忘却の河Letheon──人類初の麻酔が生んだ悲劇
#人類を変えた足跡 シリーズ物語 第二十二回
1846年10月16日
人類が初めてエーテルを公開使用した日
27歳の医師 Morton が、世界で初めて手術においてエーテル麻酔を使用した。彼はその後、特許を申請する際にエーテルを「Letheon(忘却の川)」と名づけた。ギリシャ神話で、その水を飲むと、生前の痛みの記憶を忘れるという忘却の川River Letheに因んでつけた。
しかし、Morton は思いもしなかっただろう。その「Letheon」は、彼自身、そして師である Jackson、友人の Wells ら、本来なら偉大な医師たちに、人生の終わりまで消えない苦痛をもたらすことになるとは。
手術の成功後、Jackson と Wells をはじめとする多くの医師が、「Morton よりも前にエーテルを使用していた」と主張し、彼を法廷に訴えた。訴訟に関わる地域や利害関係は複雑に絡み合い、やがてエーテル特許をめぐる争いは欧米を巻き込む大事件へと発展していった。
それ以降、3人の医師は互いを攻撃し合い、医学の理想よりも相手を貶めることに心血を注ぐようになった。エーテルは彼らに痛みを取り去る力を与えたが、皮肉にもその痛みは彼ら自身の心から離れることはなかった。
名誉と友情を失い、20年以上も続いたこの「名利の戦い」は、それぞれの悲劇的な最期によって幕を閉じる。Wells は獄中で自ら命を絶ち、Morton は脳卒中で倒れ、Jackson は精神病院で孤独に亡くなった。そして、各国の医師や機関が巻き込まれた「是非の戦い」だけが、エーテルの偉大さとともに、今もなお歴史の中に息づいている。




