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小説の練習

飛翔、着地。人に許されざる高さまで跳んだ張本人たる男は不敵に笑った。その堂々としたただずまいに相応しき体躯を持った男は視線を前へと向けた。そこには甲冑をまとった戦士がいた。清廉な空気を漂わせるその者はなんと女であった。男と比べて大人と子供かと思わせるほど小さい。しかし、男がはそのことをまるで気にしていないかのように言う。

「へへっ、この時を待ってたんだぜ俺は、お前に負けたあの日から。」

「・・・」

女は沈黙したまま先を促す。

「てめぇから奪われたプライドを返して貰うぜ。」

そう言って男は拳を無造作に構える、女もそれにならうかのごとく剣を構えた。二人の間に重苦しい空気が立ち込める。静寂したその空気が緊張を強いている。しばらくの間にらみ合いをしていた時遠くで鐘の音がなる、その音を合図に男が猛然と駆け出した。その大きな体から想像出来ないスピードで拳を振るう。女は軽く避けるがそのまま拳を放ち続ける。終わりの見えない暴風のような連打に女は苦しそうに顔を歪める。一撃でも食らえば終わる。そのことが分かっている女は必死で避け続ける。男は心底楽しそうに笑うとますます苛烈に振るう。とうとう避け切れなくなり剣で受け止め、その衝撃に後ろにとばされた。


「強くなったな。」

女がつぶやき微かに笑った。それが意外だったのか男はきょとんとした。それが面白かったのかからからと笑い言う。

「本当に強くなった。おそらくもう君には勝てないだろうな。」

その言葉に不満気な声があがる。

「何だよ。やめちまうのか。」

首を振り言う。

「やめはしないさ。ただ素直にそう思っただけだ。君の拳は速くて力強い、このまま続けば必ず一撃をもらってしまうだろう。だから、もう受け身になるのはもうやめだ。私の最高の剣で持って君を切ろう。次で終わりにする、君を殺してしまうかもしれない。もっとも、かわせば君の勝ちだがね。」

息を吐き言葉を続ける。

「ひとつ君に確認したいことがある。君は私を倒す、その意味を分かっているのか。」

男は答える。

「分かってる。俺のは拳に嘘はそう決めてる。」

その言葉に女は微かに嬉そうに笑った。


言葉は終わりをつげ、再び周囲に重い空気が立ち込める。先ほどまでとは違うのは女が剣を上に構え、最強の名をほしいままにした必殺の構えをとっている。それに男も拳を構えて応じた。


交錯は一瞬。 静寂した場で崩れおちたのは女だった。男が急いで駆け寄り女の無事を確かめる。そんな男に苦しそうにしながらも言葉を綴る。

「だ、大丈夫・・・だ。ほ、骨も大丈夫そうだ。そ、それよりも・・この体勢は・・・」

男は無意識のうちに抱きかかえてしまっていた。その腕の中で女は恥ずかしそうに顔を赤く染め、身をよじる。その可愛いらしい仕草に男は胸がしまり、女のことがひどく愛らしく思えてきた。こういう時はどんな言葉を言えばいい、綺麗だとでも囁けば良いのかと、男が内心葛藤していると、女がおずおずと言う。

「もう本当に大丈夫だから。だからもう放してくれないか。」

真っ赤な顔のまま言うと慌てて男が離れる。

腕に残っている温もりを感じて切なくなりながら女に詫びた。

「す、すまん」

「い、いや。いいんだ。」

言葉が途切れどぎまぎした空気が残る。そのまま長い間黙っていると男は女に決意込めた声で言う。

「俺はこういうの慣れてないからよ、うまく言えねーけどよ。約束してやるよ、幸せにしてやるってよ。」

そのぶっきらぼうな言葉に苦笑しながら、だが幸せそうに言う。

「ありきたりだなその言葉。だけど嬉しいよ。君のその言葉。

側に居てくれる人が君で良かった。

君と出会えて良かった。」


「それにしても君は律儀だな。」


そうして女は言葉を紡ぐ。


「約束を果すのは後でいいのに・・・」



「私は今 《幸せだ》」




終わり

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