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第11話 依頼①

子供の頃、平気でも大人になったら虫って触れないよね~不思議。




「う~ん…米が食べたい、味噌汁飲みたい、醤油が欲しいぃぃ~」


 俺は泊まっている宿の朝食を前に故郷の味を恋しんでいた。

 昨日の反省を活かして、依頼は既に冒険者ギルドで受けて来ている。一度した失敗を繰り返さない!俺はそんな男だ…寝坊しかけたけど。


「ハァー、元の世界と味覚が一緒なのは良かったけど…こう洋食ばっかなのはな~。俺って元々和食派だし、お米信者だし」


「おいおい、どうした?朝から暗い顔して」


 俺に声をかけてきたのは、今しがた帰って来たらしいボリスさんだった。


「おはようございます。一日ぶりですね、ボリスさん」


「ああ、おはよう。一日ぶりか…まったくだ!こっちは本当に街に寄っただけなのにな、変に勘ぐりおってからに」


 ボリスさんは不機嫌なオーラ全開だった。それも仕方ないことだと思う。この街に来た初日、宿屋に領主の使者の人が突然押しかけて来てはそのまま連れてってしまったのだから。


「結局、領主さんの用は何だったんですか?」


「うん?用はなかったんだがな、どうやら帝都から査察に来たと思われたらしい。俺がそんな面倒くさい事するわけがないのにな。で、そのまま色々と接待を受けさせられて、ついさっき解放されたというわけだ」


 帝都からの査察官と間違われるって、ボリスさんは結構な偉い人??まー英雄の部下だった人だし、ありえるかな。


「それで初仕事はどうだったんだ?」


「なんとかなりましたよ。元の世界でも経験がある依頼内容を選びましたしね」


 そのまま、昨日の一日のことを雑談しながら朝食を食べる。


「ほほう。ユーマの料理の腕は知っていたが本職並とはな~」


「セバスさんにも指導してもらいましたしね。唯一自信があることですよ…あまり冒険者には必要ないスキルかもしれませんがね」


 少しだけ得意気に食後のお茶を啜る。


「そんなことはないぞ。何日も野営が続く中で飯が不味いと気が滅入って仕事にならんからな。それにだ、携帯食料は飯と認められないほどの味なのは知ってるだろ」


 俺も野営中ずっと携帯食料は勘弁願いたい。昨日、道具屋で買った冒険者セットの中にあったので少し齧ってみたが、粘土のような食感で苦みの中に甘みが広がる未知の味だった。さらには、漢方のような臭いがずっと口の中に残る有様だ。・・・真剣に餓死か食うか迷って、死を選ぶレベルじゃないだろうか。


「それで、今日はどうするんだ?」


「えっと、採取の依頼を受けてたんで街の外まで行ってきます。ついでに常時依頼にあったキャタピラの駆除もしてこようかと思ってます」


「ああ、あのバカデカイ芋虫か。ほっとくとすぐに数を増やして森ごと喰い尽すからな~」


「そんなに大きいんですか?」


「1mくらいあるんじゃないか。でもまあ、ユーマの実力なら心配ないな」


 そうなんですか、1mの芋虫なんですか・・・キショいな。


「んじゃ、俺はもう寝るよ。領主んトコのベットが合わなくて寝不足気味なんだわ。ま、頑張って来い若人よ」


 そう言うと席を立ち、ボルスさんは背中越しに手を振りながら二階の自分の部屋へ登って行く。

 一人残された俺は少しだけ心を折れそうになるも何とか奮い立たせ宿を出た。そして、依頼をこなすべく南門を目指す。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 街を出る時に門番の人に呼び止められたが、ギルドカードを見せたら一瞬の間の後に通してくれた。どうせ、また子供だと勘違いされたんだろう・・・悔しくなんかないんだからね!…ってキモいな俺。


 適当な考え事をしながら(今回も担当)カリナさんに教えてもらった通りに南西の草原と森の境界を目指して一時間ほど歩く。道中は魔物に遭遇することもなく、平和そのものだった。最低ランクの採取依頼だし当たり前かな。

 俺は目的地に着いたので、探索する前に受けた依頼内容を確認の意味で思い出す。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


【薬草採取】

依頼者:ボルドラ治療院

内容:ヒモギ草5株以上の採取

報酬:一株に付き銅貨30枚

参考:状態によっては報酬額に色をつけます。

注意点:根の部位は傷つけずそのままにしておくこと!


