第93話 捻くれた子供
「き、君はどう思う?」
帰りの挨拶の後、
真っ先に教室を飛び出していった
翔太と洋の後を追いかけようと
教室のドアに手を掛けたその時、
背後からか細い声がした。
振り向くと池田が立っていた。
この男はいつも突然現れる。
「何のことだ?」
「あ、あの噂について・・。
ほ、本当に猿田先生は自殺したのかな・・。
は、葉山さんを殺したなんて
し、信じられなくて・・」
池田は俯いたまま呟いた。
それは独り言のようで
耳を澄ませていなければ
聞き取るのは困難だと思われた。
「何でそんなことを俺に聞くんだ?」
「い、以前。
き、君が猿田先生や葉山さんのことを
し、調べてたから・・。
な、何か知ってるんじゃないかと思って・・」
この空気のような男は
己の存在の希薄さを利用して、
普段から他人の話に
聞き耳を立てているのだろうか。
案外、油断ならない奴だと思った。
「何を言ってるのかわからないな。
噂は所詮噂だろ?
それにもし噂が本当で
葉山を殺したのがボス猿なら、
それを苦に自殺したとしてもおかしくはない。
あと、俺達が調べていたのは
夏休みが始まる前のことだ。
最近のボス猿のことなんて何も知らないさ」
俺の答えに納得していないのは
池田の表情からすぐにわかった。
「さ、猿田先生が亡くなってまだ日が浅いのに、
な、何でこんな噂が流れたんだろう・・」
それは質問ではなく本当に独り言のようだった。
「何を考えてるんだ?」
俺と同じ疑問を持っている池田の考えに
少しだけ興味が湧いた。
「も、もし本当に葉山さんを殺したのが
さ、猿田先生だとしても、
ぼ、僕には猿田先生が自殺をするとは
お、思えない・・」
池田はそこで言葉を止めてチラリと俺を見た。
そして俺と目が合うと池田は視線を落とした。
それから徐に続けた。
「た、例えば猿田先生が
だ、誰かに殺されたとしたら・・?」
「校長は事故だと言ってたぞ?」
「じ、事故というのは絶対にあり得ないよ・・」
「どうしてそんなことが言えるんだ?」
俺はもう少しだけ
池田の話に付き合うことにした。
「が、学校側が屋上の扉に鍵をかけたことから、
さ、猿田先生は
き、きっと屋上から転落したと
す、推測できるよね」
子供にしては鋭い洞察力だった。
「お、屋上にはフェンスがあるんだよ?
あ、あのフェンスをよじ登って、
き、危険な場所に行く意味がないよね?」
その点は確かに俺も池田と同意見だった。
しかし。
「だからこそ。
噂通り自殺と考えるのが自然じゃないのか?」
そう考える方が理にかなっている。
一体、誰がどんな理由で
ボス猿を殺すというのか。
「そ、それでも・・。
ぼ、僕はやっぱり猿田先生は
だ、誰かに・・
こ、殺されたんじゃないかって思う・・」
「仮にお前の言うように
ボス猿が誰かに殺されたのだとしたら、
その犯人は一体誰なんだ?」
「そ、そこまではわからないけど・・」
「だろ?
ならやっぱり噂通り自殺なんじゃないか?
火のない所に煙は立たぬって言うだろ?
もういいか?」
「う、うん・・」
返事とは裏腹に
池田の表情はまだ何か言いたげだった。
「じゃあな」
俺は半ば強引に話を切り上げて教室を出た。
なぜ池田はそれほどまでに
他殺に拘るのだろうか。
どちらにせよ。
随分と捻くれたものの見方をする
子供だと思った。
結局、雨は降らなかった。




