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黄昏は悲しき堕天使達のシュプール  作者: Mr.M
八章 Return 11月

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第89話 マゼンタ色

屋上には誰もいなかった。

やはりこの日を選んで正解だった。

仮に他の生徒がいたとしても、

そこは適当に言いくるめて

追い出す予定だったが、

その手間が省けたのは好都合だった。

風が冷たかった。

俺は6年2組の教室の

真上にあたる場所まで歩いて、

目の前に立ち塞がるフェンスを乗り越えた。

そして屋上の縁へ近づいた。

それから俺は

ポケットから封筒と拳大の石を取り出した。

封筒はボス猿の机に置いた物と

同一の物だったが、

中には何も入っていない。

これは餌だった。

俺は封筒を屋上の端ギリギリのところに置いて

風で飛ばないようにその上に石を乗せた。

これが葉山の供養になれば。

そう思ってこの場所を選んだ。

俺は改めて縁から下を覗き込んだ。

ほんの数時間前の昼休みに見た時の光景とは

明らかに違う景色が眼下に広がっていた。


花壇にうつ伏せで倒れている人の姿が

目に飛び込んできた。

その人物の周囲の花弁達が

鮮やかなマゼンタ色に染まっていた。

そしてその人物こそ、

俺がこれから殺そうとしていたボス猿だった。

それはあの旧日本陸軍のような服装からも

間違いなかった。

俺はしばらくその光景から目を離せなかった。


しばらくしてようやくこの状況が

俺にとって好ましくないことだと理解した。

俺はすぐにフェンスを乗り越えて扉へ走った。

階段を駆け下りて教室へ戻った。

席に座って大きく深呼吸をした。

先ほど見た光景が頭の中で再生された。

ボス猿は恐らく屋上から転落したに違いない。

しかしそう考えると疑問が出てくる。

俺は何も書かれていない黒板をじっと見つめた。

考えようとしたが思考に集中できなかった。


どれくらいそうしていただろう。

俺はふと我に返った。

今はボス猿のことを考えている暇はない。

それよりも。

誰かに見つかる前に

急いで学校から出なければならない。

俺は極力音を立てないように

静かに廊下を走って靴箱へ向かった。


靴箱まで来たところで、

玄関に佇んでいる少女を見つけて

俺は足を止めた。

少女がこちらを振り向いた。


茜だった。

茜は俺に気付くと小さく手を振った。

「ど、どうしたんだ?

 『楽園』に行ったんじゃないのか?」

俺は動揺を悟られないよう

努めて冷静に話しかけた。

「行こうと思ったんだけど、

 やっぱり待ってることにしたの」

そう言って茜は無邪気に笑った。

俺は無理に笑顔を作ってから

急いで靴に履き替えた。

「俺達も早く行こう」

そう言って俺は茜の手を引いて

校舎から飛び出した。


空に広がった夕日の色が、

ボス猿の血で染まった花壇の花を連想させた。

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