第二話 「虐めの果てに」《川本》
それから数日してから学校に行った。葬式とかにはとてもじゃないけど参列できなかった。
「なぁ、聞いたか?」
「何々?」
「ほら、この間死んだあいつ。川本と下校している最中に死んだらしいよ」
「マッジー? それやばくね? 川本の責任ってこと?」
教室に入ってすぐ、そういう言葉が耳に入る。俺はそいつらを見ることもできずに席に着いた。
ふと隣の席に目をやると綺麗な花がたくさん生けてある花瓶がひとつ、ぽつんとあった。
俺はうつぶせになった。涙が止まらなかった。最愛だった人を自分のせいで失ってしまった。それはもう取り返しのつかないことだった。悔しかった。無力な自分が。
俺は机の中に手を入れるとノートに触れた。彼女と交換していたノートだ。俺はそれに彼女に向けて最期のメッセージを書いた。
『ごめん』
それだけ書くと彼女の机の中に入れた。
「おい」
頭上から女子の声が降りかかってくる。俺は答える気力もなく突っ伏していた。
「おいっていってるだろ」
俺は顔を上げた。次の瞬間右の頬に痛みが走る。そしてガタガタと机をならして倒れ込んだ。殴られたのか……?
「アンタのせいで死んだのよ!」
「……」
「アンタのせいで……せいで……ッ!」
俺を殴った本人も泣き崩れてしまった。それを周りにいた数名の女子が支える。そいつらも俺に冷たい視線を向けた。
「みんな……ッ! 私たちは川本を絶対許さない。みんなも許しちゃあいけない!」
そう彼女は叫んだ。クラス中の人は全員聞いていたと思う。
その日から俺は虐めにあった。靴の中に画鋲なんて可愛いものだ。俺の場合は理科室から持ち出した劇薬を含ませた布があった。他にも自分の物がなくなったり、教科書に落書き、直接の暴力、仲間はずれ……いろいろあった。教師らは見て見ぬふりをしていた。俺は次第に耐えられなくなった。
そんなある日俺はとうとう壊れた。
「お前らぁああああああああ! そんなに楽しいか? 俺をこんな風にして楽しいかよ!? 確かに俺は何もできなかった。だけどお前らだって無力だろう? 何かできたかよ?」
朝のHRの時間に俺は急に立ち上がってそういった。教師を含め全員の視線が集まる。
「私だったらすぐに救急車を呼べた!」
ある女子が叫んだ。
「だったらやってみろやぁああああああ!」
俺はそう叫んでナイフをつかみ、教師の首元に刺した。次の瞬間真っ赤な血が吹き出る。
「きゃぁああああああ!」
叫び声が上がった。俺はぐちゅりとナイフを抜いた。女の教師はそのまま教壇に倒れ込んだ。
「呼べよ! 呼べるなら呼んでみろよ! 目の前で死ぬぞ! こいつは!」
「嫌……嫌……!」
そいつは目に涙を浮かべて首を横に振っている。
「なんだ、できねえじゃねえかよぉおおおお! 無力だ、みんなは無力だ! 俺と同じだ!」
俺は教卓を思い切り蹴飛ばした。次の瞬間隣のクラスの教師がやってきて俺を取り押さえた。救急車が来たのは結局一〇分後で担任の教師の命は助からなかった。