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「根っこは残す事となるべく丁寧に採取する事に気を付ければいいな。じゃあ、探すか!」


 カリナさんの話では、ヒモギ草は森と草原の境界で日当たりの良い場所に群生しているとのこと。ヒモギ草自体は知っている。なんせ薬草学の初歩で作成する傷薬の材料だからな。元の世界のヨモギに似た葉っぱで葉脈が赤いってのが特徴だ。


 俺は境界に沿って探索することに決めた。

 約一時間ぐらい経過したところで、8株ほど群生している場所を発見した。傷付けないよう細心の注意を払いながら根と本体の境をナイフで切り離す。採取したヒモギ草は紐で縛ってまとめておいた。


「一つの群生を見つけただけで依頼完了してしまったわけだけど…もう少し、採取していこうかな。思ったより苦労しないみたいだし」


 その後、さらに二時間程かけて三つの群生を発見したのだが7株しか採取できなかった。一つの群生は2~3株が普通で、最初に見つけたヒモギ草の群生は当たりだったらしい。でも、これで合計15株採取できたから依頼三回分の量にはなっているので十分だろう。


 時間は、太陽が頂点をやや過ぎたぐらいなのでお昼時ぐらいだろう。

 薬草採取を切り上げて休憩を取ることにする。ついでに、昼食にするか…だが、持っている食べ物といえば携帯食料しかないわけで・・・うん!水だけで我慢しよう。



「さて、後はデカ芋虫退治なんだけど・・・とりあえず見るだけで無理そうなら止めよう」


 ボリスさん曰く俺の実力なら問題ないらしいが、ゾワッとくるものは避けられないだろうな。

 俺は覚悟を決めて森に入る。

 森は緑生茂る豊かな場所で、吸い込む空気には微かな湿気と土の匂いがした。まだそれ程に時間は経っていないけど、シャルロッテさん家で過ごした日々を懐かしく思い起こしてくる。次々と浮かぶ血と汗と泥に塗れた日々…少しだけ涙が零れた。


 懐旧の果てに哀愁を背に漂わしたそんな時だった。

 何かが落ちる音が背後からして、俺は現実に引き戻される。


「ピギィィィィ!!」


 振りかえって一瞬の思考が停止。

 そこにいたのは芋虫というかカブトムシの幼虫を巨大化させたモノだった。

 全体的に乳白色で若干透き通っており部分的に青みがかっている。


 デカッ!なんていうか、デカッ!そして、キショい!!


 俺の言葉にならない罵詈雑言の叫びに反応してか、芋虫は半透明の身体をギュッと縮めたと思ったら跳躍してボディアタックを仕掛けてくる。


「っ!」


 あまりに奇想天外な動きだったため、一呼吸動き出すのが遅れる…が、なんとか回避できた。

 ボディアタックを避けられた芋虫はそのままの勢いで木に激突する。ビターン!と思いっきり腹側を打ちつけて、少し口から緑色の血?を流していた。しかし、この芋虫まだヤル気らしく上半身を持ち上げて威嚇してくる。


 いや、アホ過ぎだろ!?自滅してんのに「なかなかヤルぜ、こいつ!」みたいな雰囲気出すなよ!


「プギィ!プギィィ!」


 さらに、上半身を左右に揺らして挑発まで始めてきた。まるで「かかってこいや!どうしたびびってんのか?」と言っているような…確実にそう伝わってくる。凄まじいボディランゲージ力と表現力だ。

 そして、また最初と同じ様にボディアタックの態勢に入って―――――今度は半捻りを加えながら飛んでくる。


「プギィィィィィ!!」

 

 が、俺はそれを余裕を持って避ける。

 芋虫は同じく自滅していた。いや、捻りを入れた分ダメージが大きかったようでピクピクしている。

 とりあえず、そこへ容赦ない追撃の蹴りを喰らわせる。


グニョッ! ブチッブチッ!?


