湖面のさざ波から始まった奇跡——世界で初めて「声」が海を越えた日
#人類を変えた足跡シリーズ物語 第五十二回
1906年12月24日
人類初のラジオ放送:100年前のクリスマスイブに起きた奇跡
「1、2、3、4。そちらは雪ですか、Mr. Thiesen? もしそうなら、電信で返事をお願いします」
カナダ・オンタリオ州のピーターバラで休暇を過ごしていた Fessenden の気分は、最悪と言っていいものでした。彼はかつてエジソンの下で首席化学者を務め、シリコン合金や内燃機関、銃声定位システム、さらには立体駐車場に至るまで、一見何の関連もないような多岐にわたる分野で500以上の特許を取得した天才です。しかし、彼が最も情熱を注いでいた無線通信の分野では、イタリア人の Marconi が一歩先んじていました。Marconi は1896年にイギリスで世界初の無線電信を実現し、英国政府から7万6000ポンドもの賞金を手にしたのです。
風光明媚なピーターバラの景色も、失意の底にいる Fessenden の心を癒やすことはできませんでした。彼は湖に向かって石を投げ、ただぼんやりと立ち尽くしていました。しかしその時、湖面に広がった同心円状のさざ波が、彼の思考に一筋の光を差し込みました。「もし、声もこのさざ波のように、連続した波として無線信号に乗せることができれば、遠く離れた場所にいる人々にも届くのではないだろうか?」
当時は誰も、それが正しい道であるとは教えてくれませんでした。それどころか、1901年には宿敵 Marconi がイギリスからカナダのニューファンドランドへの大西洋横断無線電信に成功し、彼にさらなる追い打ちをかけます。
しかし、強大なライバルと長年競い合えるのは、自らもまたその高みにいる証でもあります。ついに1906年12月24日、マサチューセッツ州にあるナショナル・エレクトリック・シグナリング社の高さ128メートルの無線タワーから、Fessenden は自らの構想を現実のものにしました。
彼はこの日を、特別な思いを込めて選んだのでしょう。放送の中で彼は、聖書のイエス・キリスト誕生の物語を朗読し、自らバイオリンを演奏しました。それはあまりにも唐突で、短い放送でしたが、大西洋を航行する多くの船舶がその信号を捉えました。海の上で任務に就いていた通信士たちは、図らずも「世界最初のラジオリスナー」となったのです。
私たちがラジオに耳を傾ける機会は少なくなったかもしれません。しかし、今日ラジオをつけた時に流れてくる交通情報や流行歌、あるいは深夜の人生相談や、どこか怪しげな通信販売の広告に至るまで、そのすべては100年前の聖なる夜、あの短くも鮮烈な放送から始まったのです。




