動します」


 結局、一次試験を突破したのは俺を含めて瞑想の人と受験生でただ一人の女の子の三人だけだった。


 瞑想の人は20代後半?、茶色の瞳に金髪バンダナ巻き、レザーアーマーを装備した大柄な体格に寡黙な感じも相まって少し近寄りがたい。

 女の子の方は少し青色の銀髪ショートボブ、翠瞳で常に眠そうな半眼であり、ぶかぶかローブと小柄な体格なせいで10代前半に見えるが…ギルドの年齢制限もあるので多分、同い年だろう。


 ああ、あと残りの不合格だった人達はロデリックさんのお茶目が原因で全員医務室送りになっている。

 後日カリナさんに聞いた話だが、他の試験官の時には、こんなに負傷者が出ることはないらしい。ロデリックさんが試験官の時だけなのだそうだ。彼自体は、優秀で真面目な人物であるので悪意はないとのこと。ただ、唯一の欠点としてバトルジャンキーな一面を持っており、試験の模擬戦中に楽しくなってつい手加減を謝るのだとか・・・そんな人に試験官させるなよ。

 まあ、どうあるがにせよ俺には、運悪く?不合格になってしまった彼らのこれからに幸あらんことを願うしかできない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「まずは一次試験突破、おめでとうございます。近年、稀に見る優秀な方ばかりで個人的にもこれからが楽しみです」


 う゛っ、こっち向いてウィンクしなくていいよ。


「さて、次の二次試験ですが、全員で実際に銅色ランクの依頼を受けてもらいます。一次試験に合格した皆さんなら十分に依頼達成可能でしょう。一応、試験官として私も同行しますが基本的に見守るだけの形になります」


 えっと、お試しで依頼を体験させるって感じかな。初めての銅色ランク依頼を複数人で受けれるのは心強いな、ボッチの俺としては。・・・別に悲しくなんかないんだからね、目に少しゴミが入っただけだし!!


「今回、受けてもらう依頼ですが・・・【ゴブリン討伐】になります。銅色ランクにおいて最も基本的な討伐依頼ですね。基本だからといって油断しないよう気を付けてください。それでは色々準備もあると思いますので、今日はもう解散します。明日は、朝の鐘までに東門へ集合してください。遅刻したらおいて行きますからご注意を~」


 ロデリックさんの話が終わると各々行動を始める。

 瞑想の人は依頼書の写しを貰うとそのまま部屋から出ていき、女の子は・・・こちらをチラチラ見ている。まさか俺に気があるのとかだったりして、いや~まいったね。

 そんな戯れ言を妄想していたら、彼女が席を立ってこちらに近づいてきた。

 彼女は俺の前に立つとじーっと見つめてくる。

 じーっと…ただ、じーっと……えっと、なんか気まずいんですけど。

 無言で見つめられる苦行に耐えきれなくなってきて、そろそろ話しかけようかなと思案していると彼女の方が先に口を開いてきた。 


「あなたは優秀・・・」


 ほえ?


「私は天才魔術師エル・フリッセル。・・・エルでいい」


 いきなりそれだけを告げ、困惑する俺をそのままにクルッと踵を返して部屋から出て行ってしまった。


 何だったんだ?今のは??


 まあ、天才かどうか別にして彼女が優れた魔術師なのは間違いない。

 どうしてか?それは、ロデリックさんとの模擬戦で氷結魔法を披露したからだ。


 魔法の属性には、基本四属性と上位四属性の八つの属性が存在する。基本属性は火・水・土・風、上位属性は基本属性からそれぞれ派生して爆・氷・金・雷となる。そして、上位属性は基本属性を極めた者にしか発現せず、扱える者は稀である。具体的には、職業魔術師でも100人に1人ぐらいしかいない。そのような背景があるため、上位属性持ちの魔術師は例外なく優れていると判断される。それがこの世界の常識だ。


 余談だが『無』という属性も存在する。しかし、これは八属性に振り分けられない効果の魔法に対して便宜上使われているといえる。シャルロッテさんが言うには、本来『無』属性とは光・闇・時・空の四属性魔法の総称であったが使い手がほとんどいないので研究が進まず、いつの間にか実質よくわからないその他扱いになってしまったらしい。


 それはともかく、ロデリックさんも氷結魔法を確認後、すぐに彼女へ合格を言い渡していた。希少な上位属性持ちの魔術師で、しかも未来ある新人冒険者ともなればギルドとしても優遇したいのだろう。


 気付いてみれば、教室に残るのは俺だけ…とロデリックさんだけだ。いつまでもこのまま戦闘狂バトルジャンキーと二人っきりというのも精神衛生上良くないので、依頼の写しを貰ってからすぐに帰ることにした。

 残念そうに俺の背中を見つめる気配をビンビンと感じたが…気のせいだと思うことにした。きっと疲れてるんだよ、オレ。


 ギルドから帰り道で、暇潰しがてら依頼の写しを確認してみる。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


【討伐依頼】

依頼者:冒険者ギルド

内容:東の森のゴブリン討伐(5匹以上)

期限:―

報酬:成功報酬銀貨3枚・一匹に付き銅貨50枚

参考:4~5匹の集団で行動している

注意点:ゴブリンの上位種がいる場合もあります


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「おおー、なんだかんだでゴブリン見るの初めてなんだよな。ファンタジーの定番か…ヤバい!オラ、ちょっとワクワクしてきたぞ!!」


 逸る気持ちを抑えながら帰り着くとそこには朝の顔ぶれが揃っていた。

 今朝の俺の様子を見て色々心配してくれていたらしい。なんか恥ずかしいやら有難いやらで少し温かい気持ちになった。

 試験結果を伝えると親父さんがお祝い件、明日へ向けての鋭気を養うとか言ってご馳走を振舞ってくれた。親父さんも女将さんもシェリルもボリスさんも…そのまま5人で楽しい食卓を囲んだ。


 まだまだ賑やかな感じだったが、俺は明日の二次試験があるので食事を終えたら先にお暇させてもらう。


 食堂から離れに向かう途中で、ふと空を見上げる。

 すっかり陽が落ち、満開の星空になっていた。

 食堂からは意気の合ったボリスさんと親父さんの笑い声が聞こえてくる。

 

 俺は一度だけその喧騒に振返って、空の星に明日の健闘を祈り寝床へ向かった。




 

お読み頂きありがとうございます。

次回、更新は月曜日の20:00頃になると思います。


あと、タイトル変えようか熟考中…

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