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ひと夏の記憶  作者: まなつか
序章
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第四話 「担当医」《美咲》

 次の日の朝、着替えや身の周りのものを持って再び病院へと向かった。

 とても日差しが暑かった。病院の周りの森から蝉が一生懸命に声を張り上げ、魂をすり減らしている。

 私には個室が与えられた。私がいろいろと準備をしている間、お母さんとお父さんは別の部屋で医者と話しをしているようだった。

 私はベッドの脇にある机に木製フレームに入った写真をたてた。家族写真だ。それは2年前に行った金沢の旅行で撮った写真だった。

 私はこれが気に入っていた。どうしてかはわからない。家族写真ならほかにもいろいろあるはずなのに。


 そんなことをしていると、扉が開く音とカーテンがシャーっと音がした。

「失礼します」

 そして、3人の人が一斉に入ってくる。

 そしてその後ろから両親が入ってきた。お母さんは目を赤くして、ハンカチで拭いでいた。お父さんは鼻をすすりながらうつむいていた。

 その先頭に立っていたバインダーを抱えた若そうな医者しゃべる。ちょっとかっこいい顔をしている。きっとナースの間でモテモテなんだろうな。なんて悠長なことを思っていると相手が口を開いたので気を戻した。

「美咲さん、どうも担当医の川本順です」

「ど、どうも。初めまして」

 昨日会った眼鏡の医者だった。私はおずおずと頭を下げる。なんかこの人にはなじめそうにもない。

「そして、補佐の谷川龍二です。よろしくね」

 身長が低く、声が高めの若い医者だった。なんか川本と比べて感じの良さそうな医者だった。

「私は佐藤瑠奈。看護師よ。何かあったら遠慮なく言ってね」

 優しそうでちょっとぽっちゃりした人だった。

 これで全員自己紹介が終わった。一人を除いていい人そうな人たちだった。私は少しほっとした。そう思いきや、眼鏡の川本が話し始める。私は再び緊張する。

「君はもう自分ががんだってことは知ってるね?」

 私はがんという言葉に胸が締め付けられた。しかし、もう受け入れるしかなかった。

「……はい」

「大腸がんだ。しかももうかなり進行している。末期というやつだ」

 ……そこまで、進行していたということは……。

「一回明後日に手術をするからな。覚悟を決めておくようにな」

 マジかよ。早速手術か。ってか、そんな悠長なことは言ってられない。私は末期がん患者なんだ。もうこうやって話している時点で刻々と死が近づいて来ているのかもしれない。

 川本はそう言い残すと二人を連れて部屋から出て行った。

 そしてお母さんたちが私が座っているベッドの横にやってきた。

 お母さんは私の手を握った。そして私の目を見る。今にも崩れてしまいそうな、そんな目だった。

 私はそれを見つめ返していた。しかし、お母さんは急にベッドにうつぶせになると大声を上げて泣き出した。

「お願いっ! 頼むから死なないでよぉぉお! なんで、なんで美咲だけが……」

 私だって泣きたかった。もうどうしようもないこの感情をぶつけたかった。だけど、そうすることでもっと辛くなるかもしれない。私はそう考えた。

 お父さんの顔は見上げられなかった。私はずっと白いベッドの上で泣き続けるお母さんの頭を見続けることしかできなかった。

 


 こんにちは、まなつかです。


 感想・評価などをもらえると嬉しいです。

 それでは。

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