戦いがすすむ
大気圏に突入してから少しして、体に感じる振動が少なくなってきた。もう少しすれば地表に到達するだろう。一応この脱出艇は高性能なので、パラシュートを開いて降下ではなく、逆噴射による着陸ができるので、パラシュート降下によるノロノロ着陸の途中に攻撃されることはないと思うが、脱出艇を追ってきた奴等の攻撃で故障していなければ、である。
『先ほどの攻撃で機体に不具合が生じました、緊急着陸しますので衝撃に備えて下さい』
うぁ~、嫌な予感が当たったな~。
衝撃に備えて腕を顔の前から頭にかけて防御態勢を敷く。体はベルトできっちり動かなくなっているので大丈夫だ。
体に力が入るのがわかる、緊張してるな~などと考えていると一瞬の逆噴射の後、すさまじい衝撃が襲ってきた、不具合がない逆噴射機構を一瞬使用して、機体にかかる衝撃を少しばかり和らげたのだろうが、効果があったのかな?と思うぐらいの衝撃だった。
「痛い」
衝撃が収まり、多分なんとか着陸できたのだろう。さっき声に出したとおり体にかかった負担も大きかったのだろう、とりあえず脱出艇の機能が生きているか確かめてみる。
「現状を教えてくれ」
高性能AIに話しかける。しばらく無反応だったが雑音とともに声が聞こえてきた。
『ジ……現状ジジ……機能ジジ……ジジジ』
その声が途端にプツンと途切れた。周りで薄っすらと光っていたライトや計器などの光も消えた。
「……だめか」
脱出艇の機能が死んだのだろう。まあ先ほどのように無理な着陸をして機体に深刻なダメージを負ったのだ無理もない。体を固定しているベルトを外し、脱出艇から外に出る。
「う、眩しい」
真っ暗な脱出艇から外に出ると、いきなり目に入ったライトで目が眩む。
「動くな」
なんだ?動くなだと、むう見えない、目が慣れるまでとりあえずその場で動かないでおこう。
「武器を捨てろ」
武器?武器は持ってはいないよな、アリエルは武器と言えば武器だが、解らないだろうし。
「武器はっもていない」
少し大きめの声で叫んだ。
うん、目が慣れてきた、あたりの状況を確認してみる。
あ~最悪、多分脱出艇を追ってきていた奴らだ、数は……三人か。
アリエル、いけるか?
《ああ、だけど慣れないうちは俺の力を制御しきれないかもしれないぜ》
どんな力だよ?
《そうだな、聖霊の力は精霊の力の十倍以上だ、お前に使いきれると思えんが?》
上等、俺を拘束しようと近寄ってきたらやる。
「頭の後ろで手を組み、膝立ちになれ」
言われたとおり頭の後ろで手を組み、膝立ちになると二人がゆっくりと近寄ってくる、手にはライフルを持っている、少し離れたところに居る奴も手にはライフルを持っている。
畜生、全員近づいて来てくれれば楽だったのに。
《そう上手くはいかないだろ》
て言うかお前の使い方って、普通のデバイスと変わらないのか?
《ああ、お前の体と一体になっているが、キーワードを言えば力は使える》
キーワード?
《ああ、呪文みたいに唱えるってやつだな》
なにそれ?
《ん?ああ、わりい、今送るわ》
なにを?
ぐえ、頭いてえ。
頭の中に、アリエルが言っていたキーワードが頭に思い浮かんでいく。いきなり知らない記憶を思い出す、気持ち悪い体験だな。
《いま送ったぞ、どうだ》
そう言う事は早めにやってくれ、土壇場でやるなよ。
《うるせえな、間に合ったから良いだろ》
はぁ。
アリエルと声の無い言いあいをしていると、目の前に奴ら二人が立ったところだった。
「ウィンド・カッター」
キーワードを呟くと、俺を中心に風が巻き起こり、目の前に居た奴等の血が舞い散った。
「ぎゃ」
「ぐが」
目の前に居た二人は、小さく叫び声をあげて体中を切り裂かれ絶命した。
「貴様」
離れたところに居る奴がライフルを構えた、流石にこの距離は避けれないと思う。
「ウィンド・ウォール」
俺が呟くと同時に、ライフルの弾が発射された。避けれないなら防御すれば良い、体の前方に風の壁が展開される、ライフルの弾は風の壁に阻まれ弾かれていく。
「クソ、貴様何者だ」
そう問われて答える奴はいない。
「ウィンド・ブレット」
四つの風の弾丸が、ライフルを連射している奴の腕と足を貫いた。
「ぎゃ」
悲鳴を上げながら倒れる、手足は動かせないだろうが致命傷ではないだろう、聞きたい事があるし死んでもらっては困る。一応警戒しながら近づく。
「おい、聞きたい事がある」
「黙れ女っ、死ね売女がっ」
……怒っていいよね。
先ほど貫いた左足を踏みつける。
「ぎゃあ」
「聞きたい事がある」
「ぐ……ぅ」
もう一度同じ場所を踏みつける。
「ぐぎゃぁ」
「聞きたい事がある」
「あぐぅ」
もう一度踏みつけようと足を上げる。
「まってくれ、話す話すからやめてくれ」
はぁ、やっと解ってくれた、軽い拷問なんて良い気分はしないからね。
「お前らは何処の所属だ」
「スノッリ宇宙軍所属……だ、ぐぅ」
「この惑星はお前らの星と言う事か?」
「ああ……そうだ」
最悪だな、逃げようとして敵の本拠地に乗りこんじゃったよ。
「なぜ俺たちの艦を襲ってきた、目的はなんだ」
「貴様らが我々の星から、神の涙を奪ったからだろうがっ、がは」
「神の涙?」
「そうだ、神の涙は我々スノッリ人にとって命よりも大切なものだった、お前が居た戦艦に神の涙が有るとの情報をもとに、我々は動いたのだ、げほ。貴様が使ったさっきの力は神の涙の力だろうがっ」
「神の涙とはどんな物だ」
「神の涙は拳大の七色に輝くクリスタルの様な物だ、ぐぅ」
確かに指輪は七色に輝いてたが、拳大もの大きさは無かったぞ?
《もしかしたら、俺はその欠片で作られているんじゃないか?》
なるほど……だが確証はないし、そうだとしても俺はこいつ等を許せない。兎に角この星から脱出しないとだめだ、敵の情報を聞き出すか。
「お前らの軍の装備は?」
「基本、ライフルなどの銃火器だ」
「精霊の力は使わないのか?」
「精霊の力?……我々は魔法は使えない種族だ」
「俺とお前らに見た目の違いはあるか?」
「無い」
と言う事は町などに潜む事は出来るという事か。装備は銃火器と言う事はデバイス以外は基本変わらないという事か。
「今お金持ってる?」
「……あるが」
「有り金全部出せ」
「……はい」
泣きながら財布を俺に渡してきた。紙幣が4枚と硬貨が10枚位か、いくらだこれ。
「よし、後はとりあえず、眠っといてくれ」
「なにをぐぇ」
首の上から頸椎を叩き昏倒させる。
《殺さなくていいのか?》
なんか、な。
《今さらか、甘チャンだな》
「解ってるさ、いまさらだって、でも出来るだけ殺したくないって思うのは普通だろ」
《そうか?》
「兎に角、町に行く、此処に居たらヤバそうだ」
《まあ、好きにしなよ》
はぁ、先が見えない。