第56話 張り込み
熱が下がって俺は3日ぶりに登校した。
この日は朝から晴れていて、
昼休みが始まると子供達は
一斉に校庭へ駆け出していった。
そんな中、
教室に残っていたのは俺達少年探偵団と
机で本を読んでいる相馬、
そして。
何もせずぼぅっと机に座っている池田だった。
「ちょっと上に行って話そうぜ」
洋の提案に翔太は一度室内を見回してから
「そうだね」と同意した。
2人は俺と茜の返事を待たずに
さっさと教室を出ていった。
おそらく翔太と洋が気にしたのは、
相馬ではなく、
ぼぅっとしているが
実際は何を考えているかわからない
池田の方だろうと思った。
屋上には数人の女子生徒がいた。
その中で
フェンスに手をかけて
寂しそうに校庭を眺めている1人の少女を
俺の目が捉えた。
葉山実果だった。
そこにはあの日、
元気にドッジボールをしていた
少女の面影はなかった。
「あっくん、こっちだよ」
翔太に呼ばれて俺は3人の許へ駆けた。
「どうしたんだ?
わざわざこんなところに来るなんて」
「念には念をって言うだろ。
ひひひ」
洋が意味深な視線を翔太と茜に向けると
2人は大きく頷いた。
「あっくんが休んでる間にね、
私達すごい場面を目撃したのよ」
「あれはすごかったね」
しかし誰もその続きを話し出そうとしなかった。
3人は俺の方を見てニヤニヤと笑っていた。
「わかったよ降参だ。
お前達が何を見たのか教えてくれ」
「探偵団たるもの少しは自分で考えないと
ダメだぜ」
「たしかに洋の言い分も一理あるね。
探偵は推理してこそだからね」
無理難題とはこのことだった。
推理しようにも情報がなさすぎる。
これで正解を導き出せる人間がいるのなら、
それは探偵ではなく超能力者だ。
それに今の俺は3人の話よりも、
視線の端に見える葉山の方が気になっていた。
「何だかあっくん、
私達の話にあまり興味がなさそうだわ」
茜の指摘に俺は
「そ、そんなことはないさ。
ただ何のことか本当にわからないんだ」
と慌てて誤魔化した。
「へへ。
実は僕達、ボス猿の弱点を見つけたんだよね」
その言葉に俺は少しだけ興味を覚えた。
「一昨日、すごい雨だったでしょ?
あの日の放課後にね、
私達少しだけ学校に残ってたの」
茜が言うには、
3人は校内で煙草が吸えそうな場所を
探していたらしい。
梅雨に入って
『楽園』で過ごす機会が減ったせいで、
ニコチンと刺激に飢えていた
と3人は悪びれることなく言った。
時に子供は恐ろしいことを考える。
学校で喫煙など、
それこそボス猿に見つかったら
ただでは済まないだろうに。
校内をウロウロと歩き回った挙句、
3人が出した結論は屋上だった。
傘を隠れ蓑に屋上の端で煙を嗜んでいると、
ドアが開いてナカマイ先生が現れた。
3人は急いでフェンスから煙草を投げ捨てて
ナカマイ先生の許へ駆け寄った。
「あら、みんなまだ残っていたのね」
「もう帰るところだよ」
3人は口を揃えて言った。
「雨だから気を付けて帰るのよ」
「はーい」
3人とナカマイ先生が
一緒に靴箱へ向かっていると、
途中でボス猿と出くわした。
「畑中先生、探しましたよ」
ボス猿はナカマイ先生を見るなり
鼻の下を伸ばした。
そして3人の存在に気付くと険しい表情になり、
「お前達は早く帰れ」と3人を追い払った。
「そこで素直に帰る俺達じゃないぜ」
洋が胸を張った。
「私達は帰るフリをして
廊下の角から様子を窺ったのよ」
その時のことを思い出したのか
茜は口に手を当てて「うふふ」と笑った。
その直後、
3人はこれまでに見たこともない
ボス猿の姿を目にした。
「畑中先生、
もしよろしければ
今晩どこかでお食事でも如何ですか?」
洋がその時のボス猿を真似て
大袈裟に頭を下げた。
「今日は私、
実家に用があるのですみません」
今度は茜がナカマイ先生の声色を演じた。
「そ、それなら私が家までお送り致しますよ」
「・・それは結構です」
茜の言葉に洋はがくりと膝から崩れ落ちた。
翔太が「そっくり!」と手を叩いて笑った。
「ボス猿の顔ときたらさ、面白かったよね」
「間抜けな面してたな。ひひひ」
「あんなに落ち込んでた猿田先生、
初めて見たわ」
3人はボス猿がフラれたと喜んでいたが、
俺にはナカマイ先生が
ボス猿の誘いを断った理由に心当たりがあった。
おそらく。
ナカマイ先生は実家の事情を
ボス猿に話していないのではないか。
そう考えるとこの時点では
2人はまだ交際していない可能性もあるが、
実際のところはわからない。
もしかしたら。
ナカマイ先生は
3人が盗み聞きをしているのを知っていて、
自分達の関係を隠すために
咄嗟に演技をしたのかもしれない。
「張り込みしてるみたいで面白かったよね」
「探偵には尾行と張り込みが付き物だからな」
「猿田先生って
自分の顔を鏡で見たことがあるのかしら?」




