表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過去改変に消えたタイムリープ主人公の代わりに、この時間軸に取り残されたドン底不幸なヒロインを救う  作者: でい
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/51

第8話 親しくない

 時間も余ったので、海から町の方へと散策の足を広げる。

 人通りは少なく、道の端に寄せられた緑葉が、海風に押されてくるくると舞っていた。

 町の景色は昔と変わり映えしない。たかが数年でガラッと変わっていたら、それこそ過去改変の影響を疑う。


「——汐見さんは町中を停電させる妄想とかしなかった?」

「……しなかった」

「本格的な雨乞いの儀式を試した経験とか」

「まったく」

「世界情勢について思うことは」

「ない」

「ベルマークに小数点以下の計算って必要だと思う?」

「思う」

「……あ、そう」


 他愛のない世間話が実に盛り上がる。

 ……あれ、僕って会話苦手だっけ?


 さすがに会話のネタも尽きてきた。

 ここまでの道のり、あらゆる話題を振ってみてもこの調子でスカされ続けている。

 返事だけはかろうじて返ってくるけれど。


 やがて小学校の付近に差しかかる。

 フェンスの向こうに広がるグラウンドは、記憶よりずっと狭く見えた。子どもの頃は地域のクラブに入って、サッカーばかりしていたっけ。なんだかノスタルジーを感じる。


「そうだ、汐見さんは——」


 何気なく口を開きかけて、言葉を止める。

 海での一件もあり、どの話題で地雷を踏むかわからない。

 それに、どれだけ振っても、響いて返ってこなければ虚しいだけだ。


 ちら、と彼女を振り返る。

 僕の視線に気づいたのか、どことなくムスッとした表情を返してきた。


「……なに?」

「いや、機嫌が悪そうだなぁ、って」


 すると、彼女は黙ってスッと手を差し出す。


「え、ふたりで気合いでも入れ直すの? えいえいおーってやつ。まあ、どうしてもって言うなら」

「……どうして離すの」

「ん?」

「どうして、手を離しちゃうの。離さないでって言ったのに」


 ——そうだった。

 防波堤から降りて、海辺のベンチでお弁当を食べた流れですっかり忘れていた。

 いや、多少は気にしていたけどね。

 辺鄙な場所とはいえ、付き合ってもない女の子と手を繋いで歩くのは、正直気恥ずかしい。


 けれど、今の彼女には止まり木が必要なのかもしれない。


「そうだったな。ごめん」


 素直にその手を取り直す。少し汗ばんだ手のひらから、人間らしさを感じられてホッとする。

 汐見さんの表情を伺うと、ほんの一瞬だけ口元が綻んだ気がした。すぐにいつもの無表情に戻ったけれど。


「……それで、さっき何を言おうとしたの?」

「あ、いや、汐見さんは小学生の頃、何か習いごとしてたのかなって」


 あとは話題の振り方さえ間違えなければいい。

 地雷処理ゲームをプレイしている感覚だ。


「習いごと……は、短い期間だけどピアノかな」

「お、なんだか似合う」

「あとは、うちでよく歌をうたってた」

「歌かぁ。伸び伸び育ったんだね」

「……おばあちゃんと、いつもふたりきりだったから」

「へ、へぇ……」


 あ、もしかして踏んだか?

 申し訳ないけど、祖母というワードが出ると地雷処理の難度はぐっと上がる。


「私のおばあちゃんはね、音楽が大好きで、歌番組は欠かさず見てたんだ」


 そう言って、汐見さんは番組名をいくつか挙げる。公共放送の長寿番組とか、年末の恒例特番。

 表情はほとんど変わらない。けれどその声の奥には、温かさの欠片が宿っているように思える。


「……だからアイドルになったら、テレビで見てくれるかなって」


 いい話なのに、おばあちゃんの影がチラついて冷や冷やする。

 でも、アイドル。

 噂のひとつは本当だったわけだ。

 隠していたと聞いたのに、まさか自分からカミングアウトするとは思わなかった。


「もう、アイドルは……」

「しない」


 言葉を重ねるよりも早く、強い拒絶が返ってきた。

 間違いなく、この先は踏み込めないゾーンだ。


 そんな会話の最中、ふとさびれた境内の前に出る。


「あ、ここ。白波神社の跡地だ。人の手が入らないと、こんなに荒れるんだな」


 入口には鳥居だけが残っていた。

 赤かったはずの柱は風雨にさらされてせ、灰色に近い。

 奥は瓦礫と枯れ草、雑草に覆われた荒れ地。あとは傷みの目立つ古い蔵だけ。なのに、不思議な威圧感を漂わせていた。


 ……いずれは切り出さなきゃいけない話題だ。


「この神社な、蒼一の先祖のものらしいよ」


 目をつぶるつもりで、親友の名前を出す。


「都筑蒼一。汐見さんは、あいつといつから知り合いだったの」


 タイムリープなんて摩訶不思議を、僕は完全に受け入れてはいない。

 でも、蒼一は確かに消えた。宙に浮いて、光に包まれて忽然と。

 そんな得体の知れない時間越えの能力を——目の前の彼女のために使った。

 あいつが物語の主人公なら、彼女はそのヒロイン。

 それだけの関係値がふたりの間にはあるはずだ。


「都筑くんとは、正直あまり親しくないの」

「……え?」

「ほんとだよ。話すようになったのも、二年生で同じクラスになってから」


 偶然、帰り道が被ったときとか——その程度。

 汐見さんは淡々と答えた。


「じゃあタイムリープってのも」

「……意味がわかんないよ」


 ——勝手に期待させられて、裏切られた気分。

 汐見さんの声には、冷たい響きが混じっていた。


 おいおい。

 まさか一方的な片思いの暴走で、あんな大立ち回りをしたのかよ。親友ながら天晴れとしか言いようがない。

 ごめん、汐見さん。

 彼、正義感は強いけど、見切り発車でマイペースなところがあるんですよ。どうか憎まないでやってください。


「そろそろ帰ろっか」


 展望台まで登る気力は、もう残っていなかった。


「最寄り駅だと学校の人にバレるかもだし、繁華街のほうで着替えを見てみようか」

「鳴海くんが選んでくれる?」

「えぇー……センスには期待しないでね」

「あと下着も」

「だからそれは自分で選びなさいよ」


 僕たちは並んで帰り路に着く。

 彼女の手を握ったまま。離さないでと、言われたから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