第四話 「みかんジュース」《谷川》
「あぁ、くそぅ!」
僕はイライラしながら頭を掻く。フケがファサファサ飛び散った。
「おい、不潔だぞ、谷川」
先に部屋にいた川本がこっちを振り返りながらそう言う。
「あぁ、だってよぉ!」
「いいからこれでも飲んで落ち着け」
ここは医者たちの休憩室兼ミーティングルーム。川本が親切に紙コップに入ったジュースを渡してくれる。僕がここに置いているみかんジュースだ。
「……ありがとう」
それを一気に飲み干す。みかん独特の匂いと味が染み渡る。
「しかし、いつも思うんだがなんでみかんなんだよ。オレンジじゃだめなのか?」
あえてストレスの原因に触れることなく、話を持って行ってくれるのが彼のいいところだと思う。
「いやぁね、僕んところさみかん農家でさ。んで、「新たな商売始めた」とか「れびゅーとかいうのをしてくれ」とか言って毎月こっちに送ってくるんだよね」
「お前の実家って、和歌山だっけ」
「そうだよ。みかん生産高全国一位だ。祖父母はまだ現役で頑張ってるよ」
「はぁ。どうりでみかんジュースなわけだ」
「そうそう、美味しいよ? 川本も飲んでみる?」
「いや、俺はみかんアレルギーだから遠慮しとくよ」
「嘘だろ、それ」
僕は笑いながら立ち上がり、『ばーちゃん特製みかんじゅーす』と書かれたペットボトルを開ける。そしてさっき川本が差し出してくれた紙コップになみなみ注ぐ。
「いや、俺はいいって!」
川本が止めようとする。
「ははは、川本昔から柑橘類が苦手だもんなぁ」
僕はそのコップを奴に差し出す。
「飲むのか?」
「大丈夫だって。みかんの味しかしないから」
「ん……」
川本は恐る恐る口を付け、潔く一気飲みした。
「……どう?」
「…………」
何も言わず渋い顔でこちらを見上げてくる。
「はは、また飲みたくなったら言えよ」
「…………」
何も言わずに彼は立ち上がり、「すげーまずかったぜ。なんか、懐かしい味がしたわ」とか言って出て行った。結局は美味しいってことじゃないか。
僕は一人笑いながら紙コップを二つゴミ箱へ放り投げた。きれいな放物線を描いてそれはビニール袋がかかった灰色のゴミ箱に入る。
「よし、もうひとがんばりするか」
そう言って僕も部屋をあとにした。
入ってきたときのあのイライラはどこかへ行ってしまったようだ。今度川本にみかんでもあげて礼の気持ちでも伝えないとな。
僕は笑いながら白衣のポケットに手を入れ、患者が待っている病室へと向かった。
こんにちは、まなつかです。
いや、マジこの二人好きなんですよ。なんていうか、BLうわなにするやめろ
なんかみかんの生産高、愛媛か和歌山かどっちか迷うことがあります。
これで「谷川のほうが上」と覚えればオッケイですねb
この章はしばらくこういう日常的な話が続きます。
それでは。