 何とも言えない独特の感触が足を伝ってきた。

 芋虫は俺の蹴りで4~5m先に転がる。

 太い神経や筋肉を断絶した感触、確実に致命傷だ。

 

 もう動くことはないはず・・・っ!?


 しかし、芋虫はそんな俺の予想を裏切った。

 震える身体で、俺の方に頭を上げ「良い戦いだったぜ…ぐふっ!」とした(吐血演出付き)演技を入れたのだ。

 その後は、満足したような死に顔の芋虫と俺が残された。

 芋虫の亡骸は力及ばず破れ去った歴戦の勇士を想起させる佇まいで、森を吹き抜ける風までもが計算されたかのようにドラマチックな雰囲気を醸し出していた。


 俺は自分の中に燻ぶる感情に戸惑いながらも討伐証明部位である尻尾先の爪をナイフで回収する。


「・・・・・・・」


 その後も無心・無表情で芋虫狩りを続けた。

 芋虫は最初の個体と行動パターン(ボディアタック~自滅まで)がほぼ同じで、結果10匹を討伐できた。

 時間的に今から森を出れば夕暮れ前には街に着く感じだったので、帰ることにする。


 来た道を辿りながら森を出て、徒歩約10分ぐらい離れた時だった。


 ・・・終に、俺の魂の叫びが爆発する。


「あいつら(芋虫)一体なんなんだぁぁああああああ!!」


 俺の叫びは風に乗り、どこまでも、どこまでも響いて逝った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 予定通り陽が沈む少し前に街に戻れた。

 門番の人が帰り道に変わったことがなかったか尋ねてきたので、理由を聞くと街の近くで腹に響くような雄叫びが報告されたらしい。「そうなんですか?気づきませんでしたよ」と答えておいた。


 ギルドに着くとカリナさんがいたので、彼女のカウンターに向かう。


「あら今、帰って来たの?お帰りなさい、ユーマ君」


「ただいま戻りました。それで、依頼の処理をお願いします」


「わかったわ。依頼品と証明部位、ついでにギルドカードも提出してもらえるかしら」


「はい、どうぞ」


 俺は依頼のヒモギ草が入った袋と芋虫駆除の証明部位が入った袋をドサッとカウンターに乗せ、自分のギルドカードも提出する。


「これはまた大漁ね。えっと…こっちがヒモギ草で、こっちがキャタピラね。少し待っててね~ヒモギ草の状態確認があるから」


 俺が頷くとカリナさんはヒモギ草の分別を始めた。へぇ~状態確認ってカリナさんがするんだ…ギルド職員って万能?


「うん!いいわね~どれも丁寧に採取してあるわ。これなら報酬に少し色を付くわよ。」


「良かったです。かなり気を遣いましたから」


「ふふふ。報酬内容の確認をするわね。まず【薬草採取】の方から、ヒモギ草15株内10株が1株銅貨33枚で残り5株が1株銅貨32枚で合計4900ゼルよ。次に常時依頼の【キャタピラ駆除】だけど、10匹分だから1匹付銅貨20枚で合計2000ゼルね。これが報酬よ、どうぞ」


 俺は渡された小袋開けて報酬を確認する。銀貨6枚、銅貨10…50…90枚。うん、確かにあるな!


「もう少しでカードの書き込みも終わるから待ってね」


 カリナさんは俺のギルドカードを掌大の水晶に差し込んでなにやら作業をしていた。しばらくしてから水晶の色が赤から青に変わるとギルドカードを抜き、差し出してくる。


「はい、どうぞ。今回の依頼達成でランクアップしたわよ~」


 え?ランクアップ!?受け取った自分のギルドカードを見ると銅色の線が一本だったのが三本になっていた。


「あれ?俺、まだそんなに依頼こなしてないんですけど…もうランク上がるんですか?」


「【薬草採取】で依頼達成と認められる量の三倍、しかも追加報酬が認められる丁寧な採取だったでしょ。そんな時は、三回依頼達成したのと同じだけギルド貢献度が認められるのよ。それに常時依頼の討伐系、今回は【キャタピラ駆除】だけど、報酬が低い代わりに青色ランクの時だけに認められる特別ボーナスってのがあってね。一匹討伐するごとに一つの依頼を達成したのと同等に見なすのよ。その結果、ユーマ君は青色ランクの依頼を14回達成していることになるの。良かったわね~あと一つ依頼を達成すればランク色昇格試験の受験資格が貰えるわよ!」


「な、なるほど。でも、早すぎませんか?」


「冒険者ギルドが実力者にいつまでも雑用させるわけないでしょ。あくまで冒険者のギルドなんだから~仕事斡旋ギルドじゃないのよ」


 そうだよな、冒険者なんだから冒険しろって話だよな…明らかに雑用系の依頼だけみれば、ハローワークと変わらないしな~うん!納得だわ。


「安心しなさい。ユーマ君の登録した私だから言えることなんだけど、君のステータスなら銅色ランクになっても問題なくやっていけるわ。平均D-の新人冒険者なんて10年に1人が良いとこなんだから!もっと自信を持ちなさい」


 俺が返事をせずに黙っていたのを心配したのか、カリナさんは励ましてくれた。


「そうですね。なるべく自信を持てるよう頑張ります。」


 それからしばらく雑談をしていたが、依頼から帰って来た冒険者の数が増えてきたので会話を切り上げ、冒険者ギルドを後にした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「カクカクシカジカって感じだったんですけど、芋虫ってアレが普通なんですか?」


 今、俺はボリスさんと宿の夕食を一緒に食べながら森での芋虫の奇行について話している。


「そういえば、あの森の芋虫共は変わっているんだったか」


「あの森?ってことは他は違うんですか?」


「まーそうだな。それに芋虫だけでなく、あの森の魔物も全部そんな感じだな」


「え゛っ!?全部ですか!なんで?」


「ゴブリンなんかはもっと判り易くて面白いぞ~ハードボイルド気取りな感じで」


 おいおい、森の魔物全部がっ!!ってかハードボイルド風味のゴブリンって…ナニ、ソレ!?


「本当のところはどうか知らんがな。50年ぐらい前、実験好きで凄腕な謎の魔術師が森の中で精神干渉魔術の大規模実験をしたらしいんだが…その制御に失敗して術を暴走させちまった影響なんだとよ。それが今日まで続いているって話だ」


 もし、魔術暴走の範囲が街まで及んでいたら…ボルドラは間違いなく変人の街として帝国に名を馳せていただろうな。人にまで影響があるのかはわからないけど。

 それにしても、なんて迷惑な魔術師がいたものだな。まるでシャルロッテさ・・・実験好き、凄腕の魔術師、人の迷惑を考えない行動・・・・・・当てはまるな。まさかな~そんなわけ…ないよな?


「あの~その魔術師って…まさか、シャルロッテさんではないですよね?はははっ」


 しばらくの間、俺の言葉を聞いたボリスさんは固まっていた。そして、徐々に顔色が蒼白になっていく。その内、「た、大佐なら有り得る。なぜ、気付かなかった―――――」などとブツブツ呟きながら席を立って、そのまま宿から出て行ってしまった。


 一人残された俺は今日の事を(もっと言えば今の事を)なかったことしようと決め、自分の部屋へ戻ってすぐに寝た。寝ればたいていのことは忘れるのですよ、人間は。












 後日、シャルロッテさんから「あれは失敗じゃないわよ~もうっ!それに精神干渉魔術の実験じゃなくって、戦略級精神汚染魔術の試し打ちよ!!」とさらに恐ろしい真実を聞かされることになる。



 ・・・俺、この人に魔改造されたんだぜ orz


 


 

お読みいただきありがとうございます。


ちなみに芋虫は魔物ではありません。ただの案山子じゃなかった、害虫ですので討伐ではなく駆除依頼となってます。

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