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第1章――七百六十八年後の未来(彼女の視点)

はじめまして、そしてこの物語を手に取ってくださりありがとうございます。

本作『Fate Simulator ――The Legend of Mystic Masters』は、

「運命とは何か」

「選ばれなかった者は、本当に無価値なのか」

そんな問いから生まれた物語です。

この世界では、運命は“見えないシステム”として存在し、

選ばれた者だけが英雄となり、

拒まれた者は静かに消えていきます。

――ですが、本当にそうでしょうか。

これは、

本来“選ばれるはずのなかった少年”と、

“正しく選ばれてしまった少女”が出会い、

運命そのものに歪みが生じていく物語です。

第1章は、彼女――アリア・ヴェルシャインの視点から始まります。

まだ世界が壊れる前、

まだ「エラー」が記録される前の、

ごく当たり前だった日常。

この先、物語はゆっくりと、しかし確実に歪んでいきます。

どうか最後まで、

彼らの選択を見届けていただければ幸いです。

はぁ……はぁ……はぁ……


脚が、感覚を失っていた。

肺が焼けるように痛い。

息を吸うたび、喉が擦り切れていく。


魔力も、もう限界だった。


それなのに――

あの《ミスティック・レルム》の魔獣たちは、まるで諦める気がない。


「……ほんとに……お父さんの言うこと、聞いとくべきだった……」


気づけば私は、一人だった。


迷い込んだ森は、果てがないように広がっている。

空気は重く、木々は異様に静かで――まるで、生きているみたいだった。


――GRAAAAAA!!


背後から轟く咆哮。

背骨の奥まで震えが走る。


近い。

近すぎる。


「お願い……もう勘弁してよ!!」


逃げ込んだ先は――行き止まり。


……はい、もちろん。

今日がこれ以上悪くならない理由なんて、ないよね。


歯を食いしばり、巨大な岩をよじ登ろうとした、その瞬間――


――GRAAA!!


左から何かが振り下ろされた。


THWACK――!!


「きゃあ――!!」


激痛。


腕に走る熱。

血が地面に飛び散る。


「いったぁ――!! ちょっと! 痛いんだけど!!」


幸い、腕はまだある。

でも、三本の深い裂傷が走っていて、心臓の鼓動に合わせてズキズキと疼いた。


よろめきながら、私は――それを見た。


魔獣。


炎を纏った巨大な頭部。

前腕よりも長い爪。

逃げ道を完全に塞ぐ、圧倒的な巨体。


「……あ、これ……詰んだ」


恐怖じゃない。

パニックでもない。


ただ、完璧に追い詰められたという冷たい理解だけがあった。


「……いいえ。まだよ」


歯を食いしばり、私は家宝を引き抜く。


紅色のフリントロック銃。


血弾を、魔獣の胸へ――


BOOOOM!!


爆音とともに、弾丸は魔獣を貫いた。


……はずだった。


だが次の瞬間、裂けた肉体は、まるで最初から無傷だったかのように再生する。


「……はは……そう来るよね」


再生能力。


父が言っていた。

それは上位ランクの魔獣だけが持つ、極めて稀な能力。


魔獣の口元が歪む。

まるで、私を嘲笑うかのように。


「……あー……はいはい。最高。完璧。朝食決定ってわけね……」


性別?

どうでもいい。


どっちにしろ、私は食べられる。


目を、ぎゅっと閉じた。


「……お父さん……!」


「可愛いな」


――その声。


……あ、ダメだ。最悪。


振り向く間もなく、目の前の魔獣が――


ガラスのように、粉々に砕け散った。


青いスライムが、辺り一面に飛び散る。


「きゃあ――!! ちょっと!! 服が!!」


青いコートも、銀色の長い髪も、べっとり。

最悪。ほんと最悪。

今の私、絶対ひどい顔してる。


「ははは! まだ狩りは早いぞ、我が姫君」


……はい。


こんなにウザくて誇らしげな声、世界に一人しかいない。


「……お父さん」


山の上から、彼が笑っていた。

銀色のシガレットホルダーを咥えて、まるでポスター撮影中みたいに。


THUD――!


地面が揺れ、彼が隣に着地する。


……ああ、来る。絶対来る。


「言っただろ? まだ早いって。お前は、俺の可愛い娘なんだから」


「うるさい! 私、十九歳! 今日はたまたま運が悪かっただけ!!」


思わず言い返す。

埃を払うふりをしながら、必死に平静を装った。


……嘘。


でも、そう言わなきゃ認めてもらえない。


私は――そこへ行きたい。


「やれやれ……最近の若いもんは……」


ため息。


――制限される。


そう思った、その時。


「ほら」


コツン、と頭に何かが当たった。


……わかる。


これは。


「……お父さん……本気?」


震える指で、それを掴む。


平たいカード。


学院の――入学証。


「仕方ないだろ。そこまで必死なら、好きにさせてやるさ」


彼は満足そうに笑っていた。


でも、勝ったのは私。


「……っ!! お父さん、大好き!!」


思わず抱きつく。


「ははは。喜んでくれりゃ、それでいい」


頭を撫でる、温かい手。


――でも。


「……ただし」


ほら来た。


「無茶はするな。学院は才能を見る場所だ」


「……私に才能がないって言いたいの?」


「い、いや! そんなことない!!」


慌てる父。


「お前は天才だ! ゼロですら敵わない! ははは!!」


――その名前。


ゼロ。


戦争を終わらせた、神に等しい存在。


胸が、熱くなる。

何かが――噛み合うような、違和感。


「……やめて」


目を押さえ、背を向ける。


「誰も、彼にはなれない」


「……そうだな」


一瞬、父の表情が――


寂しそうに、見えた。


「……本当に、すごかった」


「……」


答えず、目を閉じた。


――その直後。


「ぎゃっ?!」


腹に、拳。


「油断しない。それ、教えたの誰?」


「……ぐっ……立派だ……」


よろめきながら立つ父。


「……お腹空いた。帰ろ」


「了解、隊長」


……相変わらず。


森を出る途中――


CAW、CAW――


カラス?


こんな森に?


振り向いた瞬間――


何もいなかった。


「……気のせい?」


でも――


誰かに、見られている気がした。



---


〈FATE SIMULATOR ― 観測ログ〉

【対象ID:???】

【異常検出:ZERØ-ECHO】

【時間軸同期:失敗】

【干渉源:不明】

【脅威レベル:UN▯▯WN】






ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

第1章では、まだ大きな謎や戦争は描かれていません。

ですが、すでに世界の“ズレ”は静かに始まっています。

何気ない視線。

違和感のある沈黙。

そして、記録されるはずのなかったログ。

それらすべてが、後に大きな意味を持つことになります。

この物語は、

「強さ」や「才能」だけを描く作品ではありません。

選ばれなかった者が、

それでも歩き続けた結果、何に辿り着くのか。

その過程を描いていく物語です。

更新は無理のないペースで続けていく予定です。

ゆっくりでも、確実に進めていきます。

もし少しでも気になる点があれば、

感想や評価をいただけると、とても励みになります。

それでは――

次章で、またお会いしましょう。

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