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ひと夏の記憶  作者: まなつか
序章
7/23

第七話 「恐怖」《美咲》


『お前は死ぬんだ。チエさんみたいに、跡形もなくこの世から存在を消す』

 どこからか声が聞こえてくる。

「やだやだやだやだ!」

 私は叫びながら目を開けた。すると、さっきの声はぴたりと止み、静寂が訪れる。

「……朝」

 昨日はいろいろ考え事をしているうちに寝てしまった。私は昨日のことをすぐに思い出してしまい、また恐怖の感覚に包まれる。

「おはようございまーっす!」

 元気な声と共にピンクのナース服に身を包んだ佐藤さんが入ってくる。私は現実に引き戻された。

「おはようございます、佐藤さん」

「調子はどう?」

 少し声のトーンを落として聞いてきた。昨日のことで私を心配してくれているのだ。

「……正直に言うと、不安です」

 私はこの人にはなるべく本当のことを話している。この人は信用できるからだ。

「そっか、そうだよね。あ、朝ご飯持ってきましたよ~」

 お盆に乗った朝食がテーブルの上に出された。ついでに体温計も差し出され、私はパジャマの第二ボタンまではずし、わきの下に挟む。

「いただきます」

 私はそうやって箸を持つものの食欲がわかなかった。きっとさっきみた夢のせいだ。

「……大丈夫?」

 佐藤さんが心配して訊いてくる。私は大丈夫だと言って無理に食べたが、途中で戻してしまった。

 ……私、死ぬんだよね……。



 また夢を見た。今度は私が死んでいるという夢だった。死んだ私を上から見下ろす私。不思議な感覚だった。両親が泣いている、佐藤さんが泣いている、あのいつもクールな担当医の川本でさえ浮かない顔つきをしていた。

 すっと場面が変わった。今度は葬式だ。元クラスメイトが参列していた。私は目をそらした。

 また場面が変わる。今度は私の身体が焼かれていた。めらめらと炎を上げている。

「……っ!」

 私は耐えきれずにその場に吐いてしまった。夢の中なのに、何か現実味がある――


「――美咲? 美咲!?」

 お母さんの声で私は目を覚ました。

「大丈夫なの? 今お医者さん呼んだからね」

 お母さんが心配そうにそういった。私はまだ夢見心地だった。ベッドが汚れているのにも気づかなかった。私はすっとベッドから抜け出した。もう何を考えて行動しているのかもわからない。

「行かなきゃ……」

 そんなことを無意識に口にしていた。

「行くって……? どこへ行くの?」

「私はチエさんみたいになりたくない。ごめんね、お母さん」

 お母さんの顔は見ずに病室を飛び出した。

「待って! 美咲っ!」

 お母さんが追いかけてくるのがわかる。私は持てる力を振り絞って走った。もう一年も走っていないのだ。体力はだいぶ落ちている。

 そんなときふっとめまいがした。私は誰かの声を聞いた。

 ――あなたのお母さんは死に神よ。逃げないと殺されるわよ。

 そんな声がした。ふっと後ろを振り返るとお母さんが全速力でやってくる。

「嫌だっ! イヤイヤイヤ! 死にたくないよ!」

 私はそう叫んで走り出す。

 そして曲がり角を曲がろうとしたその時――

「きゃっ!」

 私は誰かにぶつかってしまった。

「あぁっ、大丈夫?」

 男の人の声だった。それは私をもっと恐怖へと陥れているようだった。

「――待て、美咲……!」

「ひ……」

 後ろから死に神が追いついてくる! 嫌だ嫌だ!

 私は必死に起き上がって走り出した。

 もう嫌だっ! こんな世界!

 私は屋上へ向かって走り続けた。



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