表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

牧場

作者: 古数母守
掲載日:2026/02/27

 雲一つない青空が広がっていた。暖かな陽射しが街並みに降り注いていた。通りは人々で賑わっていた。途切れることのない車の列が続いていた。車は信号機の指示に従って止まり、また動き出していた。いつもと変わらない風景だった。

「あれは何だ?」

道行く人々が立ち止まり、空を見上げていた。そこには円盤状の巨大な物体が妖しい光を放ちながら空中に静止していた。

「異星人が攻めて来た!」

それは明らかに地球外文明の宇宙船と思われた。まもなく宇宙船の底部から熱線が発せられ、街はこなごなに破壊されてしまうかもしれない。そう思った人々は一目散に逃げ出していた。一方で好奇心を止めることのできない人々は、スマートフォンで宇宙船を撮影していた。宇宙船はゆっくりと移動していた。やがて広場の上に到達すると宇宙船の底部から光の帯が地面に伸びた。そしてその中をゆっくりと人影が降りて来た。

「はじめまして、私はアール星からやって来ました」

遥々地球にやって来たアール星人は、親しげに手を振りながら挨拶をしていた。


 直ちに地球政府の代表とアール星人との間で会談が行われることになった。アール星人は何か目的があって地球にやって来たに違いなかった。政府の代表は、アール星人が話し合いに応じてくれて、ほっとしていた。圧倒的な科学力の差があるので、戦争になったらひとたまりもなかったと考えていた。

「地球の方にも、ぜひ味わってもらいたいと思いまして遥々やって来たのです」

そう言ってアール星人が宇宙船に指示を出すと、光の帯が地面に延び、その中を牛のような動物がゆっくり降りて来た。地面に降りた動物の姿をカメラが捉えて、その画像がモニタに表示された。

「この動物はウーマと言います。ウーマの肉はとても美味しいですよ」

アール星人は言った。急にそんなものを押し付けられてもと代表たちは思った。地球にも牛、豚、鶏がいる。牛肉の中にはとても高級なものもある。アール星人は知らないだけだろう。そう思っていたが、アール星人があまりにウーマを勧めるので、試食会が開かれることになった。そして先ほど宇宙船から降りて来たウーマをみんなで食べましょうということになった。


 アール星人と代表団が席についていた。スタッフが大皿を運んで来た。皿には、焼き色のついた肉が並んでいた。目の前に置かれた皿から香ばしい匂いが漂い、食欲をそそっていた。代表の一人がナイフを持ち、分厚い肉を一口大に切り分けた。そしてフォークを突き刺して、口に運んだ。

「うまいっ」

男は思わず声を上げた。噛まなくても口の中で肉の繊維がほどけていく感じだった。溢れ出した肉汁の旨みが男の舌を虜にしていたのだった。

「こんなうまい肉は食べたことがない」

そう言って男は切り分けた肉を次から次へと口の中に運んで行った。周りでその様子を見ていた人たちは大袈裟だなあと思っていた。難しい相手と友好を深めて行かなければならないのはわかっている。でもあまりにあからさまだと相手の機嫌を損なうことにもなりかねない。ここは互いの距離を確認しつつ、そこを少しずつ埋めて行く大人の対応が必要というものだ。そんなことを考えながら、肉を切り分け、口に放り込んだ。

「うまいっ」

「うまいっ」

「ウーマ、うまいっ」

あちこちで歓声が上がっていた。そこにいる地球人全員が半ば涙を流しながら、初めて食べるウーマの肉に舌鼓を打っていた。会場全体が和やかな空気に包まれた。どのテーブルからも賑やかな談笑が聞こえて来た。皿の上の肉はあっという間に姿を消したが、すぐに次の皿が運ばれて来た。

「お口に合いましたようで、とてもうれしいです」

未知の味に遭遇して喜びの最中にある地球人にアール星人が言った。

「差し支えなければ、地球でどんどんウーマの牧場を増やして行きたいと思います」

アール星人は言った


 ウーマは高級肉という訳ではなかったので一般家庭にもすぐに普及した。牛肉よりも安価でおいしかったため、家庭で消費される肉はウーマの占める割合が次第に増えて行った。人々の旺盛な食欲を満たすため、畜産農家は牛や豚を飼育するのを止め、ウーマの飼育に切り替えた。畜産業におけるウーマ肉のシェアは拡大する一方だった。そしていつしか人々は毎日ウーマを食べるようになっていた。

「あれ、少し太ったんじゃない?」

安くて美味なウーマの肉を食べ過ぎて、肌の色艶も良く、健康になった隣人の姿を見て、人々は言った。そういう自分もやはり健康的に太って来たのだった。その頃、宇宙船の中ではアール星人が地球人の様子を観察していた。

「美味しそうですね。とても健康的で色艶もいい」

「ウーマの肉を存分に食べさせているからな。美味しいに決まっているさ」

地球はすっかり彼らの牧場となってしまったようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