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ひと夏の記憶  作者: まなつか
第三章 「変わらぬ日々」
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第五話 「スズメ探し」《一稀》



「もうそろそろ日が落ちるね」

 僕は窓の外を見ながらそう言う。

「うん……」

 彼女も窓の外を見ている。ちらりと横顔を窺うと綺麗な顔が夕焼けに赤くなっていた。

 彼女も目をこっちにちらりとよこす。そしてほほえんだ。

「ねえ、一稀くん。カラスって、どう思う?」

「うーん、黒くてでかくて嫌だなぁ」

「そう思うでしょ?」

「ん? 美咲さんはどう思うの?」

「私は好きだな」

「えぇっ!?」

 カラスが好きな女の子って変わっていると思う。

「だって、自由じゃない。ああやってさ、何を叫んでいるのかわかんないけど空を自由に飛べて……」

「あ……あぁ……」

 そういう意味か。だったらスズメとかでもいいような気がするけど。/

「ねぇ、知ってる? ここの病院のある屋上に夕方になるとスズメがたくさんやってくるって」

「えっ、そうなの?」

「見に行こうよ!」

 彼女はガタリと立ち上がる。

「よし、行こうか」

 僕も立ち上がった。

「だけどどこにあるの?」

「わかんないけど誰かに訊けば分かるよ。前誰かがここで喋ってたのが聞こえたからさ。川本先生にでも訊いてみる?」

「うげぇ……川本はヤダよ」

 彼女はクスクス笑いながらじゃあ佐藤さんねと言うとナースセンターの方へ歩き出した。僕もその後をついて行く。



「えっ? スズメ?」

 運良く佐藤さんはナースセンターで資料の整理をしていたようで捕まえれた。

「はい、この病院のどこかの屋上でこの時間、たくさんのスズメが集まるって聞いたんです」

「うーん……たしかになんかピチチチ聞こえるのよね。どこかは……分からない」

「そうですか」

 そして佐藤さんは僕に視線を向け、一瞬驚いた顔をしたが、事情を理解したのかニンマリ笑った。

「美咲ちゃん、一稀くんとデートなの?」

「えっ……」

 彼女は急に僕の方を振り返って顔を真っ赤にしてうつむいた。僕も恥ずかしくなって佐藤さんを睨む。

「あはは、二人で探しに行ってみたら?」

「……もう、行こう、一稀くん」

 美咲さんは先に駆けだして行ってしまった。

「あ、待ってよ!」

 僕も追いかける。後ろで「ひゅーひゅー! やるねー!」と佐藤さんの声が聞こえた。ちくしょう、そんなんじゃないのに! 後で弁解することにしよう。



「スズメ……ねえ」

 美咲さんは諦めることなく次の人に尋ねていた。看護婦の蒼井さんである。美咲さんより背が高いので若干見上げていた。僕と同じくらいの背である。

「うーん……どっかの病室から見えたのよね、それ」

「ど、どこですか?!」

「覚えてないわ」

 あっさり言われて美咲さんはうなだれた。

「あ、でも谷川先生なら知ってるかもよ。すぐそこの病室で診察中だから少し待っててごらん」

「はい! ありがとうございます」

「んじゃ、またね」

「はい」

 蒼井さんは僕のほうを見てもあまり反応を示さずに消えていった。



「あぁ、スズメね。うんうん、見るよ見るよ。可愛いよねぇ」

 首から聴診器をぶら下げながら病室から出てきた谷川に美咲さんが詰め寄った。

「どこで見たんですか!?」

「うーんと、どこだっけなぁ」

 彼は目をくるくる回しながら考える。

「こら! 美咲!」

 静かな院内に響きわたる凛とした声。僕たちは三人そろってすくんだ。

「どこにいたの!?」

「あっ! お母さん……」

 あ……さっき会った人だ。さっきって言っても午前中だが。

「美咲、朝病室飛び出して行ってからどこ行ってたの? お母さん、心配でずっと探していたんだからね」

「あっ……ごめんなさい」

 そうだ、あの朝、僕と美咲さんが出会ったのだ。

 美咲さんの母親は優しそうな人だったが、やはり疲れた顔をしていた。

「あっ……先ほどはうちの美咲がご迷惑を」

 僕に気づいた母親が頭を下げる。

「いえいえ」

「ねぇ、お母さん。スズメ……」

「もういいから早く病室に戻りなさい。川本先生が待ってるのよ」

「あ……うん」

「それでは、谷川先生、失礼します」

 谷川に頭を下げて、僕に会釈をしてから彼女の病室があると思われる方向へ行った。

「美咲さん」

 僕は彼女を呼び止める。

「ん?」

「また、スズメを探そうね。次までに場所探しとくからさ」

「うんわかった。私も探してみるね」

「あの……病室は何号室?」

「西病棟の531だよ。そっちは?」

「こっちは西病棟の917だよ」

「また会おうね」

「うん、また」

 彼女はひらひらと白い手を僕に振ってから母親の後を追った。僕はしばらくその姿をぼーっと眺めていた。

「おい、夏野」

「うふっ!?」

 後ろに谷川がいたのを忘れていた。

「気色の悪い声をあげんな」

「なんだよ?」

「川本の戦略かなんかか? ありゃ」

「……そう……ですね」

「……はぁ、そうか」

 彼は深いため息をついてからぽんぽんと僕の肩を叩いて階段の方へと消えていった。

 なんなのだろうか。

 まぁ、なんにせよ今日はいろんなことがあった。帰ってゆっくり休むか。




 こんにちは、まなつかです。

 勉強の合間に書いているのですが、一話(2000文字程度)書くと40分消費しております。ちょっとまずいような気がします。今書いている1月5日は模試があるので……はは。


 これでやっと一日目が終わりましたね。

 長い長い一日でした。現実時間で言うと一年ですね。長い。


 それでは、また。

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