第14話 昇格試験①
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「おいおい、もう緊張してんのか?」
「い、いや、緊張な゛んてしてま゛せんよっ!」
あっ!声が裏返ってしまった。ボリスさんが急に変なこと言うからっ!!
『クマさん食堂』の前には、親父さん、女将さん、シェリル、ボリスさんの四人と俺が集まっていた。本日の昇格試験の見送りだ。
「がははは!もし落ちても店で雇ってやるから安心しな!」
「ち、ちょっと!お父さん、失礼だよ。ごめんね、ユーマ」
この親父、デリカシーのデの文字さえ持っていないのか。ぷっ!女将さんに後ろから殴られてやんの、ザマァwwwwww
「ホント、この人は!ユーマ君、頑張ってらっしゃいね」
「ありがとうございます」
「リラックスして臨めよ。この一ヶ月、オレがみっちり鍛えたんだから安心しろ」
「はい。わかってますよ、ボリスさん。・・・それじゃ、皆さん行ってきます」
「「「「いって(こい!)らっしゃい~」」」」
俺は四人の激励を背中に受けながら、ギルドに歩き出した。
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冒険者ギルドにやってくると昇格試験担当の名札を付けたギルド係員に誘導されて、銅色昇格試験控室と書かれた一室に通される。
部屋の中は、テーブルと椅子、一番前には黒板?があるだけで、学校の教室みたいな印象だった。
既に男性5人と女性1人が席に着いている。瞑想したり、得物を手入れしたりとそれぞれ緊張を紛らわせているようだった。・・・一番前の席で本を読みながら時間を潰している人は余裕そうだけど。
俺もあいている席に座り、この一ヶ月で学んだ事を頭の中で反芻して過ごすことにする。
約30分後、試験の開始時間を知らせる鐘の音が鳴った。
結局、他に来る者はいなかった。俺を含めてここに居る7人が、今回の昇格試験の挑戦メンバーらしい。
「時間ですね。さて、私の名前はロデリックと言います。今回、昇格試験の試験官を務めさせてもらいます。よろしくお願いしますね」
本を読んでいた一番前の人が急に立ち上がり、柔和な笑顔で挨拶をしてきた。彼は受験生でなく試験官だったのか、通りで随分余裕そうにしていたわけだ。
「試験は現在ここに居る6人で行われます。まずは、皆さんに確認しなければならないことがありますんで、ちゃんと聞いてくださいね」
彼は皆を見まわした後に、一度かけている丸ぶち眼鏡をクイッとしてから語り始める。声のトーンが一つ下がり、光の反射で彼の目線は窺い知れない。
「銅色ランクは、対外的にも一人前の冒険者と認められた者を示します。それはまた、本格的な討伐依頼や遺跡探索など命懸けの困難な依頼を受ける資格を得るということです。帝国国内だけでも毎年約500人の銅色冒険者が誕生します。・・・しかし、一年後にはその中の100人程度しか冒険者を続けている者はいません。それでは残りの400人はどうなったのか…依頼の途中で大ケガを負ってしまい辞める者、自らの限界を知り道を変える者……そして、何より多いのが夢半ばで死んでしまう者です」
ロデリックさんは言葉を止め、俺達の反応を確かめるように見つめた。
「青色ランクは、冒険者になるまでの準備期間ですから滅多なことで死ぬことはありません。青色と銅色とでは、限りなく別格なモノであることを理解してください。そして、未だ自分に資格がないと思われる方は、今すぐに部屋を出て行ってください」
部屋に重い沈黙が下りる。
受験生は試験官から突き付けられた現実を真剣に各々で咀嚼しているようだった。
俺もまたロデリックさんの言葉を呑み込み、覚悟を深めていく。
「うん!皆さん、理解したうえで来ているようですね。色々と厳しいことを言ったかもしれませんが…まあ、先達者からの激励だとでも思ってください。先輩冒険者さん達も皆、通った道ですから悪しからず。それでは、試験場に移動するので遅れずに付いて来てくださいね」
次に喋りだした時、ロデリックさんは柔和な笑顔に戻っていた。
どうやら先の激励?は、冒険者として一人前になる者への恒例行事みたいなものなのだろう。
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ギルドの裏って、訓練所になってたのか・・・初めて知った。
俺を含む受験生6人はロデリックさんの先導でギルド裏の訓練所まで連れてこられていた。
ギルド側を除いた三方を約3mの石壁で囲まれ、一辺が約50mぐらいで正方形型の敷地になっている。
奥には、訓練に使われるだろう的や木人形などが設置されていた。
「えーでは、さっそく試験を開始したいと思います。一次試験は模擬戦です。試験には、そこにある訓練用の武器から好みの物を選択して使ってください。一応、メジャーな種類の武器は揃えてあると思います。あとは何かあったかな・・・ああっそうだ!全ての武器の刃は潰してあるので、死にませんし…ちょっと骨折するくらいで済みますので安心してください」
説明の最後にものすっごい笑顔で物騒なことをサラリと言ったよ、この人。
「それじゃ~右端の彼から順に始めましょうか。準備が整い次第、模擬戦を開始しますよ」
最初に試験を受けるよう指示されたのは、控室で瞑想していた人だった。
俺は受験生の中で一番左端にいたので、試験を受けるのは最後となる。
「準備できました」
「では、構えてください。・・・試験開始!!」
瞑想の人は短槍が得物だ。構えも様になっている。
対するロデリックさんは片手剣を構え、柔和な笑顔で…違うな。笑顔は笑顔なのだが、どこか氷のような雰囲気を発している。
場を支配する空気が徐々に重みを増し、張り詰めてくる。
ロデリックさんの発する雰囲気…いや、圧に耐えれなくなったのか、瞑想の人から仕掛けた。
「いぁあああああああああああっ!」
相手の額を貫かんと必中の突きが繰り出される…
が、その刃は届くことなく余裕を持って受け流された。
甲高い音が訓練所に響く。
流された刃は戻されることなく右手を支点に回転させられ、石突が横に薙がれた。
しかし、これも身体を反らしただけで避けられている。
空気を裂く音。
瞑想の人は、相手が体勢も戻さない間に、さらに踏み込んだ。
中空を漂う石突をそのままに今度は刃を下方から捲るように切り上げる!
甲高い音。
「ふむ。今のは良い攻撃でしたよ、やりますね~」
ロデリックさんは間合いを詰められるや否や、回避を捨て、切り上げ体勢に入った槍先が速度を増す前に片手剣で受け止めていた。
「では、防御はどうでしょう?」
言葉を告げ終わると同時に、ロデリックさんは槍を払い、構えを崩された瞑想の人を蹴り飛ばす。
瞑想の人は間合いを開けられながらも態勢を整えようとするが…そこへ、低い姿勢でロデリックさんが迫る。
横!縦!斜!蹴!
容赦のない攻めが瞑想の人を襲った。
彼は必死に防ぐことだけに集中して何とか喰い下がっている状態だ。
縦!突!拳!斜!
このままでは押しつぶされるな。
蹴!横!突!突!突!突!?
連続して繰り出された突きの後に、ほんの一瞬だけ勢いが弱まった。
それを好機と瞑想の人が槍をおもいっきり横に薙ぎ払う!
当てるのが目的でないのは明らかな大振り。仕切り直す為の牽制だろう。
狙いは理解できるが…今回は悪手だ。
彼のその目的は叶わなかった。
ロデリックさんは牽制狙いの横薙ぎをバックステップで避けた瞬間に間合いを殺して、流れるような足払いから首に剣を突き付けていた。
「うっ!?・・・参りました」
瞑想の人の敗北宣言により試験が終了する。
ロデリックさんは剣を引き、敗者を起き上らせている。顔は元の柔和な笑顔に戻っていた。
す、凄いなこの人…最後の動きなんか反応できるだろうか。
「合格です。この後、二次試験の説明もありますので全員の試験が終了するまで休んでおいてください。では、次の人~」
えっ合格?・・・あ~そうか、別にロデリックさんに勝つことが合格条件じゃないのか。
あまりにも緊張した場の空気で、自然と勝たなくちゃいけないとばかり思わされていたみたいだ。そうだった、ボリスさんもゴブリンを殺せるぐらいの戦闘能力があればいいって言ってたしな・・・そう考えたら気が楽になってきたな、うん!
お、次の試験が始まる。さて、気楽に観戦でもするかな~。
ガキィィン! ザンッ!?
「ぐあっ!」
「ふふふっ」
シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!
「うわぁぁあああ」
「おやおや、どうしました?手元がお留守ですよ~」
ドゴッ! ゴギュッ!!
「ぅぎぃ!!」
「あっ!……すいません、力加減を間違えました。少し待ってて下さい、担架さ~ん」
・・・前言撤回、気が重くなってきた orz
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次回、更新は土曜日のだいたい17:10頃です。